最終目標

第34話 訓練はいつでも予想外なことが起きるんだよなぁ

 残された俺達三人は、円を描くように座り直し、アマリアについて話していた。


「なんか、イメージと全く違くて驚いちゃった」

「わかる。もっとお堅い感じで、何か言えば何倍の言葉で返してくるような頭脳派のイメージだった」

「頭脳派は、頭脳派だったと思うけど」


 今回出会ったアマリアと、二人が思い描いていたアマリアは、全然違ったらしい。


 俺も、聞いていた話とは違ったから、気楽に話す事が出来た。


「なぁ、管理者って本当に怖いのか?」

「アマリア様が珍しいんであって、他の方にお同じ事をすれば首をはねられますよ、確実に」

「やっぱりそうなのか。会わない事を祈るよ」

「俺も」

「私も」


 二人は肩を落とし息を吐く。

 相当会いたくないんだな。


「これからはダンジョン攻略も今までと比べると楽になるんじゃない? 自分よりランクの高いモンスターと戦わなくていいんだし」

「確かにな。これからは俺達のランクにあったダンジョンに行かせてもらえると思うと嬉しいな!!」


 はいはい、目を輝かせて俺を見ないでくれよ、眩しいって。

 俺みたいな黒く染まった心には痛い。


「んで、俺はギルドに入る事が出来たんだが、すぐダンジョンに行く事は可能なのか?」

「ライセンスが必要になるから今すぐは無理だ。だから、ライセンスが届くまで、俺の相手をしてほしい!! 模擬戦をさせてくれ!」


 なるほど、ライセンスか。

 確かにそれはひつよっ──……


「…………え?」


 ※


 アルカとリヒト、俺はライセンスが届くまでダンジョンに行くことが出来ないため、アルカにものすごい勢いでお願いされ手合わせして過ごす事となった。


 くそ……、めんどくせぇ。


 アルカが先導し、村から出て裏手に回ると、冒険者達の訓練所的な場所に出た。


 俺達以外にも色んな冒険者がいて、魔法を使ったり、剣同士の手合わせなどをしている。


 フィールド一つ一つにシールドのようなものが張られているみたいで、関係のない人を巻き込まない仕様となっていた。


「んじゃ、カガミヤ、頼むぞ!!」

「めんどくさいが、これからのためにやるか……」


 空いているコートに向かい、俺とアルカは中に入る。すると、地面に埋め込まれていた魔法陣が発動。

 地面には、円の中に盾の模様が入っている魔法陣が出現された。


 同時に、周りの人と同じようなシールドが俺達を囲うように現れる。


「戦闘が終わると、自動でシールドは無くなるから大丈夫だぞ」

「それならよかったわ」


 アルカの方を向くと、準備運動をしていた。


 やる気満々だなぁ、俺はやる気底辺だけど。

 だが、負けたくもないし、全力でやるか。


 軽く準備運動していると、アルカが背中に抱えていた剣に手を伸ばし、引き抜いた。

 シルバーに光る剣先が俺に向けられる。


「それじゃ、頼むぞカガミヤ」

「あぁ、手は抜かねぇからな」


 俺も、アビリティに言い今扱えそうな武器を生成してもらった。


 炎で作られた武器は、弓。

 これしか今は作れないらしい。


「あ、そういえば、カガミヤの服とかも買わないといけないな。あとで買いに行こう」

「忘れてやがったな」

「すまん…………」


 まぁ、いいけどよ。


 呆れていると、アルカが深呼吸をし、剣を両手で持ち構え直す。


 俺も、弓を定位置に持っていき、いつでも放てるように準備。


 お互い見合わせ、タイミングを計る。

 相手の隙を見てから動いた方がいいだろう。


「…………――――っ」


 っ、アルカが動き出した。

 地面を勢いよく蹴り、走ってくる。


 俺は接近戦に弱い、近づかせたらまずいな。

 弓の弦部分を思いっきり右手で引っ張り、狙いをアルカの足元に定める。


「──行け」


 弓矢を作り出し、肘から後ろに引っ張った弦を離した。


 同時に弓矢本体が炎の渦と共に出現、アルカの足元へ勢いよく飛んでいく。


 放たれた弓矢をアルカは軽々と横へと跳び回避、走る足を止めない。


「まぁ、わかってはいた」


 これに当たるほど、甘くはない。


 もう一回、同じように放つ。

 何度も何度も、それを全てアルカは避け、俺の目の前まで迫ってきた。


「甘いぞカガミヤ!!!!」

「っ、上か」


 目の前まで迫っていたアルカの姿が消えたと思ったら、いつの間に頭上に。

 両手を振り上げ、剣を叩きつけようとしてきた。


 それは簡単に避けられるぞ!!


 後ろに跳び、アルカの攻撃から避ける事ができ――――っ!


「――――え」


 地面がぬかるみ始めただと?!


「終わりだ!!」


 ち、避けられねぇのなら防ぐしかねぇ!


 地面がぬかるんだことでバランスを崩し、地面に片膝を突いてしまう。


 手に持っていた炎の弓を上げ、咄嗟にアルカから叩き落された剣を防ぐ。


 ――――――ダンッ!!


「ちっ! なんでだよ!!」

「いやいやいや!! こんなの卑怯だろがい!!!」


 くそ、結構鍛えられているのと、上からの重力で重い一撃になってやがる。

 炎の弓で受け止められて良かったが、軋んでっから、長く持ちそうにない。


 まさか地面がぬかるんでいるなんて、雨でも降ったのか? いや、降っていないはず……。


 あ、そういえば。


「お前の属性、確か…………」

「そうだ、俺の属性は地。地面を操る事など造作もない!!!」

「こんのっ!」


 まだ押してくる剣を押し上げようとするも、踏みしめたい地面はぬかるんで力が入らない。

 腕力だけでは押し返す事も出来ないし、弓が持たない。


 ギリギリと押し合いになっているこの状況…………よしっ。


「よっ!!」

「っ、な!!」


 押されているところでほんの少しだけ力を抜き、相手のバランスを崩させる。

 アルカの身体が傾いたのを見逃さず、弓から手を離し胸ぐらを掴む。


 驚いているアルカを地面に叩き落し、上に覆いかぶさり首を押さえつけた。


「これで本来なら、俺は魔法を発動しお前の首を破壊。戦闘終了だな」

「くっそぉぉぉおお!! いけると思ったのに!!」


 うん、やられたと思った。


 まさか魔法をこのように使ってくるなんて、ある意味隙が無かったな。

 もしかして、結構いい属性を持って生れて来たんじゃないか? いや、使い方だな。


 俺は戦闘についてど素人だが、アルカが強いのは今ので確信した。


 身体能力も高いし、魔法の使い方も工夫している。

 あの村長じゃなければ、もうAかSにランクが上がっていてもおかしくは無いだろう。


 考えながらその場から避け、ここから出ようと歩くと、アルカも立ち上がり剣を握り直し、俺に剣先を向けきた────え?


「もう一回だ!!」

「…………はい」


 これは、しばらく自由の時間はないな。

 付き合うなんて事しなければ良かった。

 後悔後に立たず…………。諦めよう。


 ※


 あれから数時間、アルカに付き合ってやった。


 頑張った、頑張ったんだよ俺。


「~~~~~もう一回!!!」

「もう終わりだ!!!」


 何時間ぶっ続けでやっていると思ってんだよ。

 俺の体内時計では、もう二時間以上は行っているぞ。


 肺も痛くなってきたし、おじさんの体力とかを考えてくれ。

 お前より人生長く生きている分、体にガタが来ているんだぞ。


「何を言われようともここまでだ。俺も疲れたし、お前の魔力もだいぶ消費したんじゃないのか?」

「くそ、くそ!! ん----!!! アビリティ!!!」


 ふてくされながら叫ぶなよ、子供か。

 あ、こいつのステータス初めて見るな。


 …………え?


「…………若くねぇか?」

「そんなに若いか? 十九は冒険者の中では平均だぞ」


 あ? 十九が平均だと? マジか。

 なら、俺はもう自称ではなく、本物のおじさんという、こ、と……。


「なに、怖い顔してんだよカガミヤ」

「…………なんでもねぇ」


 くそ、なんなんだよ。

 確かに若い方が伸びしろはあるが、年齢が高ければその分経験もして、安定してるだろうが。年の功という言葉を知らんのか。


 ……………あ、俺は経験値もないんだった。


 ポカンとしていると、アルカが自分の魔力を見て落ち込んでいる。


「魔力が残り少ない…………」


 まぁ、だろーな。

 後先考えてから行動してくれ。


 何にせよ、今日はここで終わる事が出来た、良かったぁぁああ。

 ぎっくり腰になるところだったからマジでたすっ――何でもない。


 俺は、若い。

 おじさんではなく、お兄さんだ。


 腰をポンポンと叩きながらシールドから出ると、リヒトが駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか、カガミヤさん。アルカに付き合うの大変でしょう。毎日、五時間以上一人で素振りや筋力作り、魔力のコントロール練習などをしているので」

「体力、化け物じゃん」

「化け物ですよ、アルカは……」


 もう、これからは安請け合いしないようにしよう……。

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