第33話 ここまで緊張した事今までなかった気がするよ
精霊を見せると、アマリアが目を開き固まってしまった。
でも、すぐに気を取り直し無表情に戻る。冷静だな……。
「まさか、精霊まで引き継いだ…………訳ではないよね。今回のダンジョンで手に入れたのかな」
「そうだよ。財宝を期待した俺からすれば残念極まりない代物だ」
『酷いです、ご主人様ぁ~~』
泣きそうな顔を向けられてもなぁ。
俺は本当の事しか口に出来ないから耐えてくれ。
機嫌を損ねてしまったスピリトの頭を撫でてあげると、アマリアが顎に手を当て首を傾げた。
「まさか、精霊より財宝の方が良かったなんて。普通は精霊の方が嬉しいんだけどね。精霊が潜んでいるダンジョンは少ないから、見つけるだけでも運がいいんだよ」
「あ、そうなんだ。でもなぁ、財宝の方が良かったんだけ――――あ、ごめん。ごめんって、お願いだから泣かないで」
とうとう泣き出してしまったスピリトを慰めていると、アマリアがジィっと見てくる。
何ですか、視線が痛いんだけど。
「懐かれているみたいだね」
「嬉しくないけどな」
まぁ、これから酷使してやるから別にいいけど。
「精霊は、これからも大事にした方がいい。何があっても助けてくれる存在だからね」
「まぁ、見返りがあるのなら一緒にいるけど。売り飛ばすのも色々めんどくさいだろうしな」
それに、売り飛ばそうとすれば、リヒト達がめっちゃうるさそうだし。
「売り飛ばせる所なんて、一般的に考えたら存在しないよ」
「だろうな。闇金的な所ならいけそうだけど」
「裏社会の人なら欲しいかもね。あとは――――僕、とかかな」
「…………なに?」
今までそんなに動かなかった口角が上がり、物欲しそうな目を向けてくる。
その視線は鋭く、精霊のスピリトが怖がり、俺の後ろに隠れちまった。
めっちゃ、震えてるじゃん。
「言い値で買い取りたいと思ってね。君が提示した金額を払うよ」
「管理者なだけあって金はあるって事か。本当に、いくらでもいいの?」
スピリト含める三人が俺を見る。
驚いているのは見なくても察する、予想通りな反応だな。
「いくらでもいい。精霊を買う事が出来るのなら、他にもオプションを付けよう」
「あ、それはいいかもしれないな」
「君は話が早くて助かるよ。では、いくらがいいかな」
ニヤニヤと見てくるアマリア。アルカとリヒトの俺を呼ぶ声が聞こえる。
なに焦ってんだか、俺は元々金が欲しかったんだから、こんな条件を飲まない訳ないだろ。
「そうだな、金の方はお前の貯金全額でいいわ」
「そうくるか、まぁいい。それで、オプションはなに? 何を求める?」
「あぁ、オプションは、管理者という立場を廃止すること。これが、精霊を売る最低条件だ」
言い切ると、そう来ると思っていなかったらしく、すぐに返答は無い。
愉快だな、驚いてる。
思わず笑っちまうなぁ、予想通りな反応で。
「…………これは驚いた。そう来るとは思わなかったよ」
「だろうな。でも、精霊が欲しいんだろ? なら、これくらい出来るだろ。あ、でも口約束だと信じられんから。しっかりと実行してから精霊を渡す」
目を細め、少々困惑しているアマリアに宣言。
「さぁ、どうする。この世界を仕切っている外道集団の一人、アマリア君」
俺の言葉を聞いたアマリアは、さっきまで浮かべていたにやけ顔を消し、見定めるようにジィっと見てきた。
この場を埋める緊張感。アルカとリヒトはアマリアを見て次の言葉を待ち、俺も二人と同じく何も言わず待つ。
頬に何かが流れる感覚があり、背中がベタつき、気持ち悪い。
それでも、ここで目を逸らしたり、空気に呑まれる訳にはいかない。
「…………ふっ、そう緊張しなくていいよ。今回はその交渉、見送らせてもらう」
「そうか。まぁ、そりゃそうだな。これでも受けるとか言われたら――――なんでもねぇ」
ふー、危ない危ない。
余計な事を口走るところだった。
「受けると言ったら、君が精霊を渡さないといけなくなるからね。困るよね」
「だまれ」
「元々、渡す気がないじゃないか」
「だまれ」
「もっと素直になる事をお勧めすっ――」
「マジで黙れ、このくそちび詐欺師が」
「あはははっ」
今まであまり動かなかった表情筋を使って大笑いしてんじゃねぇよ。
まったく…………。アルカとリヒトは後ろで喜び合っているし、なんなんだよぉ……。
「でも、安心するのはまだ早いかな。僕は精霊を諦めた訳ではないよ、今回は見送ると言っただけ」
「うわぁ、どんだけほしいんだよ、精霊」
「精霊は希少だからね、価値を知っている人なら喉から手が出るほど欲しいと思うのは当然だよ」
そうなのか。なら、スピリトは戦闘以外の時は隠れていてもらおう。
今回のような交渉は勘弁したいし、奪われるのも気持ち的に避けたい。
すり寄ってくるスピリトを掴むと、手から逃げようともぞもぞ動いている。
こいつはハムスターか何かか?
なぜ掴まれているのかわからないからなのか、涙目で見上げてきた。
怖がるな怖がるな。
大丈夫だっての、何もしないしない。
手を離すと空中に浮かび上がり、ちらちら見て来る。
落ち着かせるように頭をなでると、すぐに俺へとまたすり寄ってくる。子供か?
「あ、あと。精霊と戯れているところ悪いけど、君に伝えなければならないことがある、いいかな」
「戯れている訳じゃねぇよ。んで、なに?」
「僕はギルド担当の管理者だ。だから、君の今後の行いについて興味はない。でも、他の管理者はそうではない」
…………まぁ、だろうな。
「君の強さを目にし、勧誘する人もいれば、君の言動や行いに処罰をくらわそうとする者も現れると思うよ。そうなった場合、君はどう動くのか。行動にぶれが生じれば正しい判断を見失う。必ず自分の一番大事な物、何の為に行うのかを頭に入れて行動した方がいいよ」
ふーん、なるほどね。
「忠告どーも。だが、なんでそこまで言ってくれるんだ。怪しすぎんだけど?」
「そうだね。何でだろう、わからない」
なんだよ、それ。
…………こいつ、なんか、変。
左右非対称の目が俺から逸れ、少しだけ揺れている。
迷っているような表情だな、お前がぶれてんじゃねぇの?
人に言うくらいなら、まず自分が意識しなさいよ、ぶれない人生とやらを。
「まぁ、これだけは言い切れる。これから君は、目を付けられるよ。君みたいな人は目立つ、良くも悪くもね」
「えぇ……」
精霊持ちというだけで争いは起きそうだし、それプラス俺の魔力量や魔法、二つある属性などなど。
あー、うん。目立たないわけがないよなぁ。
死にたい、お金に埋もれて土に還りたい。
「今後は君の目で見ながら行動していった方がいいだろう。言葉で何か言っても、この世界では通じない事の方が多い。現実を目にし、君らしく行動ししてね。何か困った事があれば僕の所に来てもいい、出来る限りは協力するよ」
…………こいつ、本当に管理者なのか?
管理者達をよく思っていないように聞こえるんだけど。
今、詳しく聞いても答えないだろうし、聞いたところで意味は無い。
こいつがそう言うってことは、どうせ今後も長い付き合いになるだろうし、気長に待つか。
「それはありがたいが、何か見返りを求めてんじゃねぇだろうな」
「信用がないねぇ、仕方がないけれど」
当たり前だろ、俺に信用されたければ通帳を持ってから来い。
「僕が君にここまで言うのは単純な理由。気に入ったからだよ」
「気に入っただと?」」
「そう。魔力の多さや精霊持ち、鋭い思考や洞察力。様々な要素を持っている君を、気に入らない訳がない」
いやいや、そこまで出来た人間じゃねぇわ。
つーか、会ったばかりだろうが、なんでそこまで言い切れるんだよ。
「欲を言えば、君を管理者に勧誘したい。それが駄目なら一緒に実験とかでも。それも嫌なのならただの話し相手でも良いよ。ひとまず、一緒にいる事が出来れば、僕は何でもいい」
「全てを断る」
なんなのこいつ、真顔で怖い事言ってんだけど。
最終的には拘束したいや監禁したいとか言われそうで怖い。
一緒に居れればいいって、お前確か三十台じゃなかったか?
見た目で誤魔化せると思うなよ。
俺より年上なのは覚えているからな。
「それじゃ、今度こそ僕は行くね。これから大変だと思うけど、諦めないで、頑張れ」
そんな言葉を言い残し、アマリアは手を振りながら小屋の中から姿を消した。
見た目と中身はなんとなくあってはいるけど、年齢があっていないんだよなぁ。違和感がすごい。
…………あいつ、管理者の事、どう思ってんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます