第69話 こんな事になるのなら、余計な事に首を突っ込むんじゃなかった

 さっき聞いた依頼は、今すぐ受けられないという事で、餓鬼の家に戻り詳細を説明。

 最初は納得いかない顔を浮かべていたリヒトだったけど、ギルドのルールだと説明したら渋々納得してくれた。

 餓鬼の家に居れば俺達も感染する可能性があるし、しょうがなく撤退。


 仕方がない、俺達が感染しちまったら意味はないし、明日の為に備えないといけない。


「大丈夫かな…………」

「今までの冒険者が失敗している依頼だ。そう簡単に解決するなんて思えないし、下手に手を出せば自体が悪化する可能性がある。今は粘ってもらうしかないだろ」

「そうですが、せめて進行を遅くするとか出来ないのでしょうか」

「その為の飲み薬なんだろ。効果があるとは言えないが、気は心ってやつで、少しはマシなはずだ」

「でも…………」


 リヒトが杖を強く握り、眉を顰め不安そうな顔を浮かべる。


 そんなに心配なのかよ、今日会ったばかりの餓鬼とその母親だぞ。

 まぁ、もう知っちまったからこのまま死んじまうのも後味は悪いが、今俺達が出来る事はない。


「俺達は泊まれるホテル、または宿を見つけるぞ。明日は初めての護衛任務だ、気を引き締めよう」

「カガミヤがそんな事を言うなんて……」

「正直に言おうか? 早く休みたいから今すぐにホテルを見つけろ。寝かせろ、俺を」

「そうだと思ったわ」


 呆れるアルカに眉を下げているリヒト。

 アルカは別として、リヒトには今何を言っても意味はないだろうし、ほっとくしかねぇな。


 不安な気持ちはどうする事も出来ないし、楽にさせてやる事も俺には無理だ。



 街を歩き、俺達は宿を発見。金は持っているから良かったが、結構高かった。

 一泊で五万ヘイトらしい、日本円でいうと五万円。


 どこの高級旅館だよ畜生が!!!!!


 ※


 …………結構いい宿だった。風呂も飯も文句なしのでき。俺にはこだわりがないからそのように思うんだろうけど。


 風呂は露天風呂だったし、月が綺麗に見えるように作られていた。

 飯もめちゃくそ美味かったなぁ。海鮮物が多かったが、ここでは海鮮が多く取れるのかな。それとも、有名なのか? まぁいいや。


 残りの時間は用意してくれた部屋で一休み。

 宿が用意してくれた肌触りが良い浴衣でベッドに横になる。


 今回は一人一つの部屋をゲット、一人でゆっくり出来るぞ、やったぜ。


 ベットに横になって天井を見上げる。木製の宿だから木目を数える事が出来るな。まぁ、数えないけど。


 …………久しく一人の時間がなかったな、そういえば。今のうちに色々聞いておくか。


「アビリティ」

『はい』

「俺をここに呼んだのは、お前の前主であるカケルだと言ったよな」

『厳密に言えば少し違います』

「あぁ、確かに違うか。厳密に言えば、誰かをこの世界に転移しろと言ったのがカケルという奴で、俺をこの世界に招待したのはアビリティ、お前だろ」

『はい』

「なんでお前は俺を選んだ。他の奴ではなく、俺を選んだ理由はなんだ」


 俺より才能に溢れている人間は五万といる。

 なんなら、俺は底辺の部類に入るだろう。そんな俺をわざわざ選んだ理由はなんだ。


「答えろ、アビリティ」

『申し訳ありません、今は答える事が出来ません』


 え、答える事が出来ない? そんな事あるのか?


「その理由は?」

『カケル様に止められています』

「なぜ?」

『それは、私への質問ですか?』

「…………いや、お前にではない。わかった、ありがとう」

『はい』


 指輪の光が消えた。

 アビリティが寝た状態になったんだろう。


 今の俺の現状、なぜこうなったのか。それを知るには、やっぱり当初の目的である、カケルの封印解除を完了しなければならないらしい。


 順調に事が進んでいるのかはわからんが、確実に前には進んでいる。

 このまま行けば、目的を達成する事は出来る。


 だが、管理者がそれを許してはくれないだろうな。

 カケルの封印を解除するということは、封印した管理者を相手にしなければならない。


 アクアは戦闘能力がずば抜けているみたいだか、他の奴らが分からん。

 今後どのように動いてくるか、警戒はしていこう。


「はぁ…………」


 明日は早い、考えるのはこのくらいにして今日はもう寝よう。

 どうせ、明日は予定通りにいかないのだから。はぁぁぁああ……。


 ※


『どうして、なんで。私は貴方の為に産んだのに。私は子供なんていらなかったのに。貴方が産めと言ったから。なのに、なんで産んだ瞬間に私を捨てたの? いやだ、なんで。いらない。貴方はいらない。私が欲しいのはあの人だけ。あんたなんて、やっぱり産まなければ良かった。こんないらない子、産まなければ良かった。あんたさえ居なければ――――…………』


 え、なにこれ。何で、俺は女に首を絞められているんだ。


 っ、声が出ない。振りほどく事も出来ない。

 何なんだ、なんなんだよこれ。苦しい、息が出来ない。


『いらない、あんたなんて。産まなきゃ良かった』


 なんだよ、この女。

 髪で表情を見る事が出来ない。誰なのかもわからない。


 何で俺はこんな見ず知らずな女に首を…………いや。見ず知らずじゃ、ない?


 知っている、この人を。いや、今の俺のこの状態、昔に何度もあった。


 手が、足が。金縛りにあったかと思うくらい動かない。

 声を出そうとしても出せず、目の前で何かぶつぶつ言っている女を見る事しか出来ない状況。


『あんたが居なければ、私が捨てられる事もなかった。あんたのせいで、私は、あの人に捨てられた』


 "あの人"とは、一体誰だ、わからない。


 あ、女が、顔をうごかっ――……






「お、かあさん?」

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