第37話 防御魔法でも、簡単に破られたら意味なくね?

「…………ゴポ」

「アクア!?」


 これは、なんかの防御魔法かなとは思ったけど…………。


「水の、防御壁か?」


 俺の周りに張られた水の膜。

 全方位からの攻撃を守ってくれるようになっているから、視界から外れた男も捕らえてくれた。


 周りに張られた水の防壁に巻き込まれた男、アクアは驚きの表情のまま水に浮かび見下ろしてくる。


 …………息は出来ていないはずなのに、なんであんなに冷静なんだ。

 次の行動を起こそうとしない。もしかして息、出来ているのか? そんな馬鹿な。


 アクアを見上げていた小さい方、クロが俺に視線を向けた。


「おい、早くアクアを解放した方が身の為だぞ。うちらの邪魔はしない方がいい」

「解放した方が危ないだろうが。どうせ襲ってくるだろうし」

「どっちも同じ事。ここで解放しなければうちが襲う」


 背中に背負っているライフルに手を伸ばし、睨んできた。

 まずい、今ここであいつまで参戦すれば、確実に負ける。


「もう虫の息。うちが一回攻撃すれば終わりだ。このまま終わりにして――……」


 え、アクアが手でチビを制止した? なぜ。



 ――――――――ゾクッ



 今、アクアに、笑い、かけられた?



 アクアが口元を横に引き延ばし、右手を動かし始める。

 何をする気だ、何をしようとしている。


 ん? 中指と親指を合わせっ――……。



 ――――――――パチン    パン!!!!!



 目の前に広がる水滴、時間がゆっくりと進んでいるような感覚。


 雫一つ一つを自然と目で追ってしまう。

 その時、目の前を覆い隠す歪な笑顔が上から降ってきた。


 顎を固定され動く事が出来ず、上に向けられる。

 藍色の瞳には、俺の困惑している顔が映っていた。


「貴方は面白いですぅ。の戦いを思い出してしまいました。だから、今回はここまでにしてあげますぅ。まだ自身の力に慣れていないみたいですので。また慣れた時、私と戦ってくださぁい」


 見つめられ、甘い声で囁かれ、体に冷たく気持ち悪いものが走る。


「それじゃあね、また会いましょう。鏡谷知里」


 どうして、俺のな、ま…………え…………。


 ――――――――ドサッ


 ※


「…………アクア」

「ごめんなさいクロ。面白かったので、ついです」


 いきなり意識を失った知里を受け止め、アクアは笑顔で呆れているクロに振り返る。


「その男はどうするの? まさか、また…………」

「そうですねぇ…………」


 大事そうに知里を抱えながらアクアが周りに目を向けると、恐怖の顔を浮かべているアルカとリヒトが目に映った。


 顔を真っ青にし足を震わせているが、それでもアクアの方に殺意を向け自身の武器を構える。


「――――泳がせておきましょう。魔法に慣れていただかなければならないですしぃ~」

「何をやらかしてくるのかわからないところがあるじゃん。今より魔力を使いこなしたらめんどうだと思うけど?」

「その方が面白いからいいんですよぉ~」

「それはアクアだけだよ。この、戦闘狂」


 「あははっ」と笑いながら知里を抱きかかえ、アクアはアルカ達に近づく。

 怖がりながらも後退せずアルカは剣を構え、リヒトも杖を両手で持ち直す。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。貴方達みたいな弱者に興味はないので、なにもしません」


 ニコッと笑いかけながら、アルカと目を合わせる。


「あの~、この子を私の住処に連れて行ってもいいですかぁ~?」

「「だめ!!!!!」」

「冗談ですよ」


 笑顔で知里をアルカに渡した。

 最初は戸惑っていたアルカだったが、恐る恐る手を伸ばし大事そうに知里を抱えた。


「では、私達はこれで失礼します。また、何かあれば遠慮なく言ってくださいねぇ~。知里についてなら何が何でも秒で行くので、遠慮なくぅ~」


「では」と言い残し、管理者二人は瞬きした一瞬で姿を消した。


 残されたアルカとリヒトはすぐに動く事が出来ず、立ち尽くす。

 その時、下から苦しげな声が聞こえ、やっと我に返った。


「…………っ。んっ」

「あ、早く怪我を治さないと危ない……」


 知里に負担がないようゆっくりと座り、頭を支え傷をつけられた腹部を上に。少しでも楽な体勢を作った。


「治せそうか?」

「深いけど、頑張って治すよ。私の魔力すべて使ったとしても、必ず治す」


 眉を下げ、リヒトは不安な表情を浮かべながら宣言する。

 両手を広げ、手のひらを腹部に向けた。


 集中するように目を閉じ、呼吸を整える。すると、手のひらから淡い光が現れ始め、傷を優しく包み込んだ。


 たかが数秒で額から汗が流れ、頬を伝い地面に落ちる。

 それでも集中を切らさず、魔法を灯し続ける。


 アルカは隣で見続ける事しか出来ず、情けない自分に嫌気がさした。

 我慢するように膝に置かれてる拳を強く握る。


 光が包み込んでから数秒後、流れていた血は止まり、やっと傷口が塞がり始めた。


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