第53話 初心者だろうとちがかろうとこれはマジであり得ない

 ふざけるな、ありえない。

 ”B”という文字が”SS”という文字を隠してやがる。

 これ、確実に細工されてるじゃねぇか。


 隣には首を傾げているアルカと、傷を治しながら不安そうに見上げて来るリヒト。


 事実を伝えていいのか。いや、悩むまでもない。伝えなければ簡単に死ぬ。二人の鋼メンタルを信じるしかない。


「…………はぁぁぁぁぁぁあ。アルカ、リヒト。今回のダンジョンは、マジで命の危険があるぞ」

「え?」

「今回、このダンジョンはSSランク。つまり、今倒れている冒険者はSSランク。ボスにやられたんだろうな」

「嘘だろ?」

「本当だ」


 アルカの顔は真っ青、リヒトも、真っ青。

 俺の顔は、おそらくげんなり。


 くっそ……。

 俺の魔力は、少ないわけではないが、油断はできない。

 アルカとリヒトは、半分くらいしか残っていないだろう。


 こんなギリギリでSSランクのモンスターと戦わなければならないのかよぉ……。


「カ、カガミヤさん!! 上です!!」

「上……?」


 ――――――――ポチャ


 っ、天井から、雫が落ちてきた?

 上を見るけど、影が濃くて何も見えない。


 何も見えないけど、嫌な予感。

 いや、考えなければ、動かなければならない。


 目を細め、天井を見ていると、何かが降ってきた。

 それは、口。上下には、人など簡単に噛み千切れるほど鋭い牙。


 ――――やば


「カガミヤさん!?」

「カガミヤ!!!!」


 食べられっ――……


 息をするのすら忘れていると、スピリトが姿を現し炎の息を吹いた。


『ふぅぅぅぅぅうううう!!!!!』


 スピリトの炎の息は、開いている口の中に吸い込まれる。

 逃げるように、俺を喰おうとしていたモンスターが身を引いた。


 ――――――――ギュアァァァァァァァァアアアア!!!!!


 甲高い、声。

 それと共にモンスターが暴れ、地震が起きたように地面が揺れる。


「あれが、SSランクモンスター?」


 振り向いた先には、細長い体。白い鱗に、緑のたてがみ。黒い瞳に俺の姿が映し出された


 見た目は神秘的なんだけど、そんな事どうでもいい。

 俺達がいる洞窟を塞ぐほどの大きいモンスター、黒い瞳が俺を見据えて離さない。


「っ、アルカ! リヒトとその冒険者を守れ!」


 魔導書を持ち、魔力を込める。


 絶対に目を離してはならない、少しでも気を抜いてはいけない。

 隙を見つけろ、攻める事が出来る隙を――……


「……………………っ!?」


 動いていないのに、一瞬、足が滑った!?   


 ――――――――キュアァァァァァァァァアアアア!!!!


 しまった! 大きな尾が俺に襲い掛かる。


「ちっ!!」


 上に跳び回避――――って、に気配!? 


「っ、なんでお前が下にいるんだよ! てか、なんで下なんだよ!! そんな高く跳んでねぇよ!!」


 モンスターが口を開き、俺が落ちて来るのを待っている。くそ!!!


flama Arrowフレイムアロー!!」


 魔導書から手を離し、一瞬で弓を生成。弦を強く引く。

 矢の先に集まる炎、引いた右手で狙いを定め、ぶっぱなす。


「行け!!」


 勢いよく放たれた弓矢は真っすぐモンスターの口内に――――え、弓矢が消えた?


「カガミヤ!!!!!」


 アルカが俺に向かって跳び、腕を掴んでくれて、迫りくる口からは回避できた。

 それには安心だが、俺が放った弓矢はどこに……。


「きゃっ!!」

「っ、リヒト!?」


 リヒトの叫び声!? 

 まさか、モンスターの狙いがリヒトに行っちまったのか!?


 …………いや、違う。リヒトの足元には、炎の弓矢。

 俺が放ったもんがリヒトに向かったという事なのか? なぜ。


 アルカが俺の袖を掴み、深刻な顔を向けてきた。


「カガミヤ、こいつの名前はラムウ。時空を歪ませ、操る事が出来るSSランクの中でも上級クラスを誇るモンスターだ」


 嘘だろ、なんでそんなモンスターがこんな所に。

 いや、俺達がこいつの住処に来ただけか。他の冒険者がいるという事は、俺達が間違えてきてしまった。



 ・・・・・・・・。



 あの受付嬢かぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!! 

 初心者だからと言って、こんな間違いを起こすなんて!!! ふざけるなぁぁぁぁぁあぁぁあああああ!!!!


 多分だけど、あの受付嬢。登録自体を押し間違えたんじゃないかな。緊張していたし、どぎまぎしていたし。


 でも、でもよ。これはマジでないぞ? 死ぬかもしれないじゃん。いや、今だったら死ぬ可能性だってある。


 今回は休まずに行こうと言った俺の落ち度でもあるけど、こんなの想像出来ないし、予想もしないだろう。だって俺達は、Bランクだと思っているんだから。


 いや、今はそんな事どうでもいい。

 この現状をどうにかする以外なことは考えるな。


「カガミヤ、一応指輪で帰れる事も頭の中に入れておいてくれ」

「それは今のこの状況でも使えるのか?」

「た、多分……」


 不安なことを言うなよ……。

 でも、それなら良かった。もしもの時、指輪で帰ればいい。深く考えるな。

 アルカと話していると、弱弱しい男性の声がリヒトの方から聞こえてきた。


「待って、くれ…………」


 SSランクの冒険者が目を覚ましたらしい。

 リヒトが動かないように制しているけど、なんだ? 待ってくれって、なんだよ。


「指輪は、このダンジョンでは、使えない…………」


 ……………………終わった。

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