オスクリタ海底

第92話 マジで一筋縄ではいかないな

「カガミヤ、何かいい事でも思いついたのか? 嫌な顔を浮かべているぞ? 何かを企んでいるような顔だ」

「アルカ君? 何でそんなことを言いながらもキラキラしたような輝かしい目を俺に向けているんだい? 言葉と表情が合っていないよ?」


 俺の顔がどうやら嫌な顔になっていたらしい。


 いや、それはいいんだけど、なんでそれで輝かしい顔を浮かべているんだよ。

 企んでいる顔を浮かべているのなら警戒しろよ。


「ま、まぁいいわ。企んでいるわけではないが、あいつが俺の魔法で焼かれていないのなら利用できないかねぇって思ってさ。誰かはお前らならわかるよな? 俺の魔法で、焼かれていない女、だぞ」


 俺の言葉で誰かわかったアルカ、リヒト、ヒュース皇子は驚愕。

 金魚のように口をパクパクとしていた。


 驚くのも無理はないだろう。

 管理者の一人、村や国、町を管理しているフェアズのことを使えないかと言っているのだから。


 俺は、あいつを許さない。人を大事にしない奴を、絶対に許さない。


 出来れば関わりたくはないが、関わらないとなると、この後あの手この手で俺達の邪魔をするだろう。

 今のうちに手を打っておくのも目的の一つ。


 今回のロゼ姫様の件、今後俺達が動きやすくなるために利用させてもらおうか。


「あ、またしてもカガミヤが嫌な顔を浮かべている」

「企んでいるような顔だね……。危険なことはしないでくださいよ、カガミヤさん……」

「あれは止めなくても大丈夫なのか? 管理者と関わるのは出来る限り避けた方がいいと思うのだが」


 止めなくていい、止めなくていい。

 どうせ俺はもう、管理者に目を付けられているみたいだし、避けたくても避けられない。

 なら、まずはぶつかっても良さそうなところにぶつかる。


 俺は安全面を配慮して考えているんだ、アクアとかの強い奴を避けているわけではない。

 断じて、そんなことはない。


「ですが、接触方法はあるのですか? 管理者となりますと、難しいかと思いますよ。神出鬼没、どこにいるのかは誰にもわからない。どうするおつもりですか?」

「確かにそうだが、一人なら、どこにいるのか大体予想は出来る」


 そう、一人ならわかる。

 セーラ村のギルドに行けば、会えるだろう………多分。


 ※


 今はアルカとリヒトと共に、セーラ村まで戻ってきた。

 新村長であるエレナは頑張っているみたいで、今はだいぶ村の活気が戻ってきていた。


 軽くエレナに挨拶をしてギルドへ直行。

 今回、ヒュース皇子はオスクリタ海底でお留守番。


 婚約破棄には時間がかかると思うから、今は怪しまれないように親交を深めているという対応を取ってもらった。


 あの場に居た全員、ヒュース皇子は女性だと知っているから問題なし。

 女子会プラス執事で女子会でも開いてろよと言ってきた。


 俺達は俺達のやるべきことを遂行するため、ギルドの中に入る。


 俺を見つけた受付嬢が身を乗り出し、目を輝かせた。


 目を、か、ががやかせっ──


 お も い だ し た。


「貴方は!!! あの!! イケメン冒険者さんのカガミヤチサトさんじゃないですか!! この村を出てしまったと聞いていたためもう会えないと思いました!! 来てくださりありがとうございます!!」


 受付から身を乗り出し、手をブンブンと振ってくる受付嬢。


 さいっあく!!!


「アルカ、今すぐに帰ろう、今すぐだ」

「思い出したな。セーラ村のギルドの受付嬢は、アマリア様が自ら選んだ女性だった。カガミヤが一番苦手とする相手だったっけ」

「おうよ、帰ろう」

「待て待て、聞かないといけないことがあるだろう。頑張ってくれよ、カガミヤ!!」


 俺が引き返そうとすると、アルカにローブを掴まれた。くそ、駄目か。


 仕方なく、アルカの後ろに隠れながら受付に近付いて行く。

 歩みを進める度、受付嬢の目は一層輝きを増していった。


 い、いやだ、行きたくない。

 俺は、行きたくないぞ……。


「来てくださりありがとうございます!!! そんなところで隠れていないで、さぁさぁ、早くお話ししましょう!! なんなら、これからカフェに行きましょう!!」

「アルカ、すべてを任せた」


 もう、無理だ俺は。

 さらば――


「本当に死にそうになっているぞカガミヤ!! 顔が真っ青だ!! しっかりしてくれ、カガミヤァァァアアアアア!!!!」


 眩暈が起こった俺を支え、アルカが遠慮なく受付嬢の前に立たせやがった。


 こいつ、容赦ねぇな。


「でへでへ、あ、あの。今回は、でへ、何かご用事が、でへでへ」


 …………死にたい。


 俺が逃げようとすると、奥の扉が開かれた。そこには、俺達が目的とする人物。


「来るとは思っていたよ、知里」

「あ、アマリッ―――」

「アマリア様ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」


 あ、受付嬢がアマリアに向かって跳び出した。


 飛んで行った受付嬢をアマリアはひらりと躱し、何事もなかったかのように俺達の方に歩いてきた。


 適応力、すげぇな。


「お前も、大変なんだなぁ」

「君ほどじゃないよ」

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