第77話 取引が流れてしまった、残念

「確かに、実力は本物らしい。そこは認めよう」

「そりゃどーも。ところで、なんで俺はまたしても殴られたわけ?」

「顔がきもかったからだ」

「整っているとは言われてきたが、まさか顔を貶されるなんて。初めての経験をさせてくれてありがとう、何も心に響かないな」


 勝負が着いた直後、ヒュース皇子の前にしゃがみ、勝ってやったと笑いかけたら、なぜか飛んできたのは拳。


 近距離だったのと、咄嗟だったため避ける事が出来ず頬を直撃、ものすごく痛い。


「負けたのはお前が俺より弱かったからだろ。何で俺が殴られんといかんのだ。それと、お前からやりたいと言ったから今回の戦闘、やりたくもないのに俺はやってやったんだぞ。殴られるのはおかしいと思うが?」

「ぬしの実力を知らなければ、感染症の原因となっているモンスターと対峙する際困るだろう。どこまで任せて良いものなのか、どこまでならやれるのか。それを確認する意味でも、今回の戦闘は役に立った」

「それは、俺だけを確認しても意味はないだろう」

「何を言っている。チームのリーダーがそんなことを言う事は許さんぞ。甘えるな」

「甘えてなんかねっ──待って?」


 今の押し問答、おかしな点があったぞ。


「誰がリーダーだって?」

「ぬしがだ」

「ぬしって、俺?」

「他に誰がいる」

「リーダーは俺の他にいるけどな」

「は?」

「後ろに」


 指さすと、アルカが気まずそうに頬を掻いてお辞儀をしている。

 ヒュース皇子は俺とアルカを何度も繰り返し見た後、なぜか何も言わなくなった。


 自分の勘違いが恥ずかしくなったか?


 気まずそうに顔を逸らしたかと思うと、ヒュース皇子は小さな声でアルカに謝罪。そこは素直なんか……。


「…………すまない」

「いえ!! 俺がリーダーぽくないのが悪いので!!」

「そんなことはない。ただ、実力のあるものがリーダーだと勝手に決めつけていただけのこと。まだぬしは経験を積んでいないように見えたため、チサトが誘ったのだと思ったのだ」


 あぁ、なるほどね。

 確かにこの世界は実力主義みたいなところがあるからな。実力や魔力量だけだったら、俺が一番だもんな。

 だが、リーダーと考えるのなら話は別だ、俺はリーダー向きじゃねぇよ。それと、一番経験を積んでいないのは俺だ。


「まぁ、アルカがリーダーとかは今は関係ない。今回ので俺の実力はわかっただろ? 今後どのような動きをするか考えたいんだが、解放してくれるか?」

「そうだな。今後、どのように動く予定だ」

「感染症がモンスターによってなのなら、まずギルドに行こう。モンスターの情報を貰いたい」

「わかった。ギルドの受付に聞けばすぐに分かるだろう」

「それはどうかねぇ。ギルドの受付嬢は信じられんから、時間がかかる可能性がある」

「信じていない?」

「今まで色々あったからな、信じられなくなった」


 ヒュース皇子が首を傾げながらアルカとリヒトに目線を送るが、二人も気まずそうに目をゆっくりと横へそらした。


 何も答えない二人からまた俺の方に目線を戻し、問いかけてきた。


「ギルドの受付に何かされたのか?」

「あぁ、わざとBランクだったこの二人に、絶対に攻略させないよう高いランクのダンジョンへ行かせたり、間違えてSSランクに行かされたりとかな。あの時は本当に焦ったわ、死ぬかと思った」

「待て、その話はまことか?」

「嘘つく理由があるか? 金がもらえる訳がない事に頭を働かせたくないんだよ、つまり嘘ではない。嘘をつくと、今後も嘘をつき続けなきゃならんだろ、めんどくさい」

「そこまで言うという事は、事実なのか」

「当たり前だ」


 やっと信じてくれたか、この皇子。

 今までの俺達は本当によく頑張ったよ、つーかよく生きてこれたな。


「今のランクを聞いてもいいか?」

「俺はS。アルカとリヒトはAだ」

「SSランクのダンジョンはクリアしたのか?」

「そうだ。そこでよくわからんうざい精霊をゲットした」


 本当にうざい精霊だったな、うるさかった。

 今は静かに寝ているみっ――……


『誰がうざい精霊よ!!! 私のことはリンッ――――』

「はいはい、いい子だからここから黙っててねぇ」

『モゴゴゴゴゴゴ!!!!!』


 寝ていなかったのか、リンク。

 俺の顔横に突如現れ暴れだしたリンクの体を掴み口を押える。まだ暴れているけど、小さいから簡単に抑え込むことができるな。


 リンクを抑え込んでいると、ヒュース皇子が金色の瞳を大きく開き俺を見てきた。


「精霊が、二対?」

「やっぱり、精霊二体は珍しいのか?」

「精霊事態珍しいぞ。仮にSSランクを何度かクリアしていたとしても、精霊に巡り合えるのは一握り。いや、この広い世界の中で、指で数えられる程度しかいないと聞いている。それなのに、二体だって?」


 精霊事態珍しいのは知っているが、そこまで驚くのか。

 本当にうざいだけだぞ、リンクなんか特にうぜぇしうるさい。自分をお嬢様と思い込んでいる痛い奴だ。


「…………一体だけ、私に譲ってはくれぬか?」

「お前の全財産くれるのならいいぞ」

『ちょっと!!! 私をお金を手に入れる道具として売るのはおやめなさい!!』


 リンクが激怒したから、この取引は流れてしまった。

 都合よく金が手に入り、うるさい奴とおさらばできると思ったのになぁ。仕方がない。

 リンクが嫌がっているし、今回は諦めよう。なんで嫌がるのかは知らんがな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る