第103話 感情というものは、行動によって変わるんだなぁ
このような質問への適切な回答、俺に求めるなよ。相手を間違えている。
内容的に俺が一番適切ではあるが、性格的に俺にしていい質問では無い。
「えっとぉ…………」
リヒトが本気で悩んでいるのが表情でわかるから、話を逸らすわけにもいかないし。でも、間違えた言葉を言ってしまうと、リヒトが今以上に落ち込んでしまう。
なんとか、こいつが落ち込まないように言葉を選ばなければならない。
考えろよ、俺。
――――――っ、て。あれ?
俺、今、リヒトが落ち込まないような言葉を探しているのか? なんでだ?
正直、俺自身にはこいつが落ちこもうがどうなろうが知ったことではない。
今後の活動に少々支障は出すかもしれないが、ここまで本気で悩む必要はないだろう。
なぜ俺は、ここまで本気で考えているんだ?
「…………あの、カガミヤさん?」
顔を俯かせ考えていると、リヒトが震える声で名前を呼んできた。
呼ばれても、俺は今すぐに何か返答するなど出来ない。
言葉が出てきていないし、自身の今の感情に戸惑っている。
「あ、あの。すいません。まさか、ここまで困らせてしまうなんて思っていなかったんです。あの、聞き流していただいて大丈夫なので……」
「いや、お前の質問内容にも確かに困ったが、それだけではない」
「それだけではない?」
「おう。お前が何を思っていても俺自身には特に関係ないから、難しく考えず答えればいいだけだろう。今回の質問」
今の言葉にリヒトは顔を引きつらせている。
素直に言い過ぎたか。
「それより、俺は今、言葉を考えていたなって思って」
「言葉を考えていた? つまり、私が傷つかないような言葉を選んでいたという事でしょうか? それって、カガミヤさん自身は私が傷つくようなことを思っていたという事ですね。そうですよね、私は回復しか出来ないただの落ちこぼれですもんね。属性魔法すらない、ただの、役立たずです。カガミヤさんの優しさが体にしみわたります」
「あ、そういう訳じゃなかったんだが……。まぁ、これが答えかもしれないな」
「え、なんのですか?」
「お前の、質問の答え。最初の時の俺は、お前らを利用して、現状から抜け出したい。その一心だったんだよ。利用しているだけだったんだ。だが、お前らの正直な言葉や行動。人を思える気持ちに触れているうちに、俺も情が沸いてしまったらしい」
最初の俺と比べると、断然今の方が甘い考えになっている。
利用しようしていたリヒトとアルカを傷つかないように、自分で言葉を選び行動していた。
しかも、無意識。
「…………えっと」
「つまり、今の俺は、お前らを利用しているのではなく、利用出来るとかでもなく。俺が、お前らと共にいたいから共にいる。お前らがどんなに弱くても、人の事を温める事が出来るお前らから離れる事なんて考えもしていない。これが答えでは、物足りないか?」
リヒトを見ると、我慢していたのか。
涙がぽろぽろと流れ、嗚咽を漏らしていた。
話している途中で思い出したが、リヒトはアルカと出会う前、他のチームに所属していたらしいが、自身が属性魔法すら使えないことで捨てられたんだったな。
おそらく、俺が強くなることで、こいつは自分が捨てられる、そう思ったんだろうな。
…………あぁ、なるほど。
模擬戦行く前、自分が強くなればとかなんとか言っていたのは、捨てられないため自分が強くなればいいと思ったからか。
目を擦り涙を拭いているリヒト、目が痛くなりそうだな。
「これこれ、目が痛くなるぞ」
リヒトの手首を掴み離させると、やっぱり赤くなっていた。でも、まだ涙が流れ続けている。
ハンカチなんてもんはないしなぁ、袖で拭こう。
「ほれほれ」
「むぐっ! あ、あの、服が汚れてしまいますよ!」
「これは後で洗濯すればいいからな。それより、泣き止んだか?」
お、涙は止まったみたいだな。
良かった良かった。
「あ、あの…………」
「ん?」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
リヒトの顔を覗き込み、頭をなでてやると、嬉しそうに微笑んだ。
まだ涙の跡は残ってしまっているが、安心したみたいだな。
お互いに笑っていると、部屋の扉が開かれた。
「リヒト、カガミヤはどうっ――…………」
――――――カラン
ドアの方を見ると、剣を落とし固まっているアルカの姿と、その後ろでヒュース皇子が口をパクパクと動かし俺の方に指を差している姿があった。
なんで、そんなに驚いているんだ?
「ま、まさか。二人っきりを利用して、チサトはリヒトを、口説いて…………?」
口説く?
何でそうなるんだ。何で俺がそんなことを言われなければならない?
改めて自身の体勢を見ると、あぁぁあ、うん、納得。
リヒトとの距離は近く、左手は手首を掴んだまま。
右手は頭を撫でており、リヒトの顔は涙の跡。
これは、勘違いするわ。
「へ、くどいっ――…………」
「断じて口説いてはいない。俺は、まだこいつのためにお金を使いたいと思った事はない。俺が女性を彼女にしたいと思う基準は、その人にお金を使ってもいいかどうかだ。リヒトに対してそのように思ったことは今までないから、俺が口説いていたという事実はありえない」
リヒトから手を離し距離を取りながら言うと、俺を疑っていた二人は納得してくれたが、隣からの殺気が鋭い。
鋭い視線という生易しいものではなく、殺気。
え、殺気???
アルカとヒュース皇子が顔を真っ青にして、俺の隣を見ている。
…………おそるおそる、隣を見ると、いたのはリヒトではなく、般若の面をかぶった
「カ〜ガ〜ミ〜ヤ〜さ~ん~。今のはいくらなんでも酷いんじゃないですか??」
「い、いや、ほら。勘違いされたままだと、これから行動しにくいだろ? な? だからここまでのことを言った方がいいかなって、そう思って…………だな…………」
後ろに下がるが、リヒトの目が俺を離してくれない。
だが、距離さえ離れれば俺は逃げきれっ――………
――――――ガシャン
「ん? え、足に、鎖?」
「逃がしませんよ、カガミヤさん?」
あ、般若の微笑み。
リヒトは、自分が弱いとか思っているみたいだが、絶対にそんなことはない。
だって、気配をまったく感じさせないまま、
何とか外そうとしゃがむと、上から影が差す。
向くと、近距離に般若…………リヒトが見下ろしていた。
「さぁ、何か言う事、ありませんか?」
「…………ゲンキニナッテヨカッタヨ」
「ありがとうございます。ですが、違いますよね?」
────ガシャン
……………………俺の両腕に鎖が巻かれたことにより、死を覚悟しました。
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