第89話 説明役がいると俺は話さなくてもいいから楽だな

 俺がベッドに座り直すと、ロゼ姫も近くに置かれている貝殻をモチーフにした椅子に座る。


「お話は聞かせていただいております、お疲れさまでした」

「あー、おー、うん、はい」


 これ、どういう感じで話せばいいんだ? 王と話すように話せばいいのか? 

 いや、今は何を話せばいいんだろうか。頭がまだ整理できていない。


「体調の方は大丈夫でしょうか? 痛いところなどがありましたら遠慮せずお申し付けください。治せるものでしたら、治します」

「あ、いや、それは大丈夫。怪我とかは特にないから」

「それなら安心しました」


 おっと、ここで会話が終わり? 

 これは俺から何かを切り出さないと、ずっとこの気まずい空気が続くの? 

 なんか、嫌なんだけど。


「えっと、あ。なぁ、アルカ」

「ん? なんだ?」

「フェアズはどうなったんだ? 結末まで俺、見る事が出来なかったんだが」


 俺が怒りに任せ、Dragonflameダーク・フレイムを出したのは覚えている。

 スピリトの力も借りて、一体を真っ赤にした記憶もあるんだけど、それ以降どうなったのかわからない。


 おそらく、魔力を全力で出し過ぎて強制睡眠してしまったんだろうな。

 魔力がなくなれば抗う事の出来ない睡魔に襲われ、長いこと眠りにつく。リヒトが一度それで、一週間程度寝ていたはず。


 俺が数週間寝ていたのは、魔力を入れている器がリヒトより何十倍も大きいから、その分回復にも時間がかかったんだろう。


 俺が質問するとアルカは眉を下げ、気まずそうに顔を俯かせてしまった。


 え、まさか俺、殺しちまったなんてことないよな? 

 まさか、死体はもう埋めた後で、何とかごまかそうと言葉を選んでいるとか? 


 …………殺す事を目的とはしているが、こんな形で殺すのはなんか違うだろ。

 いや、本当に殺すことはないと言いますか、なんと言いますか……。


 苦笑いを浮かべていると、アルカが重い口を開き教えてくれた。


「わ、からないんだ」

「え、わからない?」


 骨の髄まで灰にしちまったという事か?


「カガミヤが魔法を放った時、辺り一面火の海になって。唖然としていると、カガミヤはすぐに倒れちまって……。どうすればいいのかわからず動けないでいると、魔力を切らした炎の竜は自然と消えて、地面にフェアズがいると思ったんだが、何もいなかったんだ。燃やし尽くされたと言っても、何も残っていないのはおかしいし。忽然とその場から姿を消したみたいな感じだったんだ。だから、フェアズがどうなったのか、俺達はわからない」


 アルカの言葉を確認するため、リヒトとヒュース皇子を見るが、顔を俯かせ何も言わない。つまり、アルカの言っている事が事実ということ。


 忽然と姿を消したのか……。

 いや、管理者なのなら出来るような気がする。


 死んでいない、で良いよな。


 ────安心している自分がいる。殺す事を目的としているのに、実際殺してしまったと思うと焦った。


 俺には、こういうことは似合わないということか。そりゃ、そうだろうな。

 人を本気で殺そうと思った事なんて現代ではないし、殺したこともない。


 俺は、平凡な会社員で。家で貯金通帳を眺めほくそ笑むのを趣味としている、ただの会社員なんだ。こんな所に連れてこられる事すらおかしい。


 ……あ、夢の内容も思い出した。

 カケルが最後、糞な言葉を吐き出していたな。


「見当を祈る。異世界から召喚された、次なる英雄よ―――ねぇ。はぁ」


 俺の独り言にロゼ姫以外の三人は首を傾げている。


 んー、俺が見た夢をこいつらに伝えるべきか、伝えないべきか。


 伝えた時、めんどくさい説明を求められそうだなぁ。

 俺自身、よくわかっていないし、求められても困る。ここは黙っておこう。


 俺がめんどくさがっていると、指輪が急に光り出した。


『私がご説明いたします』

「お、アビリティか。俺もお前に聞きたい事が山ほどできたんだ、助かるよ」


 いきなり現れたアビリティに、アルカとリヒトは肩を震わせ、ヒュース皇子と姫は目を開き驚愕。


「アビリティが、話した?」

「話すアビリティ……。それは確か、百年以上前の英雄、カケル=ルーナが持っていたはず。なぜ、貴方が持っているのですか?」


 やっぱり説明を求められたか。

 これは俺よりアビリティが話してくれるだろう。


『では、最初から説明をさせていただきたいも思います。省略する部分もあり、簡潔になってしまいますが、ご了承ください』


 最初にお詫びを言って、アビリティが俺についてやカケルの現状を掻い摘んで話し出した。

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