第30話 見た目と中身の違いをしっかりと考えないといけないな

 爆風により外に投げ出され、体を床に打ち付けてしまった。


 頭は何とか守ったけど、肩とか腕とかをぶつけちまって、すぐに動けない……。


「大丈夫ですか!?」

「普通に大丈夫じゃない。体中痛い」

「で、ですよね。あの、何があったんですか?」

「俺にもわからない」


 魔力を送り込んだ瞬間、後ろからの爆発音。からの、機械からの煙、爆発。


 これだけの情報で、現状をどうやって理解しろと?


 ────ん? 何かが俺の腕の中で動いてる?


「んー!!!」

「あ、忘れてた」


 咄嗟に抱え込んでしまったアマリアが、俺の胸元をどんどん叩いている。


 さすがに重たかったか。

 成人男性の体重をかけられたんだもんな、全体重じゃないにしろ苦しいか、悪いな。


「プハッ!!」

「大丈夫か?」


 床に座り直しアマリアを立たせると、煙で咳き込みながらもしっかりと立ってくれた。

 怪我も特にしていないみたい、良かった。


「ケホッ、カホッ」

「煙がまだ漂っているから仕方がないか。ここから離れるぞ、元受付嬢、ここに居ると体に悪い。また爆発しないとも限らんしな」

「あ、はい…………」


 アマリアは部屋の方を見て動こうとしてくれない。

 思い入れがあるだろうな。でも、危険だから行くぞ。


 無理やり抱っこし連れて行く。


 ……………………はぁ。


 餓鬼の顔がちょうど俺の耳近くにあるから、何を呟いているのかまるわかりなんだよなぁ。


「僕の機械が…………、壊れた事なんてなかったのに。メンテナンスもしっかりして、毎日欠かさず手入れもしてきた。不具合なんてなかったはずなのに、なんで…………」


 心が抉られる……。

 めっちゃ気にしてるじゃねぇーかよ。


 …………待てよ?

 これって、冷静に考えてみると…………この騒ぎの原因って、俺の魔力じゃね?


 油断せず思いっきり魔力を注ぎ込んだ結果、機械や扉が魔力に耐えきる事が出来ず、爆発した…………みたいな?


 え、俺のせい? 


 で、でも。ほら、思いっきりやれって言われたし、これは俺だけの責任ではなく、そう言った奴も悪いというか。何というか…………。


 どうやってこの事態を穏便に済ませようか考えていると、さっきまでぶつぶつ呟いていたアマリアの声が急に止まる。


「──す」

「…………?」


 な、なんだ?

 なんか、明るい声……?


「すごい…………」

「え?」

「すごいよ、君!!!」

「………………………………え?」


 恐る恐る、アマリアの方を見ると…………。


「なに、目を輝かせているの…………」

「今の魔力はなに? どこから出したの、今はどうやって魔力を制御しているの?!」


 あ、もう無理だ。

 俺はもう無理。この子について行けない。


 こんなに目を輝かせて、笑顔で言い寄ってくる子供なんて。

 どう相手をすればいいんだ、誰かカンニングペーパーをくれ。


 目を逸らし、廊下を進むのに集中しようとしたんだけど、視線がどうしてもうるさい。

 視界の端に入る輝いている目が鬱陶しい。


「受付嬢」

「何ですか?」

「助けて」

「え?」

「俺が担いでいる餓鬼を受けとってくれ」

「え? え!?」


 いや、”え?”ではなく助けてほしいんだけど。

 このまま無言で走っていると、どんどん人の声が聞こえ始めた。

 ホールに近づいて来たな、助かった。


 歩き進めると、俺達の姿が目に入ったアルカとリヒトが駆け寄ってくる。

 心配してくれていたらしいな、不安そう。


 まぁ、その心配は的中だな。

 俺、追放されるかもしれない、今後どうしよう。


「どうでしたか!?」

「合格したのか!?」


 あぁ…………。だよなぁ、聞いて来るよなぁ。


 んー、なんて答えよう。

 というか、俺は合格したのか? 不合格なのか? それすらわからん。


 言い淀んでいると、アルカとリヒトが目を開き、俺が抱えているアマリアを視線が逸れた。


「え、ちょっと待ってください。なんで、カガミヤさんはアマリア様を抱えているのですか? 何があったのですか?」

「…………俺の魔力で部屋が吹き飛んだ」


 簡単な説明で、さっきよりもっと困惑顔を深めた二人。

 開いた口が塞がらないって顔だな、だが気持ちはわかるから何も言わねぇよ。


 おっと、アマリアがモゾモゾと動き出し、アルカとリヒトに説明してくれた。


「この人の魔力が濃厚且つ、量が一般の人の数十倍。普通ならコントロールすら難しい魔力量を所持している。今も、どうやって抑え込んでいるのか予測すら出来ない。今見ても、魔力を抑えている道具などがあるように見えないし、どうなっているんだろう」


 話している途中で説明が疑問に切り替わっているぞ。俺も知らん。


「まじまじ見てもわからないと思うぞ」

「それじゃ、教えてくれる?」

「教えたいけど、俺自身わからないから無理」


 そんなに見られても、何も答えられないってば。


 本当に分からないんだよ。

 というか、アマリア様? なんでこんな餓鬼に、”様”を付けているんだ?

 元受付嬢も同じような呼び方していたし、なんなんだ?


 こいつ、もしかしてこう見えて結構な年齢? 


 もう何があってもこの世界ならあり得るし、魔法で餓鬼の姿をしていると言われても納得出来る。


 もしかしたら、八十過ぎの可能性が…………。


 普通に話していると、リヒトが後ろから顔を青くし声をかけてきた。

 何でそんなに怖がっているんだ?


「あ、あの。カガミヤさん、あまりアマリア様にそのような口は…………。もしかすると首を取られてしまう可能性が」

「え、どういう事。というか、この子って一体何者?」

「…………管理者の一人です」


 …………え。え?

 管理者って、確か人とは思えない非道な行いをする外道集団の事だよな。

 警察より酷く、人の心がない人達の集まりかと思っていたんだけど、違うの? 


 改めてみるけど、普通に子供。

 子供じゃないって事でいいのか?


 ぼそぼそ話していると、アマリアが怪しむような目でこっちを見てきた。

 これは、確かに普通の子供の目ではないな、鋭い。


「なに話しているの」

「へ!? い、いや。なんでもありません…………」

「へぇ、僕には言えないんだ」

「いえ!! そんな事ありません!!」

「なら、話せるよね?」

「…………」


 俺に助けを求めるな、普通に話せよ。


「んー、なぁ。お前って、管理者って呼ばれている人達の一人なのか?」

「うん」


 …………こんなにあっさりと教えてくれるのですね、ありがとうございます。

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