第65話 なんでトラブルというものは俺に舞い込んでくるんだよ

 はぁ、人込み、まじで、無理。

 前を歩く二人は元気でいいなぁ。俺の事も少しは気遣ってくれよ。


 あー、やばい、本格的に気持ち悪くなってきた。


「カガミヤさん、顔が真っ青ですが、大丈夫ですか?」

「リヒト、俺はもう死ぬかもしれない」

「死なないで!?」


 やっとリヒトが気づいてくれて、声をかけてくれた。

 アルカもそれに気づき、心配そうに顔を覗き込んでくる。


「本当に顔色悪いな。大丈夫か?」

「大丈夫じゃない、マジでここは地獄だ」


 活気が凄い、賑やか。明るくて、人の笑い声が飛び交っている。

 お店も明るい色で統一されて、視覚的にも見ていて楽しめるようになっている街。

 

「は、早くカガミヤが休めるように宿を取ろう」

「そ、うね…………」


 二人が俺の体調を気遣い、早く休める場所を急いで探してくれる。

 あんがと、助かるよ。マジでしんどっ――……


 ――――――――ドンッ


「おっと、なんだ?」


 足に何かがぶつかってきた。

 下を向くと、ぼろぼろの服を着ている餓鬼が立っていた。

 フードをしているから顔が見えず、女なのか男なのかもわからん。



 ガサッ



 ん? おー、マジか。子供がよくやるわ。


「すいませんでした」


 この声は、少年だな。

 そのまま走り去ろうとしている。やれやれ、やるならもっとうまくやれよ、慣れてないなぁ。


 手に小さな水の玉を作り、少年の足元に放り投げる。


「ちょっと待て、糞餓鬼」

「っ、うわ!!!!!」


 俺から離れた餓鬼がすっころんだ。

 いや、すっころばした、水の玉を引っかけて。


「な、な…………」


 顔面蒼白になり自分の足元を見ている。そこには、俺が放った水の玉が足にくっついてた。

 近づき、手に持っていた袋を拾い上げる。それは、俺が財布代わりとしてる袋。


 まったく、スリをするならもっと気づかれないようにしろよ。


「カガミヤさん、あの、これは…………?」

「見てわかるように、俺の金をこいつが奪った」


 アルカとリヒトが餓鬼を見下ろす。


「あの、怖がってませんか?」


 リヒトが言うように餓鬼の身体が震えてる。

 怖がるなら何でこんなことをしたんだよ。


「…………ちっ」


 周りからの視線も集まってきたし、居心地が悪い。

 まずったな、目立ちたくないのに。


「……………………はぁ。来い」

「え、あっ…………」


 水を消し、怯えている餓鬼を立たせる。

 歩いてはくれなさそうだな。どこか、人の視線を感じない場所……建物の影でいいか。


 餓鬼を抱えて建物の影に隠れる。

 視線からは外れた…………かなぁ。


 餓鬼を下ろすけど、逃げるようなことはないな。

 良かった良かった。


 後から遅れてアルカとリヒトも来る。


「さぁてと。おい、餓鬼。なんで俺から金を盗もうとした」


 聞いてみても、怖がって何も言わない。

 いやいや、怖がるくらいなら本当になぜ盗んだ?


「…………お金が、ないから」


 まぁ、普通な理由だな。

 趣味とかだったらここまで怖がりながら盗まないんだろう。


「なんでお金がないんだ?」

「…………」


 ここで黙るんかい。

 えぇ、どうすればいいの? おsれ、早く宿で一休みしたいんだけど。


 あっ、リヒトが動き出した。

 餓鬼の前にしゃがんで、安心させるように微笑みを浮かべる。


「僕はどうして、人からお金を盗まなければならなかったの? お母さんとお父さんは?」

「お母さんは、ずっとねてるの。起きられない。お父さんは、もう、いない。くすりがないと、お母さんが……。ぼく、一人はいやだ」


 大粒の涙を流し、餓鬼がリヒトに助けを求めた。

 そんな餓鬼を抱きしめ、リヒトは背中を撫でながら「大丈夫」と呟く。


 今の話で分かることは、父親は家を出て行き、母親はおそらく病気で寝たきりになっているという事だな。


 まったく……。最低な父親だな。

 病を持った母親と、まだ何も出来ないほど小さな餓鬼を残していなくなるなんて。

 さすがにめんどくさくても、俺はここまでの事はしないぞ。


「父親は死んでしまったって事か。さすがに母親一人では生活は難しかっただろう。それで、盗んじまったんだな」

「え?」

「え? どうしたんだよカガミヤ。珍しく驚いて…………」

「い、いや、何でもない」


 そ、そうか。父親の件、死んだ可能性もあるのか。

 勝手に脳が二人を捨てたと変換してしまった。


「あの、カガミヤさん。お金ならこれからも手に入ることですし、薬代と今後の生活費用として、少しでも分けてあげませんか?」

「……………………」

「うわぁ、酷い顔だぞカガミヤ。自慢のイケメンが崩れている」

「黙れ」


 何を言っているんだリヒト。金を渡すだと? 

 俺が命を懸けて、やっとの思いで手に入れた金をさっき出会ったばかりの餓鬼に渡せと?


「カガミヤさん、この子はまだ何も出来ない子供ですよ。大人である貴方が余裕を持たなくてどうするんですか?」

「だからなんだ、今金を渡してどうする。どうせ俺達がいなくなった後、同じ生活をしていれば金がなくなるのは時間の問題。薬だって高いはずだ。今回金を落としたところで、少しだけ生き永らえるだけ。意味はないだろ、どうせ今後また苦しむ羽目となるんだ」

「そうだとしても…………」


 リヒトの胸の中で泣き続ける餓鬼。アルカも眉を下げ何かを考えている。


 考えたところでなんだよ、俺は金なんぞ渡さんからな。

 溝に捨てるようなものだ、


「…………カガミヤの言葉を分析すると」

「分析せんでいいわ」

「つまり、今のままで金を渡すのは無駄って事だよな。なら、現状を打破できれば問題は解決するということだ!!」


 輝かしい笑顔を俺に向けるな。

 リヒトも俺を見上げるな。


「カガミヤ」

「カガミヤさん」


 アルカが俺を逃がさないように肩を掴み、親指を立ててきやがった。

 無駄に決め顔なのも腹が立つ。


 …………何なんだよこの二人、めんどくさい!!!!


「なぁカガミヤ。根本を打破すれば、いいんだよな?」

「……………………もう、どうでもいい」


 俺の返答に、二人は笑顔で喜びの声をあげやがった。

 もう、どうにでもなれ……。


 俺はなんでこうも巻き込まれやすい体質なんだ。

 こんな事なら、チート魔力なんていらなかったよ。

 俺は何の変哲もない、村人Zくらいの立ち位置でいさせてくれよぉ。

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