第101話 俺を挑発などいい度胸じゃねぇかよ

 リヒトとロゼ姫が知里達と合流するため、修練所へと歩いていた。


「リヒトさんは、本当に素敵な方ですね。仲間のためにそこまで本気で考えられる方は多くないですよ、もっと自信を持ってください」

「い、いえ。私は、そんな大層な人間ではありません。本当に出来る事は少ないし、頭は悪いし、感情で突っ走ってしまうしで。本当に、いい所がないんです…………」


 自分の言葉で落ち込んでしまい、ロゼ姫が「あらあら」と眉を下げる。

 そんな話をしていると、すぐに修練場にたどり着いた。


 すると、ロゼ姫が眉をひそめ「あら?」と、疑問を漏らす。


「え、なんで一つの所に人が集まっているの?」

「問題でも起きてしまったのでしょうか。グレールが居るので大事にはなっていないかと思いますが、急ぎましょう」


 駆け足で人込みへと行くと、二人の目の前にはグレールと知里の二人が映り、思わず言葉を失った。


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 グレールの魔法は氷、剣は氷で作っているため形は自由自在。

 さっきから死角からの刃に驚き、その隙を突かれていたが、今はもう体が慣れ反射で動けるようになった。


 今は拳に炎を纏わせ、氷の剣を振るっているグレールと一対一。

 近距離戦メインで行っていた。


「また、魔力が分散しておりますよ。先ほど、莫大な魔力をコントロールした時の感覚を思い出してください」

「わかってんよ!!」


 グレールの斬撃を避け、拳を振るいながら魔力を分散しないように集中。

 一切油断できず、意識をちょっとでも逸らしてしまえば首を取られる状況。


 そんな中、限界まで出した時の感覚を思い出し、無駄な魔力を抑えろって………。


 無理に決まってんだろ!!


「甘い!」

「っ、糞が!!」


 グレールの剣をギリギリで避け、体を懐に入れる。

 殴ろうと拳を前に振るうと、後ろへ避けられた

 すぐさま地面を蹴り一歩で距離を詰め、顔をぶん殴ろうと拳を前に突き出す。


 ガキン!!


 剣と炎の拳から銀同士がぶつかり合う音が鳴り響く。


 押し合いになると、剣は変化。

 一般的な剣の側面から、枝分かれするように刃が伸び、俺の顔を狙い目を潰そうとして来た。


 右手は動かせない。

 咄嗟に左手で防ぎ、右足を蹴り上げた。


「っ、!」


 俺の蹴りは、グレールが剣首けんしゅで受け止めたため、ダメージを食らわせる事が出来なくなった。


 体勢を立て直すしかない。

 後ろに下がり距離を取り、拳を握り直す。


 再度、グレールの方を見ると、剣を元に戻していた。


 はぁ、なんとなく魔力が分散しているような気がして嫌になる。

 意識をすればその感覚もなくなり、炎の拳は色を濃くしメラメラと燃えた。


「感覚は掴めてきたみたいで良かったです。それを戦闘中でも継続できるようになりましょう」

「口では何とでも言えるわなぁ」

「私はもうできますので。出来て、当たり前ですので」


 カチン


 おいおい、俺を挑発しているつもりか? 

 俺がそんな安い喧嘩に乗ると思ってんのか? お? 乗ると思ってんのか?


 乗ってやるよ、ぜってぇにダメージを与えてやるわ糞が。


 息を吸い集中力を高めると、グレールもまた剣を構え始めた。

 次こそは絶対に、傷の一つだけでも負わせてやるよ!


 地面を再度蹴り、先ほどと同じように拳を振るう。

 剣で受け止められても、何度でも。


 魔力が分散しない拳に集中し、振るい続けた。



 ――――――パチッパチッ



 ん? 炎の拳からパチパチと、何かが弾かれる音が聞こえる? 

 それはグレールにも聞こえたらしく、先ほどより警戒を高めやがった。


 隙を突くのが難しいな、今はこの音は気にせず無駄に集中力を使わないようにするか。

 意識はいつもと同じ、魔力の凝縮とグレールの次の動き、自身の攻撃のイメージ。


 拳を振るい続けていると、音がどんどん大きくなる。



 ――――――パチッパチッ



 グレールが剣を振り上げ切り裂こうとしてきたため、体を横に逸らし膝を折る。

 足払いをしようと右足を軸に左足でひっかけると、ジャンプで躱された。

 だが、地面から足が離れたという事は、動きは制限されるはず。


 膝を伸ばすのと同時に、下から炎の拳を振り上げた。



 ――――――バチィィイ!!!



 ひときわ大きい何かが弾かれる音が耳に届くのと同時に、炎の色が濃くなり大きくなった。

 それに伴い、グレールが目を開き剣で弾こうとするが、炎で溶かしてしまい地面に水がしたたり落ちる。


 そんなの気にせず、俺は拳を食らわせるため、右手を突き出した。



「…………」

「…………お見事です。さすがに、驚きました」



 俺の拳は、グレールの顔面すれすれで、止まった。

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