第90話 簡単にストーカーを許す姫様もおかしくないか?

 アビリティが簡単に話している時、ヒュース皇子とロゼ姫は何も質問することなくすべてを聞き終わった。

 沈黙になると、ロゼ姫が何かを考えるように顔を俯かせる。


「話しはわかりました。ありがとうございます」

『では、ここからは今後についての話となります。よろしいでしょうか』

「はい、お願いします」

『了解』


 質問とか特にないのか。それか、すべてを聞いた後に質問するつもりなのか。


 どんな話をしても、表情一つ変わらなかった。

 俺が異世界から来たという話をしても。

 ここまで冷静でなければ人の上に立つことなんて、出来ないのだろうか。


 いや、ヒュース皇子はだいぶ驚いていたな。

 人の上に立つからではなく、単純にこの姫がいつでも冷静なんだろうなぁ。


『主、聞きたい事はありますか』

「あ、そこは俺にぶん投げるのね。聞きたい事は山ほどあるからいいけど」


 まさかここでぶん投げられるとは思っていなかったから、質問内容まとめてなかったな。


 えっと……、まずは管理者についてでも聞くか。

 カケルが知っている内容を教えてくれるだろう。


「今までの話をぶった斬るが、まず。管理者について詳しく聞きたい。フェアズがどうなったのかも、もしわかっていることがあれば」

『わかりました。まず、管理者であるフェアズの行方ですが、Dragonflameダーク・フレイムにより深手を負い、その場から姿を晦ませました。最後、強い魔力を察知したため魔法を発動し逃げたのだと考えられます』


 魔力を察知かぁ。どのような魔法なんだろうか、今回ではわからなかった。

 フェアズの言葉に挑発され、感情を爆発させてしまった事を今更ながら後悔。

 せめて相手に属性魔法だけでも出させるべきだった。


『それだけではなく、森の出入り口に人の気配を探知しました。ですが、すぐに無くなったため、追跡不可』

「すぐに逃げ出したか、察知されない魔法を付与したとかだろうな」

『可能性としてはゼロではないかと思います。敵意はなかったため、今は保留にしてもよろしいかと』


 それもそうだな。敵意がないのなら別に気にしなくてもいいかぁ。

 また、俺達に敵意を見せてきた時、その時にでも対処を考えよう。


「わかった。ひとまず、今回の件は解決でいいの?」

『今のところは解決でよろしいかと思います。感染症の原因であるショスも無事に討伐完了。ヒュース皇子の護衛も、表面上は完了しております』

「――――――あ、本当だ」


 ヒュース皇子をオスクリタ海底への護衛、感染症の改善、モンスターの討伐。

 改めて思い出すと、確かに俺達が抱えていた依頼すべて完了してる。


 わぁ、マジか。こんなことある? 奇跡が起きたぞ、嬉しいなぁ。

 まぁ、これでももらえる報酬は護衛任務分だけなんだけどさぁ。


 それでも、なんか。もっと、報酬が欲しい。

 ここまで頑張ったのに割に合わない。


「チサト様、護衛依頼を受けて下さりありがとうございました」

「厳密に言えば護衛はしていないのだけれど」

「いえ、こちらとしては助かります。これで私は、グランド国の感染症を直す許可を頂けます」


 安心したように笑みを浮かべているロゼ姫。


「後はこちらで何とかします。冒険者の方々はお休みください」

「いや、休みたいのは山々だが、この後の事を俺達は聞かされていない。何か考えているのか?」

「…………何とかしてして見せます」


 なるほど、決まっていないわけね。

 今のままだと、表面上だけでなく、本当にロゼ姫の親に婚約させられちまうんじゃないか?


「グレールとも話し合っている途中なのです。なので、ご安心ください」

「グレール?」

「私の執事ですよ。来なさい、グレール」

 

 言うと同時に、ドアが静かに開かれた。


「お呼びでしょうか、姫」


 ほぉ、あいつが執事なのか。


 俺と同じくらいの身長だな。

 耳が隠れるくらいの水色の髪、鉄紺色の瞳は、顔を青くしているロゼ姫に注がれている。

 服は、一般的な燕尾服を身に纏っていた。


 声が低く、見た目とのギャップがあるな。

 見た目だけなら普通にさわやかイケメンだから、少し高めの声なのかなとか想像していたわ。


 無表情のまま部屋の中に入り、ロゼ姫の隣に立つ。

 前に座っている俺を見るが、何も口にせずまたしてもロゼ姫を見た。


 なんで今、俺をちらっと見たんだよ。なんとなくイラっと来た。


「ロゼ姫、もしよろしければ勝手に出歩かないでいただきたいです」

「でも、貴方は私を絶対に見失わないでしょう。いつでも後ろにいるの、気づいていますよ」

「それが私の使命です」


 ────ん? 普通に聞き流すところだったが、いや。え?


 あいつはストーカーか? それを普通に許すなよ、姫。

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