第102話 こういう時だけ、人の感情を理解出来ない自分に腹が立つな

 俺の拳が目の前で止まると、グレールは息を吐き手を叩き称賛の言葉をくれた。


「まさか、ここまですぐ戦闘技術をあげて来るとは思わなかったですよ。元々、戦闘能力は高かったようですが」

「いや、俺の身体は一般男性だ。魔力や魔法はチートだが、他はチートでもなんでもないよ」


 はぁぁぁあ、体が痛い、重たい。

 拳を下ろし、グレールから離れると、彼も剣を消した。今日はここまでらしいな。

 俺も、もう体が限界だ。


 だが、さっきの感覚、忘れたくないな。寝てしまって感覚が薄れないか不安。

 考えたところで意味はないかぁ、また明日グレールに付き合ってもらおう。


「グレール、また明日もよろしくな」

「はい。よろしくお願いします…………」


 …………ん? あれ、なんだろう。グレールの意識が俺ではなく違う所に向いているような気がする。

 ん?? 四方から刺さる視線??


 グレールから目を離し周りを見ると――…………


「し、死んだ…………」

「気づきませんでしたね。今はシールドを張っていますので大丈夫ですが、シールドを解くと、人の波にもまれてしまいそうです。解きますか?」

「俺を殺したいのならどーぞ」


 周りを見回すと、人、人、人。

 人の大群が俺達を囲っている。


 見ているだけで人酔いしそう、気持ち悪い。

 修行の疲労もあるだろうが、立っているのさえ辛くなってきた。


「あ、あの。大丈夫ですか?」

「…………ごめん、無理」

「え、あ、ちょっと!」


 意識がもう、保てない。

 近付いて来る地面、体が傾く感覚。

 意識が途絶える直前、感じたのは、誰かが俺の身体を支える感覚だけだった。


 ※


「…………ん」

「っ、カガミヤさん? 起きましたか?」


 あれ、俺、どうなったんだ?

 瞼が重たい……。でも、目を開けないと現状を理解できん。


 重たい瞼を開けると、心配そうに俺を覗き込んでいるリヒトの顔。


 …………ん? 顔?


 っ?! ちっか!!!!!


 これ、俺動けねぇじゃん。動いた瞬間、俺は犯罪者になる。

 ぶつかる、ぶつかるぞ。話すのも怖い。


 ひとまず手でリヒトの肩を押し距離を取らせ体を起こすと、部屋にはリヒトだけしかいないことはわかった。


「あの、大丈夫ですか? 痛いところなどはありませんか?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。リヒトは俺が起きるまでずっとここに居てくれたのか?」

「はい、心配でしたので。それに、一人の時に目を覚ましてしまうと、寂しいと思い……。なので、私はお留守番しておりました」


 お留守番? 

 他の奴らはどこか行ってんのか。


「他の奴らはどこに行ったんだ?」

「アルカの模擬戦に付き合っているみたいですよ」

「あぁ、なるほど。俺が寝てからどのくらい時間経っているんだ?」

「まだそんなに時間は経っていないです。三時間程度。なので、もう少しお休みいただいても大丈夫ですよ」


 まだ三時間程度なのか、一日とか経ってなくて良かった。


 見回すと、ここが城の中なんだとわかった。見覚えのある部屋だ。

 窓には海の中の光景が映し出されているから、今が夕方なのかも分からんな。

 時計はどこかにあるのか?


「あの、カガミヤさん」

「ん? どうしたんだ?」

「カガミヤさんは、私達黎明の探検者と共に行動してくださっておりますが、カガミヤさん自身はどう思っているのでしょうか」


 …………ん?


「お前は、いつも唐突に意味が理解できない質問をするなぁ。意図がわからんぞ、なんでそんな事を聞いて来るんだ?」

「カガミヤさん、強いじゃないですか」

「チート魔力と魔法を手に入れたみたいだからな」

「精霊もいて、一人で何でも解決してしまいます。今も、強くなるための修行しているので、もっともっと強くなります」

「お、おう…………?」


 リヒトが気まずそうに俺から目を逸らし、膝に置いている手を強く握っている。

 なんだろう、怖いな。この後、何を言われるんだ?


「貴方はもう、私達と居る必要性がないと思うんです。メリットがない。なので、カガミヤさんが今、何を思って私達と共に行動してくださっているのか、少し気になったのです」


 悲観しているような表情でリヒトがそんなことを質問してくる。


 そんなこと言われても、流れというか、ノリというか……。

 具体的な説明が出来ないんだが……どうしよう、これ。


「えっと、なんで今更そんなことを聞いて来るんだ?」

「カガミヤさんが執事さんと模擬戦を行っている時、ロゼ姫様と少しお話していたんです。”冒険者は、誰か一人が強くなればそのチームが強いという訳ではない。仲間を心から信じ、お互い高め合えてこそ、本当の強さ”と話していました」


 おぉ、さすが姫様。

 めっちゃええこと言うやん。


「その時、私は納得したのです。ですが、よくよく考えると、カガミヤさんと私ではつり合いが持てないのです。高め合えるほど、私は強くもなければ、信じていただけるほどの魔法がありません。そう考えてしまうと、私はカガミヤさんと共に行動するにはあまりに弱くて、役立たずなんじゃないかと。貴方が目を覚ますまでの間、考えてしまったのです」


 あーーーーーーーー。なるほどねぇぇぇぇぇえええ。


 これは、一つでも言葉を間違えると、リヒトが立ち直れなくなる。

 言葉は慎重に選ばなければならなくなった。


 さて、誰か助けてくれ、この俺を。

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