第83話 管理者ってどいつもこいつも気持ちが悪いな

 鎖の中でもがき、逃げようとしているショス。

 早く炎で燃やそう、体を自由に変えられるのなら、鎖も急がなければ解かれちまう。


flameフレイムでいいか……」


 あの大きさなら大きな魔法を出し無駄に魔力を減らすより、魔力をあまり使わん魔法の方がいいだろう。


 手のひらに炎を溜め、すぐにショスに向けて放つ。


 ――――――バコン


 よし、小さな爆発音。無事に今回の依頼もクリアだな。

 今回は思っていたより簡単だった。


 何も知らなければくそつよモンスターだけど、話ならたくさん聞いていたし。

 ものすごく強く、SSランクの冒険者ですらクリアが出来なかったと聞いていたら、そりゃ、身構えるだろう。言う程ではなかったけど。


「さて、帰るか――どうした?」


 ん? リヒトがまだ爆煙に包まれているショスを見ていた。

 アルカとヒュース皇子も、リヒトの視線を辿り見ている。


「おいおい、なんだ……よ……」


 な、なんだ? 

 なんか、後ろから嫌な空気を感じる。

 体にへばりつくような、気持ち悪い何か。

 

 鳥肌が立つような気持ち悪い視線、体に突き刺さる視線。

 横に垂らしている手が自然と震え、額からは汗が滲み出てきた。


 この感覚、身に覚えがある。

 これは、管理者であるアクアと戦闘を行った時と同じ。


 死を、予感させる気配。


 ゆっくりと振り向くと、鎖の先に人影が見えた。

 シルエット的に、女性。細い何かを手に持っている。


 見続けていると、爆煙の中から勢いよく俺に向けて細長いなにかが放たれた。


「っ、なんだよ!」

「カガミヤさん!!」


 体を横にそらし何とか回避は出来たが、バランスを崩しちまっ――!


 またしても細く、しなる何かが迫ってきた。


 今度は体がしっかりと反応したため、横に回避。

 俺が元居たところを反射的に見ると、鞭が地面に垂れていた。


 何処から伸びているのか辿ってみると、一人の女性が小さくなったショスを大事そうに肩に乗せている姿。


 いつの間にかリヒトが作り出した鎖は粉々に砕け、消えていた。


「まさか、ショスをここまで苦しめてしまうなんてねぇ。さすがに思わなかったわ。さすが、アマリアが肩を持つだけの事はあるわねぇ。冒険者を名乗るのなら、これくらいなら出来て当たり前なのだけれど」


 赤い唇を横に引き延ばし、明るい茶髪をかき上げた。

 黒いローブを身に纏い、手には俺を襲っていたであろう鞭が握られている。


「お前、管理者の一人か?」

「あら、わかってもらえて光栄ね。そうよ、私は村の管理をしている管理者、名前をフェアズ。どうぞ、お見知りおきを」


 楽し気に細められた深緑色の瞳を向け、下唇を舐める。


 なんで、管理者が動いているんだよ、ふざけるな。

 くそ、今は絶対に戦えない。


 万全な状態でも、管理者と互角に戦うのすら難しいというのに。

 今はショスとの戦闘で魔力と体力が減っている。


 確実に、殺される。


 俺達が警戒していたら、フェアズがクスクスと笑い、ショスを撫でた。


「そう警戒しなくても大丈夫よ。ここで貴方達に牙を向けるようなことはしないわ」

「なら、何故今この場に現れた。まさか、ショスを俺達の代わりに倒すつもりで来たのか? 俺から報酬を奪い取るつもりか!?」

「…………最後だけ妙に力が込められているように感じたのは、私だけかしら?」


 肩をすくめ、フェアズはやれやれと顔を横に振る。

 なんか、わざとらしくて腹が立つ。


「まぁ、いいわ。今回、私が来た理由を簡単に説明するわね。貴方よ、鏡谷知里さん」

「お、俺?」


 何で俺なんだ? 

 俺はこいつをまったく知らない、今日初めて会ったはずだ。


 …………いや、こっちの世界に来てからバタバタしていたから、記憶が曖昧になっているのかもしれない。


 過去を遡り思い出そうとするが、やっぱり一度も会ってない……よな?


「アマリアのお気に入りがどのような方なのかを見てみたくなってね、今日は出向かせてもらったの」

 次あ、会った事がないのか。それならよかっ――…………」


 俺の記憶力に安心したのもつかの間、フェアズは誰の目にも止まらず俺の目の前まで来ていた。


 手を伸ばされ、捕まりそうになる。


「っ!!」

「あら、反応速度も速いのね。面白いわ」


 咄嗟に後ろへ跳び距離を取ると、フェアズはまたしても楽し気に笑う。

 下唇を舐め、伸ばした手は静かに下された。


 周りにいるアルカやリヒト、ヒュース皇子は驚きすぎて言葉すら出ない。

 俺も同じだ。体は反射で動いたが、頭は動かない。


「避けられてしまったのは残念だけれど、仕方がないわね。今日はここまでにしようかしら。これ以上貴方に関わると、アマリアがうるさそうだし」


 言うと同時に、手に持っていたショスをちらっと見る。

 うようよと手のひらの上で動いているショスは、フェアズに懐いているようで手を伸ばしているような形を作り出していた。


 次の瞬間――――…………



 ――――――グシャ



 生々しい音と共に、ショスが握りつぶされた。


 な、なぜ…………。

 なぜ、ショスを握りつぶした?


「はい、これで今回の依頼は完了ね。貴方は報酬を手に入れる事が出来るわよ、良かったわね」

「何を、考えてるんだ」


 こいつ、アマリアとも、アクアとも違う。

 視界にいれるだけで胸糞悪く、虫唾が走る。


「何を考えているか……ねぇ。村や町、国の事を考えている……で、納得出来るかしら?」


 いや、今お前絶対にそんな事考えていなかっただろうが、平然と嘘を吐くんじゃねぇわ。

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