第91話 一番の近道を見つけたぞ
なんか、危ない感じの執事だけど、王と話したのはこいつで間違いないだろうし、グレールとやらに色々聞いてみるか。
「執事のグレールとやら、色々聞きたい事があるんだが、質問には答えてくれるのか?」
「ロゼ姫の許可があればお答えします」
忠誠心の塊だな、ある意味信用できる。めんどくさいけど。
確認のためちらっとロゼ姫を見ると、直ぐに頷いてくれた。
「すべての質問に答えなさい、グレール」
「了解しました」
よし、うん。これは、めんどくさい。
でも、答えてくれるようにはなったな。
グレールと話すには、ロゼ姫の了承が必要と覚えておこう。
「んじゃ、一応確認なんだが、グランド国の王と話をしたのはグレールで間違いないか?」
「はい、お話はさせていただきました」
「今後の動きは決まっているのか?」
「まず、婚約破棄について王妃にお話をと考えております」
「話、通じるのか?」
「…………まぁ、工夫をすれば…………」
あ、目を逸らしてる。
工夫って、何をする気だ?
「あ、あの」
「はい」
お? え、なに。
アルカが遠慮気味に手を上げた。
な、なんか嫌な予感……。
余計なことを言いそうな気がする。
やめてくれ、頼む、余計なことを言わないでくれ……。
「もし、困っているのなら、俺達も手を貸せたらと思ったのだが…………です」
嫌な予感的中。
おいおいアルカ君。めんどくさい事になるのに、自ら地獄へと入っていく気かい?
「それはものすごく助かるのですが、よろしいのですか?」
「あぁ、大丈夫だ! です!! ただ、ちょっと、お願いがあってだな…………です」
「なんでしょう」
「ほ、報酬を頂ければ…………」
………………何で俺を見るアルカ君。
「あ、その事でしたら安心していただいて大丈夫ですよ。報酬でしたら準備させていただきます」
「俺達は何をすればよろしいでしょうかロゼ姫様。報酬のために、俺は働きます」
ほう、アルカにしてはよくやったじゃねぇか。
ここで予想外に報酬を手に入れる事が出来る案件が現れた。
少々めんどくさいが、姫からの報酬は期待できるし、やるしかねぇ。
「…………よくわかりませんが、手を貸してくださるのでしたら願ってもない事です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、報酬をよろしくお願いします」
報酬はおいくら万円貰えるのだろうか、願った金を貰えるのだろうか。
考えただけでヨダレが出るな。
「では、チサト様、グレールと共に指示を出す立場として動いていただいてもよろしでしょうか。正直、私はこのような事は苦手なため、何も出来ません」
グレールと目を合わせると、頷かれてしまった。
ロゼ姫からの指示だし、そりゃ従うよなぁ。
俺も、頷くしかないから、仕方なく頷いた。
流石に少しだるいが、報酬がもらえる。頑張るしかねぇよなぁ。
「んじゃ、グレール、さっき言っていた工夫とやらを教えて貰ってもいいか?」
「…………できれば、これは最終手段として考えたいです。そのため、他の方法を先に考えませんか?」
「え、なんで?」
「気力が必要なのが一つと、チサト様の見た目でしたら確実に巻き込まれます。人に色んな意味で襲われる覚悟が出来ているのでしたら、この方法を行いたいと思います」
え、なになに、怖い怖い怖い。
え、そんな言い方ある? なんか、話を聞くのさえ怖くなってきたんだけど……。
「他の方法、探しませんか?」
「…………探します」
「安心しました」
本当に安心している。
そんなに、嫌な作戦なのか……。
これは、強制的に他の作戦を考えなければならなくなった。
でも、俺には王妃や跡取りなどなどの知識がない。
正直、何も思いつかない。
こういう時って、最初何をすれば……。
「──あっ」
「? どうかしましたか、カガミヤさん」
あるかも、いい方法。
※
オスクリタ海底は、グランド国から離れた港にある。
海の底へ行くためには、特別に作られたエレベーターを使うしかない。だが、警備が厳しく誰でも彼でも行けるわけではなかった。
港の周りは建物などはなく、見渡せる限り自然。
青空が広がり、鳥が自由に空を飛んでいた。
そんな、自然で溢れている丘の上には、黒いローブを身に纏い、茶髪を揺らす一人の女性が立っていた。
難しい顔を浮かべ、眉間に深い皺が刻まれている。
何かを考えるように唸り、そのうち諦めたのかその場から去ろうと振り返った。
「はぁぁあ、っ、きゃぁ!?」
「わっ、びっくりした」
「わ、私がびっくりしたわよ!! そこで何をしているのよアマリア!!」
振り返った瞬間、大人の姿をしているアマリアが目の前におり、驚きのあまり叫び声を上げてしまった。
「フェアズがこんな所で難しい顔を浮かべているから、なんだろうと思ってね。傷も癒えていないのにあまり出歩かないでほしいよ」
腕を組み、アマリアはフェアズを逃がさないよう前に立ち塞がる。
「べ、別にもういいでしょ。フィルムに治してもらったんだから。もう痛みはないわよ」
「今回使ったフィルムの回復魔法は、そこまで強力じゃないはずだよ。まだ、腕とかの火傷の傷は治っていないんじゃない?」
ローブで隠れている腕を指さし、アマリアは問いかけた。
隠すように腕を後ろに回した事で、治っていないのは丸わかり。
アマリアは呆れるようにため息を吐いた。
「ところで、何をしていたの? 知里が気になるの?」
「なに? 嫉妬でもしているのかしら?」
「うん」
「…………貴方のその素直なところも嫌い」
「管理者になる前は好きって言ってくれていたのに、残念だなぁ」
「うっさいわよ!」
頬を染め文句を言っているフェアズを無視して、アマリアは隣に立ち港を見下ろす。
「今、知里はオスクリタ海底の姫、ロゼ・クラールの親二人をどうにかするために動き出すはず。何か手を貸してあげたりはしないの? 相談を受けていたでしょ?」
「もう何もしないわよ。あくまで、私は村や国、町を守るだけ。土地を守るだけなのよ、それしかあのお方からはお願いされていないわ」
それだけを残し、今度こそフェアズはその場から姿を消してしまった。
残されたアマリアは、再度丘の上から港を見下ろし目を細めた。
「なんか、嫌な事を企んでいるような気がするんだよなぁ、知里なら。一番無謀だと思う方法でも、一番の近道になるのなら相手が誰でも使いそう。たとえ、管理者であっても――」
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