第98話 本気を出すのって、ここまで難しかったっけ?

「それでは、いかがいたしますか? 今日はこのまま模擬戦いたしますか?」

「いや、まずは基本をしっかりと身に着けたい。変に体を覚えさせてしまうと、直すのが億劫になる。体もついて行かない」


 歳にはマジで勝てないからな。


「わかりました。でしたら、ここではなく違う所に行きましょう」


 シールドを消すと、外で待っていたロゼ姫やアルカが俺達に向かって走り寄ってきた。


「どうしたんだ? 一回しか模擬戦してないだろう?」

「あぁ、場所を変えるだけだ。まず俺は、土台をしっかりとしないといけないという事を学んだ」

「土台?」

「あぁ、そうだ」


 横目でグレールを見るとロゼ姫の前で一礼し、俺と話したことを報告していた。


 おっ、俺の視線に気づきこっちを振り向いた。

 目が合っちまったな。


「…………では、参りましょう」

「おう」


 ロゼ姫にもう一度一礼をし、歩き出す。

 俺達も歩き出し、どこに向かっているのかわからないグレールの後ろを付いて行った。


 ※


 付いて行くと、今度は城の後ろにたどり着く。

 城の後ろだからなのか、人はいない。薄暗い道だけが続いているのみ。


「どこに向かっているんだ?」

「全力で魔法を出しても問題ない場所です」


 それだけでロゼ姫はわかったらしく、頷いていた。


 どういうことだ?


 首を傾げながら歩いていると、何もない所で立ち止まった。

 周りを見るが、前方に道が続くのみ。


 後ろは城、前は透明な壁。海の様子を見る事が出来る。


「ここで全力で魔法を出してもいいのか?」


 見た感じ、校舎裏みたいな場所。

 こんな所で放つと、城を巻き込んわないか不安だぞ。

 道は結構広いが…………。


「全力を出してもいいですが、放つのはこちらでお願いします」


 グレールが指した先を見ると、透明な壁に筒が差されている箇所を発見。

 海の方向に続き、ラッパのように筒が広がっていた。


「あれって…………」

「どんな魔力でも、オスクリタ海底の海は吸収します。なので、ここででしたら全力を出しても問題ないですよ」


 なるほどなぁ。

 ここって、魔力を本気で出せる場所としてあえて作られたのか?


「ちなみになんですが、ここは魔力の限度を図るために作られたわけではありませんよ。処刑場として作られたみたいです」

「一気に怖くなったんだけど、なに。ホラー?」


 ここって、処刑場だったの? 

 生首とか置かれてない? 大丈夫?


「もう使われていないですが、ここは昔、罪人の身体をこの筒にねじ込ませ、海へと放り投げたらしいです。運が良ければ助かりますが、悪ければ海の藻屑もくずとなり朽ち果てます」

「こえぇな!?」


 近くで見ると、筒の広さ的に、肩の骨を外せば人一人通れなくもない。

 これに体をねじ込ませ、海に放り投げていた? 罪人を?


 …………深く考えるのはやめておこうか。


「えっと、深く考えるのをやめた俺は、グレールに質問します」

「なんですかその口調。どうなさいましたか?」

「ほんとに全力で放ってもいいのか? 俺の魔力はチート級らしいぞ?」

「そう言われると、少々不安ですね。一応、アビリティで見せていただいてもよろしですか?」


 あ、その手があったか。


「アビリティ」

『はい』


 呼ぶとすぐに俺のパラメーターを出してくれた。


「……………………ひとまず、パラメーターが化け物だという事はわかりました。ありがとうございます」

「おう」


 冷静だなぁ。

 パラメーターを見た時、アルカとリヒトは固まっていたんだがな。


「これはちょっと、全力出すと筒が無事かわかりませんね。私の属性魔法で強化しておきます」


 グレールは言うと、筒の前に立ち、右手で筒に触れた。すると、霜が広がり凍る。


「これならそう簡単に壊れないと思いますよ。では、本気でお願いします」

「わかった」


 なら、flameフレイムでも出すか。


 何時ものように手のひらに炎の円球を作り出し、筒へと放とうと近づくと、グレールに止められた。


「本気でと言ったはずですよ。貴方の限界を知る為に今回ここまで来たのです。すべての魔力を使う勢いで行ってください」

「お、おう…………」


 厳しいなぁ。


「すぅ~、はぁ~」


 意識を魔力に集中し、炎の円球を大きくすることをイメージ。

 バスケットボールくらいの大きさだった炎の円球は、三倍以上の大きさになった。


 渦を巻くように俺達の目の前に炎の円球が浮かぶ。これなら許してくれるだろう。だが、筒に入るのか、これ。


 また筒に入れようとすると、またしても止められた。

 なんだよ!!


「まだ駄目ですよ、もっとです。もっと、本気を出してください」

「おいおい、これ以上魔力を注ぐと爆発するかもしれないぞ? 大丈夫なのか?」

「口が利けるという事は、まだ余裕という事です。限界を知ってほしいのです。周りは気にしないでください」


 そんなことを言われても……。

 気持ち的に大丈夫なのかと思ってセーブが自然とかかってしまうんだが……。


 グレールをじとっと見ていると、腰に置いている手が微かに光っている。

 魔法を出す準備をしているのか?


 あいつの後ろにいるロゼ姫も、祈るように胸元で両手を合わせている。そんで、グレールと同じく、魔法をいつでも出せるようになのか、手元が光っていた。


 なるほど、何が起きても対処できると、そう言いたいのか。


 俺の魔力量はアビリティで見ている。

 それでも全力を出せという事は、確実に無事に今回の件が終わるという事だよな。


 なら、今俺が出せる限りの本気を出そう。


 大きく深呼吸をし、目を瞑る。

 魔力を限界まで注ぎ始めた。


 目を閉じていても、目の前にある炎の円球が大きくなるのを感じる。それと同時に、魔力が急速に無くなっている感覚も。


 そうか、円球が大きくなればなるほど、多くの魔力が俺の意思とは関係なく魔法に吸い取られるのか。


 体が熱い、熱気を感じ始めた。

 それだけ大きくなっているという事。


 制御、出来なくなってきた。

 このままだと制御不能になる。


 歯を食いしばり制御しながら魔力を注ぎ続けていると、グレールから待っていた言葉が放たれた。


「筒に、入れてください」

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