第85話 自信過剰な人と話すのは死ぬほどめんどくさいしうざい
…………っ、ん?
なんだ、体が浮いているような感覚。これは、夢か?
『起きてくれ、鏡谷知里』
男性の声?
聞き覚えのある声だ、誰だっけ……。
『…………起きないな』
誰だっけ、この声。
思い出せない、誰だ。
『起きないのなら仕方がないな、水攻めするしかないな』
────っ!?
「待って!?!?」
起きなかったら俺、燃やされるの!? 何で燃やされるの!? 理不尽過ぎないか!?
咄嗟に体を起こすと、そこには見覚えのある顔があった。
横になっていた俺に合わせるようにしゃがんでいたらしく、体を起こしたことにより目が合った。
『おはよう、鏡谷知里』
「…………か、
か、駆? 俺の同僚の駆が、目の前にいる。
いや、同僚ではない。顔は同じだが、服装がまるっきり違う。
今、目の前にいる駆の服装は、男性版魔法使い的な感じ。
魔法使いのとんがり帽子、濃い青のロングコートにマント。長ズボン、革靴。
ファンタジー世界の魔法使いの服装だ。
後は、肩までの茶髪を後ろで一つに結び、耳はバチバチなピアス。
ゆかり色の瞳は優し気に俺を見ていた。
『そういえば、お前さんとお話しするのは初めてだったな。ずっと指輪を通して見ていたから、自己紹介を忘れていた』
え、俺、こいつに監視されてたの?
指輪を通してって事は、こいつ…………。
『改めて自己紹介をさせてもらうな。俺はカケル=ルーナ、お前さんをここに呼んだきっかけを作った人物だよ、よろしくなぁ〜』
片目をパチンと閉じ、星を飛ばしてきたカケルに殺意。
チャラい所は現代の奴と同じかよ、そこはもっと真面目キャラとか。
ギャップを出してもいいだろうめんどくさいな、うざいな。
『めんどくさいと思っている顔だな』
「めんどくさい」
『わざわざ口に出さないでくれよ、悲しいだろう』
肩をわざとらしくすくめ、悲しみのジェスチャーをするな。
「んで、ここはどこだ」
『おっと、そうだったそうだった。お前さんと話したい事があるから、意識だけを呼ばせてもらったんだ。俺が封印されている空間にな』
ん? 空間に呼ぶ? 意識だけを? どういう事?
『今俺は、ダンジョンに封印されてしまっている。管理者の手によってね。それだけでは飽き足らず、俺の意識と体を引き離したんだ。ここは、今の俺の住処として作った夢の世界。そう思ってくれればいい』
へ、へぇ…………。
管理者は徹底しているらしいな。
カケル=ルーナは誰よりも強く、唯一管理者にたてついた人物。
簡単に言えば、世界最強。
ただの封印だけでは簡単に解かれてしまう可能性がある為、意識と体を離させ封印解除をさせないようにしたのか。
あの管理者にここまでさせるなんて、こいつ。実力が未知数すぎるんだけど……。
今俺を見て来るこいつはニヨニヨと、気の抜けた笑みを浮かべている。
強いなんて思えないんだけど。マジでこいつ、強いの?
『さて、本題に移ろうか』
「あ、今までは本題ではなかったのか」
今のが本題ではないということは、他に何か話したいことがあるということか。
『何故、俺がお前さんを呼んだかだけど。理由は、俺の力を最大限生かしてほしいから』
「さすがにすべての魔法を使えは無理だぞ? 十、二十じゃねぇだろ。五十くらいはあったぞ、きっと」
まさか、あの魔法をすべて使えるためのアドバイスとかか?
いらんぞ、俺には無理だ。
『さすがにそれは要求しない、お前さんには無理だとわかっているからな。俺くらいにならないと扱えない魔法もたくさんある。そんな無茶ぶりは言わないさぁ~』
あっけらかんと言うこいつにまたしても殺意。
確かにさ? 俺はさ? お前と違ってこの世界は初心者よ? なんだったら、戦闘とか魔法もお前には遠く及ばないぞ?
だが、だがな? そこまで言われるのも癪に触るんだが?
苦笑いを浮かべていると、カケルが話を進めた。
『まず、魔力を無駄に使わない方法から。お前さんは今、魔力量に意識を集中しすぎて、無駄に拡散させてしまっているんだ。それだと普通、一発本気の魔法を出してしまえば睡魔が襲ってくる。他の人より魔力量が多いから、今まではなんとかなっていただけ』
あぁ、なるほど。
今まで、使わなくてもいい魔力を無駄に使っていたということか。
『一つに集中している時もあるけど、完璧ではない。もっと威力を一つに集中する事を意識するんだ。それだけでだいぶ変わる』
説明を聞いて、納得する場面が多々あった。
魔力が大量にあるはずなのに消費は激しかったなぁ。
精霊を使うと倍減るの早かったし。
あれくらいすぐに減るんだと思っていたけど、理由は別にあったんだな。
『まずはそこから試してみて。それだけで、戦闘要員ではない管理者とは互角に戦える。俺の魔力を引き継がせたのだから』
ニコニコと、うざい笑みを浮かべているこいつの顔に拳をめり込ませてもいいだろうか。もちろん、炎の拳を。
こいつ、自分に自信があるタイプの人間か。現代の駆との違いを発見。
あいつは俺に助けを求めていたし、逆に自分に自信はなかった。
仕事に限りだけど。
普段はよくわからんところで自信満々だったなぁ。
服のセンスやら髪型やらは超自慢されたっけ。
こいつの封印を解除するの、なんか嫌になってきたな。
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