第97話 基礎は今まで誰にも教えてもらえなかったから仕方がない

 準備が整い、俺達は顔を見合せる。


 グレールも集中力を高めているからか気配が変わり、体に針が刺さっているような感覚が走る。


 鳥肌が立ち、体が震える。武者震いというやつだろうな、頑張ろう。


「では、行きます」

「おう」


 グレールが肘を後ろに下げ、顔横に構えると、膝を深く折った。


 独特な構えだな、突きか?


 考えていると、空気が揺れた。

 気づくと、目の前に剣の刃先っ――ちっ!


 体を咄嗟に横へ逸らし、伸ばされている手をながれるように掴む。

 炎で包み込み火傷程度させてやろうとしたら、炎が凍り始めた!?


 手を離し後ろに跳ぶと、俺の手に張った氷が解けた。


 まさか、炎が凍るなんて。ありえるのか? 

 相性的には、こっちの方が有利のはずなのに。


「今のを説明しましょうか?」

「…………お願いします」

「わかりました、単純な話ですよ。私の属性は氷、貴方は炎。相性的には貴方の方が強いです。ですが、一つだけ。相性を覆す方法があるのです」

「相性を覆す……。魔力量とかか?」

「そうです」


 でも、魔力量なら俺の方が多いだろ、確実に。チート魔力を持っているんだぞ。

 魔力量以外にも何かあるのか?


「貴方の方が魔力は多いです。ですが、それだけではないのですよ。一つにコントロール出来ていてこそ、相手の魔法を自身の魔法で消す事が出来るんですよ」

「消す事が出来る?」

「はい。自分の方が上回る事が出来れば、相手の属性魔法を今のように凍らせたり、同じ属性ならかき消す事が出来るのです」


 ん? 待てよ。今の説明だと。


 同じ属性はかき消す事が出来る。

 もしかして、アクアとやり合った時、俺の防壁魔法を破壊されたのって、アクアが水属性魔法を繰り出し、俺が魔力量で負けたからという事か?


 だから、弾けるように俺の属性魔法が消えたのか。

 俺が、負けたから。


 炎の纏われている手を握り、グレールを見る。


 この世界では、チート魔力だけではどうする事も出来ないのは痛いほどよくわかった。

 俺が持っているのは金棒、扱う鬼が強くなければ宝の持ち腐れ。


 やってやるか、金の為、報酬のために。

 全力で修行して、強くなり管理者を相手に出来るようになる。


 もう一度、拳に灯されている炎に集中し始めた。


「…………あの、質問してもよろしいでしょうか」

「っ、え、何?」

「今、貴方は何を意識しているのでしょうか」


 え、何を意識?


「えっと。魔力を拳に纏わせる事と、魔力量…………だな」

「なるほど、わかりました。それだと、戦闘がめんどくさいですね」

「めんどくさい?」


 戦闘はいつでもめんどくさいぞ。

 出来れば俺の一言で全ての物事が進んでほしい。


「相手が強者の場合、魔力もそれなりに魔法へ注ぎ込まなければなりません。今、貴方自身が魔法の威力をどこまで出せるのか、わかっておりますか?」

「威力? 今まで二回くらいは、怒りに任せ魔法を暴走させてしまっているけど。あれが限界ではないという事か?」

「それはリミッターが外れている状態なため、百パーセントではなく、それ以上を出している可能性があります。それを視野に入れてしまっては駄目ですよ。普段の貴方が、どこまでの威力を出す事が出来るか、制御が出来るか。それは理解していますか?」


 あぁ、それはさすがに意識していないな。

 俺の莫大な魔力を本気で出してしまうと、抑えきれない可能性があるから出すのが怖い。


「知らないみたいですね。限界は知っておいた方がいいですよ。自分はここまでが限界。だから、普段はこの魔法よりこの魔法を使おう。この魔法ならここまでは出せるな、などなど。感覚で理解できるようになった方が、戦闘はかなり楽になるかと。先ほどのようにアビリティに聞かなくても良くなります」

「つまり、感覚で魔力量を制御出来れば、そこに思考を回さなくていいから、戦闘が楽になるという事か?」

「そうです。魔力量のセーブや、逆に注ぎ込むとなると、体力や頭を使います。魔力量が多ければ多いほど大変のはずです。そのため、限界を知り、そこからメーターを考えた方がいいかなと思います。実践より、基礎。おそらく基礎、わかっていないようなので」


 …………よくわかったなこいつ。一回だけ俺と戦闘を行っただけなのに。


 基礎なんて全く知らない、威力だけで今まで乗り越えてきていた。

 誰にも教えてもらえていないからな、知るわけがない。


「基礎、教えてもらえるか?」

「ロゼ様のために動いてくださるのでしたら、お手伝いいたします」


 やっぱり、こいつはロゼ姫を一番に考える人なんだな。

 グレール見た人、そうそういないだろう。これは、いい出会いが巡ってきたかもしれない。

 

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