第56話 何があっても必ず信じる

 久しぶりの感覚だ。

 リヒトと一緒に初めてダンジョンに向かった時以来か。


 嫌がるリヒトに無理言って、鎖で足場を作ってもらったっけ。

 あの時のモンスターは低級の低級だったが、あの時の俺は本当に怖くて、勝てないんじゃないかって思ってたなぁ。


 怖くて、二人で逃げ回っていた。

 それでも負けられなくて、負けたくなくて。咄嗟にこの技が思いついたんだよな。


 低級モンスター相手に、ギリギリで勝った時は本当に嬉しかった。

 でも、中級からは無理になった。


 この技は、相手の動きを封じることはできる。だが、トドメはさせない。

 俺に、トドメを刺す力がない。魔力の消耗も激しいし、俺の体力もすぐに削られる。だから、使ってもマイナス要素しか無かった。


 でも、今回は違う。今回は、しっかりと信じられる仲間が増えた。

 俺達より何倍も強くて、必ずトドメを刺してくれる仲間ができたんだ。


 だから、この技を使う。不安は無い、必ず倒してくれるとわかっているから。


 カガミヤなら、絶対に倒してくれる。だから、俺は、隙を作りカガミヤが倒しやすくするだけ。


 ――――いや、それだけじゃない。

 少しでもダメージを与え、消耗させてやる!

 

「──くっ!」


 剣で切りつけるけど、全く意味はない。

 でも、効果がないような攻撃でも、重ねればまた違う。


 効果が無くてもいい、傷がつかなくてもいい。

 少しでも、役に立ちたいんだ。


 っ、下から強い魔力を感じる。これは、リヒトじゃない、ラムウでもない。


 何かをやっているんだな、カガミヤ。

 何かを準備しているような気がする。なら、絶対にラムウの視線をカガミヤに向かせるわけにはいかない。


 リヒトの集中力が続くまで俺との勝負に付き合ってもらうぞ。


 ラムウの黒い瞳に映る俺、まるで何かを待っているような瞳に体が震える。


 ――――――――ガシャン


「!? リヒト」


 鎖が少し、揺れた。いや、崩れかけた。

 下を向くと、リヒトが息を切らし膝を突いている。


 chainチェインは、集中力が分散するからうまくコントロールが出来ず、長続きしないと言っていたな。


 それに、今はダンジョンを立て続けに攻略している。疲れてしまうのは無理ない。

 俺も、普段の訓練をしていなければもう倒れ込んでいるだろう。


 正直、足がもう疲労で震えている。

 剣を握る手にも力が入らない。体力だけでなく、魔力も少なくなってきているんだ。


 くそ、俺に魔力がもっとあれば……。

 そうすれば、リヒトに無理をさせないのに。


「…………カガミヤ、頼むぞ。本当に」


 ここまで来て、負けたくない。

 SSランクだろうと、俺は必ず勝つ。勝って、このダンジョンをクリアしてやる。


 もう、何も手にしないでダンジョンを出るなんて、絶対に嫌だ!!!!


「お前はカガミヤの手によって葬られる。絶対にな!!!!」


 ――――――――ピキ


 っ、今、手ごたえを感じた。

 もしかして!!


 移動しながらラムウを見ると、小さく、胸辺りに傷がつけられている。

 あれは、俺がやったのか?


「やった!! このまま何度も傷をつける事が出来れば!!!」


 こいつを弱らせる事が出来る!! このまま、鎖を使って――……


 ――――――ガシャン!!


「え、鎖が――……」


 鎖が、崩れ落ちた?

 下にいるリヒトが地面に倒れ込んでいる。魔力がなくなった……のか?

 魔力は、無くなると本人がどう抗おうと気を失ってしまう。

 

 ――――まずい、俺がいるのは上空、足場はない。


「あっ…………」


 顔を上げると、地面に落ちていく俺の姿が、黒い瞳に映る。

 隣には、人や物を吸い込んでしまう事が出来る球体が複数。この後、何が起きるのか簡単に予想が出来る。


 やめろ、やめてくれ。俺はまだいける、動ける。なのに、なんで。


 体が動かない。


 ――――ギャウァァァァァァァアアアアアア!!!!!!


 ラムウの声で、周りに浮かぶ球体が放たれてしまった。


 声が出せず、体すら動かす事が出来ない。

 俺は、何も出来ないまま、迫ってくる球体を見ているしか出来ない。


 い、いやだ。いやだ、なんで――……


「カ、ガミヤ。たすけて――……」


 震える口から出た声が届いたのか、それとも届かなかったのか、わからない。ただ、今感じるのは、吸い込まれるような感覚と――――微かな、熱気。


「そいつはおそらくまずいぞ。だから、吸い込むのはやめてあげてくれないか。turboflameトュルボー・フレイム


 下からカガミヤの、気だるげな声が聞こえた。

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