第96話 この悲しい気持ちを誰かどうにかしてくれ

 そういえば、アマリアが言っていた奴って誰なんだ?


 ヒュース皇子とは一度手合わせしているし、アルカとリヒトもないだろう。魔力のごり押しで勝てる。

 あぁ、でも制限があれば互角かな。アルカ、普通に強いし。


 でも、オスクリタ海底にって言い方していたし。ロゼ姫は無いと言っていた。


 残っているのは……。


「なぁ、ロゼ姫様」

「はい」

「お前の執事であるグレールさんなんだが、まさか、結構な、強さを、おもち……ですか?」

「グレールは、冒険者のランクで例えると、確かSSランクのはずですよ」

「SSランク!?」


 SSランクって……。

 俺は確かSランク。そこからランクは上がっていない。

 チート魔力をゲットしている俺より、強いって事か?


 アマリアが言っていたのは、こいつだな。良い修行相手。


「…………ロゼ姫様、執事であるグレールを借りてもいいか?」

「何をするおつもりですか?」

「修行の相手をしてほしくてな。強くなるには、何か難しい事を考えるより、感覚を掴んだ方がいいと思って。それと、二人からのアドバイスを実行しようかなと」


 カケルとアマリアからの言葉だからね、実行しないわけにはいかない。


「よく分かりませんが……。私は構いませんよ。ロゼ姫がお許ししていただければ」

「私も問題ありません。これで婚約がなかったことになるのなら、何でもします」


 よし、ありがたい。


「なら、さっそくで悪いが、一度手合わせをお願いしてもいいか? 今の俺の強さを確認したいんだ」

「わかりました」


 言うと、グレールを戦闘に城の外へと向かった。


 ※


 城から出ると、絶景が広がっていた。


 さっきセーラ村に向かった時は、時間短縮したくて城の中でワープを使ったから見ていなかった。


 窓に映っていた海の光景は、映像とかではなく、まじで海の底を映していたみたいだなぁ。


 城の周りは、海に囲まれている。

 道が作られている場所には、透明なトンネルが作られており歩くのには問題ない。水族館の中みたいな作りになっている。


 透明なトンネルを進むと、広場にたどり着いた。

 そこには警備員と、海底に住んでいる人達が楽し気に話している。


 女性は基本、水色のロングスカート。男性は藍色のスーツのような服が基本みたい。

 装飾も海の中を表しているのか、貝殻やヒトデ、何故か星などもある。


 綺麗な空間で目が奪われても仕方がない。


 アルカとリヒト、ヒュース皇子はここに来る時に一度見たらしいが、それでも周りを楽し気に見回しながら歩いている。観光名所を歩いているような感じだ。


 前を歩くロゼ姫とグレールを見ると、周りの人は一礼。道を開け楽に進むことが出来た。

 セーラ村やグランド国とは大違いで、俺は今回、人酔いしなくて済みそうで安心。


 そのままついて行くと、前方に光が見えてきた。

 あれは、爆発?


「喧嘩か?」

「いえ、この先にあるのは修練場なため、魔法でしょう。周りを巻き込まないようにされている為、安心してください」


 なるほど、修練場が準備されていたのか。

 周りへの被害がないのなら良かった。


 道を進むと、確かにアルカやリヒトのような。冒険者達が集まっていた。


「こちらになります」


 ロゼ姫が立ち止まり、俺達を前に促した。


「ほぉ、広いなぁ」


 学校の体育館何個分だ? 十以上はあるよな。

 何組かの冒険者が魔法を使い、お互いの腕を高め合ったり、師匠らしい人が弟子に教えている姿がある。

 皆、周りを巻き込まないように透明のシールドが張られていた。


 あれはどこにでもあるらしいな、周りを巻きこまない仕様だから本当に助かる。


「それでは、よろしくお願いします」

「あ、こちらこそ。一応、俺戦闘はまだまだ慣れていないから、手加減を頼む」

「貴方の実力に合わせたいと思います。ですが、貴方の方が強い可能性もある為、本気を出す許可も一応頂きたいです」

「問題ない」

「ありがとうございます」


 お、行ってしまった。

 アルカとリヒトに行ってくると言うと、手を振り見送ってくれた。


 グレールに付いて行き一つの円の中に入ると、自動的にシールドが張られた。


「では、貴方は基本、どのような戦闘方法を行うのでしょうか」

「あ、俺は基本炎と水の放出魔法。一応接近戦も出来るらしいが、まだそこまで試していない」


 一度ラムウの時に使った事があるが、あれは相手が怯んだ時に一発食らわせただけだから、ノーカウントだろう。


「わかりました。では、今回も放出系で挑むつもりでしょうか」

「そのつもりだが、魔力を一つに集中しないといけないらしいから、少し魔力調整に戸惑う。そこは目を瞑ってくれ」

「? 一つに集中? うまくコントロールが出来ず、辺りに散ってしまっているという事でしょうか」

「そういう感じだ」

「了解しました。それも確認させていただきますね。私は基本剣を使う為、近距離戦で失礼します」

「おう」


 言うと、グレールは何もない空間に手を伸ばし手のひらを広げた。


 何をするつもりだ?


 見ていると、グレールの手から冷気が現れ、氷の剣が作られる。

 開かれた手で握り、手に馴染んでいるか確認するためくるくると回すと、大丈夫だったらしく俺の方を向いた。


「こちらは準備完了です、貴方はいかがでしょう」

「あ、わりぃ。準備するわ。アビリティ」


 思わず見入ってしまった。

 アルカのようにいつでも背中に武器を抱えている人もいれば、自身の魔力で作り出す人もいるのか。


 アビリティを呼ぶと、魔法一覧を何も言わずに出してくれた。


『はい』

「ん、あんがと」


 相手が近距離という事は、俺も近距離魔法を確認しておいた方がいいよな。

 放出系の魔法を主体にする予定ではあるけど、近距離戦も出来るようになった方がいいだろう。


「接近戦に使える魔法も魔導書に添付されているよね?」

『はい、現在使える魔法は全て、魔導書に添付されております』

「一応、どれが使いやすいか教えてくれ」


 魔導書を取り出しアビリティに聞くと、ぺらぺらと開いてくれた。

 開き続けていたページが止まると、一つの魔法が光っている。これだな。


「これか、えーっと。fist flameフィスト・フレイム


 唱えると、拳に炎が灯された。

 これは、ラムウの時に咄嗟に炎を拳に灯らせた時と一緒?


『いえ、前回のはただ灯らせただけの炎です。今回のは、威力が違います』


 なるほど、確かに見た目が少し違う。

 色が濃いな、威力が違うのは明らかだな。


「そちらの魔法は、放出系ですか?」

「あ、わりぃ。ちょっと、近距離戦用の魔法があるのか気になっただけだ」

「そうですか。今回、そちらの魔法を使ってみるのもいいのでは? 魔力コントロールの修行には、放出系より纏わせる魔法の方が効果はありますよ。火王に集中しなければなりませんので」


 あぁ、そういうもんなのか。

 それなら、お言葉に甘えて今回はこの魔法を使わせえてもらおうか


「準備、整いましたか?」

「あぁ、待たせて悪かった」

「いえ、本当に色々と慣れていないんだなと。再把握が出来ました」

「…………はい」


 なんだろう、この、悲しい気持ち。

 心なしか、手に灯った炎もしょぼんと落ち込んでいるような気がするよ。

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