第76話 やっぱり俺は近距離戦は向かないな

 肌を触れる優しい風。青い空が広がり、雲が流れている。

 気持がいいなぁ、空を飛んでいる鳥のように、俺にも飛行魔法があれば自由に青空を駆け回れるのだろうか。


「おい、チサトとやら。本気で私とやりあう気はないのか」

「ない」

「なら、社会的に消してやろうか」

「申し訳ありません」


 権力を持っている奴を相手にすると本当にめんどくさい。


 今俺達は、城の中にある闘技場に立たされていた。

 無駄に広いフィールド、誰もいない観客席。


 なぜ俺がここに立たされているのか。何で目の前にいるヒュース皇子は剣を片手に持ち、俺を睨んでいるのか。


 その理由は、ヒュース皇子が権力を使い俺を脅し、無理やり喧嘩を吹っ掛けてきたからだ。


「SSランク以上のモンスターが相手になる可能性がある。失敗は許されない、ぬしの強さを確かめさせてもらうぞ」

「……………………」


 本当に嫌だ、嫌だ。何でだよ、嫌だよ。強さを確かめるってなんだよ、なんで俺なんだよ、ふざけるな。アルカやリヒトの強さを確かめろよ、俺じゃなくてさ。


「カガミヤ、肩を落とし過ぎ」

「このまま地面まで落としで脱臼する事が出来たら、この人と戦わなくても良くなるのかな」

「絶対にやめてくれ!!!」


 アルカの声が耳に響く。

 今は気分も落ち込んでいるんだ、これ以上げんなりさせないでくれ。


「始めても良いか?」

「駄目と言ったら始まらない?」

「では、行くぞ」

「俺の言葉がまるで聞こえていないようだ」


 仕方がない。腰に付けられている魔導書を手に持ち臨戦態勢。

 もう、何を言っても意味はなさそうだし、やった方が早い。


「では、参る」

「来い、返り討ちにしてやるよ」


 負けたくはないし、全力を出そう。


「――――っ!」


 っ、一気に距離を詰めてきた。

 だが、アルカと同じ動きなのなら対処は出来る。


 右手に炎を灯し、近づいて来たヒュース皇子に向けて放つ。


「甘い!!」

「だろうな」


 ヒュース皇子は炎の玉を避け上に飛び、剣を叩きつけてきた。

 後ろに一歩下がりギリギリ回避、再度flameフレイムを放つ。だが――………


「っ、早すぎねぇか?」


 一瞬の隙に俺の視界から、ヒュース皇子が消えた。


 っ、後ろから気配!


「っ、スピリト!!」

『はい!! ふぅぅぅぅぅうう!!!!』


 いつ、俺の背後を取った? 

 しかも、スピリトの攻撃をかすりもせず避けるなんて…………。瞬発力、異常すぎ。


「精霊を使うのは卑怯だと思うんだけど」

「俺の実力は精霊も含まれるだろ? 俺のもんなんだから」


 スピリトが居なかったら、今のはやばかった。


 背後への移動、速さ。

 多分、あいつの魔法なんだけど、属性はなんだ? 

 からくりを解かんことには、こっちは守りに入るしかない。


「ん? 地面が削れてる?」


 なんだ、地面に何か。すごいスピードの何かが通ったような跡がつけられてる。

 ヒュース皇子の足元に繋がってるな。


「もう一回、ゆくぞ」

「お、おう」


 今度もまた、俺の前に来て視界から外れる作戦か? 

 膝を折り、睨んでくる。



 ――――ダンッ!!



 っ、足音と共に姿が消えただと!? 

 いや、俺の動体視力では追い付けない程早い動きをしているんだろう。


 何処から気配が――――


「っ、後ろか!!」


 振り向くと目の前に刃先!

 手袋がはめられている左手の甲で咄嗟に剣を逸らし、顔を横に。

 微かに痛む頬、かすったか。


 顔横に伸ばされているこいつの右手を掴み、体を半回転。

 体をこいつの懐に入れ込み、背負い投げ。



 ――――――――バチッ



 っ、手に強い静電気!?

 思わず緩んだ手からヒュース皇子が逃げ出し、俺の背中を蹴り離れる。


 くそ、チャンスだったのに。

 つーか! 背中を蹴るな!! 痛いだろうが、ぎっくり腰になったらどうする!!


「危なかったぞ、今のは面白かった」

「そりゃどーも」


 やばいな、あいつ。何かのスイッチを入れやがった、表情から伝わる狂気。

 アクアと対戦した時と似ている体に走る寒気。


 まさか、戦闘狂とかじゃねぇよな……。


「私ももうそろそろ、本気を出そう」



 ―――――バチバチ



 あいつの周りに、電気。属性は雷か!!


「今度は気配を感じても、意味はないぞ」


 またしても、消えた。


 それこそ甘いな。

 気配を感じられないのは、一度経験してんだよ!!


absolute waterアブソリュート・ワーター


 魔導書が水色に光だし、水属性魔法を発動。

 俺の周りに広がる水、あいつはどこかでとらえられているはず。


「――――――――ごぼっ」

「あぁ、そこに居たんだ。本当に気配が感じなかったな」


 俺の周りに貼られた水の防壁、absolute waterアブソリュート・ワーター

 全方位に張られた水の膜。透明だから肉眼で確認は不可能、魔力感知も微弱だから難しい。これは、俺にとっての絶対防壁だ。


 …………初めて使った時に破られてますけど。


 俺の後ろ、少し上に浮いているヒュース皇子の姿を発見。

 息が出来ないし、水だから電気属性である魔法は使えない、感電するからな。


「ゴボ、ゴボッガ」


 逃げ出そうと藻掻いている。さすがに限界か。



 ――――――――パチン パン



 指を鳴らすのと同時に、水の膜が弾ける。ヒューズ皇子が力なく地面に落ちた。

 地面に蹲り、咳き込んでいる彼女の前に立つと顔を上げ俺を見てきた。


「────勝負あり、だな」

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