第100話 愛しの彼への想い
ロゼ姫とリヒトは、知里達から離れ城へと向かう。だが、城の中に入るわけではなく、出入り口付近にある白いベンチに座った。
近くには人がパラパラと居るが、それぞれ海の景色を楽しんでいたり、共にいる人との話に集中していたりと。個々で楽しんでおり、二人に気づいていない。
城の影にもなっている為、周りを気にせずゆっくりと話せる場所だった。
ロゼ姫が座り、リヒトも戸惑いつつ隣に座った。
横目で確認すると、ロゼ姫が最初に口を開きリヒトに声をかけた。
「リヒトさん、貴方はチサトさんがお好きなんですね」
「へっ!? す、好きというかなんと言いますか! い、いや、好きですが―――って、好きというのはそういう好きではなくてですね!?」
顔を赤面させリヒトはごまかそうとするも、気持ちが前面に出すぎてしまい、言わなくても良いことまで言ってしまった。
そんなリヒトを、ロゼ姫は無表情のまま見つめている。
「あ、いや、その…………。すいません…………」
「いえ、私も唐突に変な質問をしてしまいました、申し訳ありません」
「い、いえ!! こちらこそです、すいません!!」
ロゼ姫が頭を下げ謝罪したことにより、リヒトは逆に平謝り。
慌てて顔をあげさせた。
「私が聞きたかったのは仲間として、友人として。あのお方がお好きなのかだったのですが、先ほどの反応でわかりました」
「うっ……」
最後の言葉でリヒトは肩を落とし、赤い顔を両手で隠す。
何とか冷まそうと頬をムニムニしていると、ロゼ姫が微笑みリヒトの方に顔を向けた。
「貴方は、チサトさんの事が好きで。だからこそ、無理をしてほしくないのでしょう?」
「…………はい。カガミヤさんは、めんどくさがったり、報酬がもらえないとなると全然やる気を出さない駄目な人なのですが…………」
今の言葉には、さすがにロゼ姫も何も言えず苦笑い。
彼女の困惑など気にせず、リヒトは言葉を続けた。
「ですが、一度自分で決めた事には最後まで責任をもってやりきるんです。まぁ、やりきらなければ報酬がもらえないのが一番の理由なんだと思うのですが……。でも、報酬を手に入れるまでの間で、カガミヤさんは何でも一人でやってしまうんです」
「お一人で、ですか?」
「はい。口ではめんどくさいだの、やりたくないだの言っており、顔にもそう書かれていますが、結局はやってしまうんです。それも出来てしまうので、私がいる必要がないんですよね」
持っている杖をきゅっと握り、顔を俯かせる。
薄紅色の髪がひらりと肩から落ち、風にそよがれた。
リヒトの様子を見て、ロゼ姫は首を傾げた。
「私はチサトさんとは初対面に近いです。なので、まだわからないことが多く、何も言えません。なので、代わりに質問をさせてください」
杖を強く握っているリヒトの手を優しく包み、微笑みながら顔をあげさせた。
「貴方は、何故あのお方とチームを組んでいるのでしょうか?」
「え。それは、流れといいますか。カガミヤさんがこちらの世界に召喚され、ここに来た時に偶然私達が近くにいたからといいますか…………」
「つまり、貴方達が居なければ、チサトさんは冒険者としてここまで来ることは出来なかった。という事でしょうか?」
「それは結果論にすぎません。私達でなくても、カガミヤさんなら何とかここまで来ていたかと思います」
リヒトはどうしても、自分が知里と共に行動するに値しないという考えを改める事が出来ず、悲し気に眉を顰めた。
今まで自分が役に立ったのは指で数えられる程度。
アルカは戦闘の補助や今まで勉強して来た知識で知里の事を助けている。だが、リヒトは回復くらいしか出来ていない。
時々拘束魔法で倒しやすくなどはしたが、それくらい。
自分の事を認める事が出来ず、悲観していた。
「私は、何も出来ていないのです。ただの役立たず。それは、私が弱いからなんです。弱いから、カガミヤさんが抱えてしまうんです。なので、私がもっと強くなれば、カガミヤさんは無理をしなくていいんです」
「…………それは、違うと思います」
目線だけを下げていたリヒトは、ロゼ姫の言葉に顔をあげた。
彼女の藍色の瞳を見て、口を閉じる。
藍色の瞳は真っすぐリヒトに注がれており、彼女を離さない。
瞳に捕らわれてしまい、体を拘束されているわけでもないのに、目線を逸らす事すら出来ず、リヒトは吸い込まれそうになるのを感じながらも見つめ続けた。
「私は、チームや仲間という物がわかりません。今まで、様々な方に守られて生きてきたため、冒険者の方達がどのような道を歩み、どのような苦難を乗り越え今に至るのか、想像すら出来ません。ですが、外から見ていた私視点からでも、言えることがあります。冒険者は、誰か一人が強くなればそのチームが強いという訳ではない。仲間を心から信じ、お互い高め合えてこそ、本当の強さなんだと。これだけは、私でも言えます」
「な、何故そう、言い切れるのですか?」
「冒険者は皆、お互いを守っているように見えるからです。お互いに支え合い、高め合い。時には喧嘩をし、それでも仲間で乗り越えていく。そのような光景を、私は数々見てきたのです。そんな、素晴らしい
ここで一度言葉を切り、リヒトの紅色の瞳を見つめ、今まで見た事がない微笑みを浮かべた。
「貴方達三人は、お互いに高め合い、支え合えるチームと、私は思っております。チサトさんも、何でも一人でやるのは不可能ですよ。必ず、貴方達の手が必要です。なので、役立たずなどと言わないであげてください。信じてください、仲間を。信じてください、貴方の愛しの人が信じている、自分自身を――………」
ロゼ姫の言葉に、リヒトは目を大きく開き、輝かせた。
先程までの不安は今の言葉により流れ落ち、下げられていた口角は微かに上がる。
顰められていた眉は元の整った形に戻り、下を向いていた紅色の瞳は真っすぐ、ロゼ姫を捉えた。
「そうですよね。仲間とは、お互い支え合う物。私、勘違いしていました。カガミヤさんに無理をさせたくない気持ちでいっぱいになっていました。助言をありがとうございます」
「いえ、お役に立てたのなら良かったです。愛しの人に無理をさせたくないという気持ちはわかります。ですが、だからといって、その人の苦しみを全て抱える必要はないのです。一人が抱えるのではなく、チームみんなで抱えるのです。そうすれば必ず、希望は見えてきます。必ず、です」
笑みを浮かべたロゼ姫につられ、リヒトもまた笑う。
クスクスと、安心したような笑みを浮かべ、笑い合う二人。周りも二人に負けないくらい笑顔で包まれており、温かい空間が広がっていた。
「ふふっ。リヒトさん、私は貴方が羨ましいです。そこまでチームのために悩めるあ貴方が」
「え、なんでですか?」
「先ほども言った通り、私は外で見ている事しか出来ません。冒険者達の戦いやチームの尊さ。自身で感じる事が出来ないため、本当の理解などが出来ないのです。口では何とでも言えるため、口だけ達者と思われたくないのです。自身で感じて、冒険者の大変さを知り、命の大事さを感じたいのです。私の立場ではそれは出来ませんが……」
軽く笑うロゼ姫に、リヒトはなんと声をかければいいのかわからず、眉を下げ目線をさ迷わせていると、急にロゼ姫が立ち上がる。
「では、修練場へ行きましょう。今頃、頑張っているかと思いますので」
ロゼ姫はリヒトを立たせようと、手を差し出す。
今ここで掴んでも良いのか考えるが、なんと声をかければいいのかわからないリヒトは、彼女の手を遠慮がちに掴み、立ち上がった。
二人は手を繋ぎながら歩き出し、修練場へと向かって行った。
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