第57話 これが強制睡眠か納得だ
アルカが殺られる直前、本当にギリギリのところで炎の竜巻で球体をかき消し、ラムウの動きを封じる事が出来た。
『全ての魔法の添付を完了いたしました』
「……………………事後報告をどうもありがとう」
あっっっっっっっぶねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!
あともう少し遅かったらアルカが球体に吸い込まれていた。
さすがに、焦った、マジで。
『ふにゅ~~~~~~~!!!!!!』
「あっ、スピリト、ファイト」
空中に投げ出されたアルカは、スピリトが服を掴んだおかげで地面に叩きつけられずに済んだみたいだな。
スピリトは辛そうだけど、頑張ってくれ。
さてさて、急いだとはいえ。これ、どうしよう。
――――――――ギャァァァァァァァァァアアアアア
炎の竜巻に囲まれ、声を荒げるラムウ。
そうなるわなぁ、逃れようと壁を壊す勢いで暴れるよなぁ。
俺も同じ立場だったら暴れまくるわ。
アルカが危険だと思い、咄嗟にぶっ放したからな。
魔力の制御とかを考えなかったら、炎の海と言ってもいい位に、竜巻がラムウを囲っている。
ここまでの威力を出せるのかぁ……。
俺の魔力、すげぇ。
「さて。このまま焼け落ちてくれれば嬉しいのだが、SSランクだもんなぁ。油断してはいけないな」
アルカは無事に着地し、隣に移動してくる。
「カガミヤ、ありがとな!」
「礼はいらん。とどめを刺してくる」
今は俺が竜巻で取り囲んでいるから身動きが取れないみたいだし、近づいて確実に殺すか。
両手には炎が灯されている、熱くも痛くもない。
赤く燃える炎が灯っているだけ。
「終わりだ」
肘を頭の後ろまで下げ、ラムウの腹部に狙いを定める。
今更俺に気づいたみたいだが、もう遅い。
足に力を込め跳び、引いた右手を前に拳を付き出した。
辺りに響き渡る轟音、爆風が広がり視界を覆う。
――――――――ギャァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!!
今までに無いほどのラムウの叫び声で耳が痛い。
俺が地面い足を突けるのと同時に、ラムウの身体は傾き倒れた。
トンッと、俺も着地をし倒れたラムウを見るが、動く気配はない。
もう大丈夫だろうか、動かないか。
一応竜巻を消し、顔付近に近づいてみるけど、息はない。
呼吸音も聞こえないし、舌を出して絶命している。
俺が確認している後ろから、アルカの不安そうな声が聞こえた。
「…………終わった、のか?」
「らしいぞ、難は去った」
アルカは笑顔になり「やったな!!」と、拳を出してきた。
これは多分、あれだよな。男同士がよくやるあの、拳をぶつけるやつ。
うーん、まぁ、いいか。
「おう」
コツンっと、お互いの拳をぶつけた。スピリトも笑みを浮かべている。
とりあえず、モンスターを倒す事は出来たが……。
「リヒトは大丈夫なのか?」
聞くと、アルカは倒れているリヒトに駆け寄り頭を支える。
俺も近くまで行き、リヒトの顔を覗く。
「これは…………」
口元に手を持っていくけど、息はしっかりある。というか、今は落ち着いているようにも見えるな。寝息が聞こえるし。
これって完璧に――――
「寝てるよな」
「寝てるな」
やっぱり、寝てやがる。おい!!!!
「やっぱり、さっきのchain《チェイン》で魔力を使い切ったらしいな」
「あ、そういえば。魔力って無くなると強制的に気を失うんだっけ」
「そうだ」
アルカはふらつく足でリヒトを抱えながら立ち上がる。
お前もぼろぼろじゃねぇか。今にも倒れそうなんだけど、大丈夫か?
「わっ、わっ………」
っ、おい。転びそうになったぞ。
何もないところに躓きそうになっていた。
「……………………はぁ、貸せ」
「え」
そんなフラフラな足取りで歩かれても迷惑なんだよ。
リヒトを奪い取り、片手で持つ。
結構軽いなぁ、親が子供を抱っこする時ってこんな感覚なのか?
……………………顔近くにリヒトの顔があるから、首に髪が当たってくすぐったい。
「ぐっすり眠っているな」
「相当疲れたんだろ」
「カガミヤが抱っこしているからじゃないのか?」
「その顔やめろキモイ、にやつくな。あと、俺はそのノリは苦手だ、反応に困る」
学生のノリは本当にやめろ。
お前の年齢は普通に学生だけど、社会人である俺にそのノリはきつい。
「あははっ、珍しいカガミヤを見る事が出来て俺は嬉しいぞ。んじゃ、報酬を貰いに行こうぜ」
「…………ちっ」
無邪気に笑いやがって。これだから餓鬼は嫌なんだ。
「はぁ…………」
…………まだ、無邪気に笑ってる。
楽しそうにしやがって……。
こんな無邪気な笑顔、大人である俺はもう、浮かべる事は出来ないだろうな。
いや、俺だから、浮かべる事が出来ないのかもしれないな。
『別に子供なんて欲しくなかったのに。あの人が産めと言ったから生んだのに。なのに、どうして私を捨てるの…………なんで…………』
――――っ、女の声、餓鬼の頃よく聞いていた涙声。頭に封じ込んでいた記憶が、疲労のせいか、蘇る。
この時の記憶は、確か俺がまだ五歳くらいの時だったか。
父親は、俺が生まれてすぐにいなくなり、母親は嫌々ながらも俺を育てていた。
俺はいつも罵声を浴び、見えない所を殴られていた。
その時、俺はいつも、思っていた事があった。
『俺が苦しんだ分、こいつももっと、苦しめばいい』
俺だって生まれてきたくて、生まれてきたわけじゃねぇ。
だが、それを今更気にしたところで、もう俺を罵倒していた人はどこにもいない。思い出すだけ無駄だな。
「…………はぁ」
「ん? どうしたんだ?」
「いや、何でもない」
俺は、なぜ生まれてきたのだろうか。
これは、もう誰にも分らないだろう。
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