ダンジョン攻略

第39話 冷静さを欠くととんでもないことを呼び寄せる

 管理者であるアクアとクロと出会った次の日から、俺はずっと眠っていた。


 おそらく、スピリトに魔力を吸われ、且つ使い慣れない魔法を全力で使ったため、大量にあった魔力がだいぶ減ってしまったのだろう。


 目を覚ました俺にアルカとリヒトは、眠っている時の出来事を簡単に話してくれた。


 村長が死んでしまった事は、すぐに村人に広がってしまったみたい。

 混乱が広がり、元受付嬢が走り回っているらしい。


 最後は、村を管理している管理者によって混乱は落ち着き、まだざわざわしているみたいだが普通の生活は出来るようになった……と。


 管理者が殺して、管理者が諫める。

 この世界は、本当に管理者によって変わるんだな。


 直接やりあってみてわかった。管理者の強さが。


 俺が魔法に慣れていなかったとはいえ、あんなに差が出るなんて正直思わんかった、過信し過ぎていたな。


 まぁ、魔法に慣れていたとしても勝てると言い切れないだろうけど。


 何が起きたのか理解すら出来なかったし、相手がなんの属性魔法を使っていたのかもわからなかった。


 ダンジョンがSSSスリーエスまでランクがあるのなら、冒険者ランクもSSSまであるのだろうか。


 もしあるんだったら、管理者は最高ランクだろう。なら、俺も魔法に慣れてダンジョン攻略を続け、ランクを上げ強くなるしかない。


 この世界について、もっと詳しくなる必要がある。


 何が出来るのか、どのような属性が存在するのか。職業、スキル、魔法の種類。

 

 管理者をころっ――――倒す為に、頑張るか。


「カガミヤさん、休まなくて大丈夫ですか?」

「サンキュー、リヒト。もう体はリヒトに治してもらったし、問題ねぇぞ」

「でも…………」


 ベッドに座って考え込んでいる俺の前に膝を突き座り、リヒトが不安気に紅色の瞳を揺らし見上げて来る。


 めっちゃ心配してくれるじゃん、本当に大丈夫なんだけど。


 リヒトの隣にアルカが移動して、同じく俺を心配しながら見て来る。


「カガミヤがここまで考え込むなんて思わなかったぞ。やっぱり、管理者はカガミヤでも…………」

「今の俺なら確実に死ぬね。今回助かったのが奇跡に近い。冷静じゃなかったとはいえ、馬鹿な事をしたよ」


 本当に、馬鹿なことをした。

 黒歴史を作ってしまったなぁ。


「でも、諦めてないんだよな?」


 …………はぁ? なに聞いてんだよアルカ。


「当たり前だ。俺は、こう見えてガチな負けず嫌いなんだ。このままは俺のプライドが許さん。この世界がどうなろうとどうでもいいが、このまま管理者に負けっぱなしは癪に障る。絶対に殺す」

「いや、それはさすがに…………」


 アルカが不安そうに言ってきた時、扉がいきなり開かれた。


 受付嬢が来たか?


「…………」

「あ、餓鬼、じゃなくて、アマリア。…………え、アマリア?」


 え、あ、ああ、アマリア? 

 少年姿の管理者がなんで? 一瞬、思考停止したぞ。


 まさか、トドメを刺しに来たか? 

 でも、こいつはそんな事しないはず。

 何しに来たんだ。


 いや、命令されて来た可能性もあるな。

 こいつも管理者、何かしらは聞いているはず。


 アマリアの動きを警戒していると、普通に中へと入ってきた。


「そんな警戒しなくていいよ。僕の属性や魔法は戦闘向けではない。今の君と戦っても、負けるのは僕だよ」

「そんな事言われてもな」

「まぁ、今はどっちでもいいよ。それより、君。あのアクアに喧嘩を売ったみたいだね」


うっ、黒歴史を蘇らせないでくれ……。


「売ってしまったよ……」

「そう……。せめて、違う人なら良かったのに…………」

「ん? どういう事?」


 雰囲気だけでやばいとは分かったけど、それは他の管理者でも同じじゃないか? 

 アマリアが特殊なだけのような気がするんだが。


「管理者それぞれ、担当があるんだ。僕はギルドを担当している」


 なるほど、考えればわかる事か。


 世界は広い、担当を分けなければ束ねることなど出来る訳がない。


「そんで、アクアの担当は”処刑”。規則を破った者を掴まえ、処罰を与える」


 見た目や最初の話し方だけだとそんな風には見えなかったんだけどな。

 口調は優しい感じだったし。


「それは相手が冒険者でも対応は一緒。捕まれば何をされるかわからない。冒険者は何とか捕まらないように抗うけど、意味はなく瞬殺。誰にも負けた事がないんだ」

「つまり、どんな相手にも負けない戦闘能力が必要な役職についているのがアクアという事か。あんなに圧倒的な力も、役職的に必要だったって事だな」


何となく理解してきた──と、思ったのに、アマリアが小さく首を横に振った。


「役職的に必要だったは、少し違うかな」

「え?」

「役職的に必要だった訳ではなく、アクアの力を抑え込む為には、今の役職が必要だった。かな、正しいのは」


 うわ…………。

 つまり、役職が無かったら、あいつはもっと大暴れしていたって事か? なにそれ、こわ。


「アクアは、自ら暴れようとは思わないタイプなのか?」

「そうだね、上には従うタイプだよ。いつも一緒に行動しているクロという少年のいう事も聞くしね。気持ちが高鳴ると誰の言葉も耳に入らないけど」

「なるほど、そこは律儀だな」


 従順なんだろうな、元々の性格が。


「そういえば、せめて違う人ならって言っていたけど、アクアが単純に力が強いからそう言ったのか?」

「それもあるけど。アクアは執着心が凄いんだよね。面白いと思った人間の事は絶対に忘れないし、必ず追いかけ続ける。君がもっと強かったら、もしかしたら今頃ここにはいなかったかもしれないね」


 …………ホラーじゃん。

 え、俺もっと強かったら逆に命取られていたって事? 

 普通、弱い方が命取られやすいじゃないの?


「伸びしろを期待して、今は逃がしている状態だって事。それに、君はまだ犯罪を犯していない。罰する理由がなかったんだよ。だから、自分の欲を優先して君を逃がした。もっと強くなってから、全力で戦いたいと思ったんだろうね」

「うわぁ、確かに色んな意味で面倒臭いな」

「それに、管理者の中でアクアは二番目の強さ。簡単には倒せない、そこも厄介なところなんだよ」

「最悪」

「喧嘩を売ったのは君でしょ。自業自得」

「うっ」


 頭に血が上ると余計な事しかしないな、俺。

 今度から冷静に物事を判断出来るように心掛けないと。マジで命が危ない。


「そんで、僕がわざわざ君に会いに来たのは、これを言いに来た訳じゃない」

「え、そうなの?」

「うん。君、完璧に管理者に目を付けられているから気を付けた方がいいよ。これからの行動とか。大きな騒ぎはたてない方がいい、これを伝えに来たんだ」


 ………………………………え、マジか。

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