第63話 無駄話はここまでで勘弁してくれ

 依頼登録をして、詳しい依頼情報を貰い、部屋に戻った。


 まだ寝息が聞こえてくるからリヒトが起きていないのはわかる。空腹とかにはなっていないのか?

 アルカは部屋に入るなりリヒトに一直線。顔を覗き込み、まだ寝ていることを確認した。


「まだ寝てるな」

「そうだな。明後日までに起きればいいんだが」

「大丈夫じゃないか?」

「軽いな」

「今までも何回かあったから」

「なるほど」


 だからこんなに落ちついているのか。

 普段ならアルカの方が俺より慌てそうだもんな。


 そんな話をしていると……?


「ん…………」

「お」

「あ」


 寝返りをうったな、目を覚ますか?


「ん…………っ、あれ」

「あ、起きた」

「大丈夫か、リヒト」


 目を覚ましたリヒトが体を起こし、頭を支えてる。

 気持悪いのか? 筋力は大丈夫なのか、確実に落ちてるだろ。


「あれ、私。もしかして、魔力…………」

「そうだ、魔力切れ。リヒトは結構魔力を使ってたから仕方がないよ」


 確かにそうだな。


 男の傷も相当なものだったし、それを治してのあの大技。

 SSランクの前にBランクもクリアしている。魔力がなくなるのは仕方がない。


 ……………………俺は悪くない。だって、Bランクだと思っていたんだもん。

 休まずに次のダンジョンに行こうと言ったけど、俺は絶対に悪くない。


「そっか、また私は足手まといに…………」

「そんな事はないぞー」

「え?」


 目を覚ましたばかりで、気が滅入っているのは今の言葉だけでなんとなく伝わったわ。

 落ち込まれても困るし、伝えたい事が沢山ある。すぐに気を取り直してもらわんと。


「お前の拘束、あれでアルカは自由に動き回れた。お前らのおかげで俺は、魔導書に魔法を印字する事が出来た。それがなければ俺達は全滅していただろう。さすがの俺でも、魔導書が無ければ魔法を出すのに時間がかかり戦えなかっただろう。魔導書の力を最大限出す事が出来たのはお前の力もある。悲観するな、面倒臭いから」


 リヒトの紅色の瞳を見下ろし、腕を組み言い切る。

 これ以上の事を求めるのなら、俺ではなくアルカに頼め、俺はもう何も言えん。


 さて、俺は今日貰った依頼の確認だ。

 護衛は初めてだからな、段取りとかを確認しないと無駄なトラブルを引き起こしてしまう。


 そう思い、アルカが受け取った詳細が書かれている紙をテーブルから拾い上げ見ようとすると、何故か後ろから視線を感じる。

 振り向くと、笑顔を浮かべている二人が俺を見ていた。


 え、何?


「な、なんだ?」

「いや、あの……」

「カガミヤは優しいな!!」

「…………は?」


 なに言ってんだこいつ。

 リヒトもなぜか笑顔だし、なんなんだよ、気持ち悪いな。


「…………キモイ」

「はいはい」

「はいはい」


 …………くそ、腹立つなくそが。


 ☆


 リヒトに、二人のランクが上がったことと、今回受けた依頼を伝え下準備中。と言っても、特に何もしていない。

 結局行ったらどんな作戦も無駄に終わるのは目に見えている。


 休める時は休んで体力温存、これ大事。


「なぁ、明日が依頼を遂行する日だろ? ここからグランド国までそんなに時間がかからないとはいえ、早めに行った方がよくないか?」

「確かにな。ここからどのくらいの距離なんだ?」

「馬車で一時間だ」

「結構かかるな。どこが近いんだ?」

「一時間はあっという間だぞ?」


 アルカが目を丸くして俺に言ってくる。こればかりは感覚の違いだな。


 でも、そうか、一時間。

 確か、明日の待ち合わせ時間は朝の七時。今日のうちに向かって、あっちのホテルなどを借りた方が朝早く起きなくてもいいか。


「馬車ってすぐに手配出来るのか?」

「ギルドを通せば三十分くらいで頼めるぞ」

「なるほど。なら、急にはなるがこれから向かおうか」

「そうですね。ここに残っていたところで特に何もしないのでしょう。先に行って、あちら側の状況を確認した方がいいと思います」


 意外に分かってんじゃねぇか、リヒトよ。

 話が早くて助かるぞ。


「んじゃ、さっそくギルドに話を通そうか。カガミヤはいっ――……」

「絶対に行かない」

「迫力が凄いな、会いたくないという気持ちが全力で伝わってくるぞ」

「当たり前だ」


 リヒトが俺達の会話を聞いて不思議そうに首を傾げているが、俺の圧で聞いては来ない。


 だって、うん。聞かせるわけにはいかない、あんな醜態。

 というか、あんな話をしたらリヒトの嫉妬の炎が燃え上がりそうだから言えない。


 俺は悪くないのに、何故か俺が睨まれるんだよなぁ。

 告白も何もされていないのに、なんで嫉妬されないといけないのか。


 …………リヒトから時々感じるあの視線って、嫉妬だよな? 

 俺の勘違いだったらただの自意識過剰な痛い奴だぞ。まぁ、どっちでもいいけど。


「んじゃ、行ってくるぞ」

「任せた」

「行ってらっしゃい」


 アルカはそのまま部屋を出て行った。


 ……………………隣から、視線。言っても言わなくても、こうなるのかぁ。

 どうするのが一番なんだよこれ、誰か助けて。


 口を閉ざし続けていると、リヒトが我慢出来なくなり質問してきた。


「何があったのか説明してください」

「…………断る」

「理由」

「…………なんとなく」

「理由になっていると思いますか?」

「俺がなっている言えばなっている」

「本気で思っています?」

「うん」


 あ、言葉を詰まらせた。この勝負、俺の勝ちだな。

 こんなんで言い返せなくなるのか、これからも何とか誤魔化せそうだな。


「カガミヤさんのいじわる」

「何とでも言え」


 その程度で俺に口で勝とうなど、百年早いわ。

 こっちは汚い男どもを相手にしてきたんだぞ、簡単に相手を足らえないと仕事すらまともに出来なかった。


「もういいです。カガミヤさんだから、私の心配しているような事にはならないと思うし、聞くのは諦めます」

「そうだな、俺が女に惚れたり見惚れる事はない。安心しろ」

「そうじゃなっ――――私もそんなんじゃないから!!!!!」


 え、そこまでの態度を出しといてその言葉? 無理あるって、諦めろ。


 リヒトが顔を赤くして怒っていると、アルカが戻ってきて、馬車の手配が出来たと言ってきた。


 よしっ、いつでも出られるように準備しておこうか。

 ふてくされながらも、リヒトは準備を始めてくれた。


「何かあったのか?」

「なんにも」


 アルカに質問されたが、正直答えるのはめんどくさい。

 そのまま無視し、準備を終らせた。

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