第62話 今後の為にもいろんなことに手を伸ばしておこうか
アルカに殴られ、俺はふてくされながらアルカと受付嬢の話が終わるのを待っている。
今回のは絶対に俺悪くないのに、なんで俺だけが痛い思いしないといけないんだよ、納得いかないわ。
「俺達のランクでも行けるダンジョンってまだ残っているか?」
「ダンジョンメインで回っているのですか?」
「あぁ、ランクを早く上げたいと思っているんだ」
「そうですか……」
ん? なんか、受付嬢の声のトーンが落ちたな。
「何かあったのか?」
「毎日、何かはあるのですが」
それはそう。
――――あ、こいつの思考アマリアと少し似ている気がする。
いや、似せているのか? どうでもいいか。
「えっと、今回はダンジョンではなく、依頼をこなしていただけないでしょうか」
「依頼? どんな依頼だ?」
「護衛依頼が入っているのです。ですが、どなたも受けてくれず……。でも、期日がもうないのです。明後日には誰かにお願いしなければならない状況なんですよ」
そんなにめんどくさいのか。それなら俺も断る。
ダンジョンで宝をゲットした方がいいだっ――……。
「そうか、なら俺達でやろうか?」
「本当ですか!?」
!? おいおいおいおいおいおい!!!!!
なに勝手に話を進めているんだよふざけるな!! 俺は絶対にしないからな!!
「なぁ、カガミヤ、いいよな?」
「絶対に嫌だ。なんで俺達が汚れ任務をしないといけないんだよ。大体、護衛任務なんて俺には向かないし、全く知らん奴を守ろうとも思わない。知っている奴だろうと俺は自ら守ろうなんて思わなっ――……」
「なぁ、その任務の報酬はいくらだ?」
おい、俺の言葉を遮るな。
今回の依頼、今までずっと断られているという事は、それだけめんどくさいということだろ?
今回はどんなに良い報酬でも断るからな。
なんでも俺が金だけで動くと思うなよ。
「報酬は皆様が断るので今はだいぶ上がっており、百ヘイト以上となっております」
「その護衛の内容をもっと詳しく教えてくださいませんかね」
「切り替え速すぎだろ、カガミヤ」
百ヘイト以上か、まぁまぁいいだろう。護衛というのがめんどくさいが。
というか、なんで誰も受けないんだ? 護衛対象が最悪なのか?
「そうですね。こちらを確認していただけるとわかりやすいかもしれないです」
受付嬢が俺に一枚の紙を渡してきた。
今回は前回のSSランクのような事は絶対に繰り返さないために、じっくりと見ないといけないな。
いつものように手を伸ばし紙を受け取ると――腕を掴んできた?
「おぉぉぉおお。細い、これでSSランクのモンスターを倒したというのですか。色も白い、活発な感じはしませんね。これがしゃべる指輪ですか? 見た目はただの指輪…………っ、て、え、これって…………」
「カガミヤぁぁぁぁあああああ!!!! しぬなぁぁぁぁぁああ!!!」
「え?」
突如右手を無造作に触られ、思わず意識が飛びそうになりました。
※
「もう嫌だ、怖い。女って怖い。俺、もう近づきたくない。助けてアルカ。俺はもう無理だ、怖い怖い怖い怖い…………」
「ここまでカガミヤが怖がるなんてな…………」
アルカの背中に隠れ、肩を強く掴む。
そんな俺が面白いのか、受付嬢は涎を垂らしながら見てくる。
と、鳥肌が…………。
こういうのが一番嫌なんだよ、マジで。
殺してもいいんならもう腕の一本や二本吹っ飛ばしている。
「な、なぁ、カガミヤが怖がっているからその辺にしてくれないか?」
「もう、照屋さんなんだから!! きゃっ!!」
おい、なにかわい子ぶって「きゃっ」とか言っているんだ。
やめてくれ、もう、俺が死にたい。
「ひとまず、説明が書かれている紙を渡してもらえないか?」
「わかりました。こちらになります」
今度はアルカが受けとり、俺は肩越しに覗き見る。
そこには護衛対象について書かれていた。
護衛対象
グリント国の皇子 ヒュース=アグリオス(二十五)
頭が固い、口数が少なく、人を信じない。人の話を聞かない。
…………短い文章の中でも伝わる嫌な予感。
人の話を聞かないって、絶対にめんどくさいじゃん。
「あの、受けてくれますか?」
「受けるしかないんだろ、報酬が欲しいのなら」
「あ、ありがとうございます!」
「笑顔で言うな、俺はお前の為ではなく報酬のためにやるんだ。勘違いするなよ」
「つ、ツンデレさん…………」
「黙れ。まぁ、話を聞かないと言えど、力技で何とかなるだろ」
グランド国か。どんな所なのだろうか、予想が出来ない。
それだけでなく、護衛の相手は皇子。
変な事をすれば、こっちが処罰を受けるかもしれない、下手な事はしないように気を付けんといけないな。
今回の依頼は絶対に失敗する訳にはいかない。
だって、だって!! 報酬が百ヘイト!! やる切るしかねぇ!!
「悪い顔してるぞカガミヤ…………」
「そんな顔も素敵です!!!!」
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依頼登録をし、去って行く知里とアルカの後ろ姿を、手を振りながら笑顔で見届ける受付嬢。
完全に二人の姿がなくなると、先ほどまでの笑みを消した。
目を細め、顎に手を当てる。
「あの指輪は、確かカケル様の持っていた物。なぜ、あの者が持っているのでしょうか……」
疑問が自然と口からこぼれ出ると、辺りが突如暗くなる。
目を開き辺りを見回しているが、受付嬢はどこか冷静。
そんな彼女の後ろに、少年の影が現れた。
「エトワール」
「っ、アマリア様ぁぁぁあ!!!」
受付嬢の名は、エトワール。満面な笑みを浮かべ、勢いよく振り返った。
影の正体は、少年姿のアマリア。視界に自分の大好きな人が映り、感情のままに飛びついた。
飛び込んできたエトワールを軽く避け、アマリアは何事もなかったかのように見えない床に倒れ込み、泣いている彼女を見下ろした。
「君、知里と会ったでしょ。何か気づいた?」
「グスッ、え、えぇ……。指輪が、カケル様と同じものを付けているようにお見受けしたのですが……」
むくっと起き上がると、鼻を擦りながらアマリアの質問に答える。
「そうだね、それは僕も思った。今後、どういう動きをしていくのか、しっかり見させてもらわないといけないね」
「……………………ところで、アマリア様は今後の事、お考えで?」
ゆっくりと立ち上がり、エトワールは鋭い瞳をアマリアに向ける。
その目から感じるのは、微かな殺気。
「…………まぁ、色々ね。同じ失態は繰り返したくないし」
「それは、カケル様の時の事を言っているのでしょうか」
「まぁね」
アマリアは気まずそうにエトワールから目を逸らす。
そんな彼を見て、エトワールは笑みを浮かべ立ちあがった。
「やはり、アマリア様は管理者とは思えませんね」
「君のリーダーを殺そうとしたけどね」
「でも、殺さなかった」
「殺せなかったの間違いだよ」
「それはどうでしょうか」と、エトワールはアマリアを見る。
まだ顔を逸らしているアマリアは、エトワールの言葉に苦い顔を浮かべた。
「まぁ、どちらにしろ、今後どうなるかは、知里の動き次第だよ」
それだけを言うと、アマリアは指を鳴らし消える。
エトワールは元のギルドに戻され、空を見上げた。
「――――カケル=ルーナ様、貴方はまた仲間の私達に何も言わずに企みましたね? ふふっ、貴方らしいです。何百年も生きていたかいがありました。また、共に冒険が出来る日を祈っています」
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