第28話 確かに俺はギルドの人間じゃないかもしれないけどそれはないだろ

 中に入ると、案外にぎやかだった。


 奥には大きなカウンターがあり、女が三人、忙しなく冒険者の相手をしていた。

 壁側にはATMのような機械が置いてあり、三台横並びにされている。


 周りを見回している俺の隣で、受付嬢が確認のためか、質問してきた。


「カガミヤさんは、まだギルドに登録されていないんですよね」

「だな。なんとなくでここまでやってきた」

「でしたら、今回の報酬はひとまずアルカさんに渡しますね」


 ・・・・・・・・・・え?


「はぁぁぁ!? 俺には報酬なしか!?」

「今は渡す事が出来ないので……」

「嘘だろ…………」


 項垂れる俺の肩に手を置き、哀れみの瞳を向けてくるアルカ。


 ……燃やしてやろうか? それとも、水責めの方が好きか? 

 好きな方を選ばせてやるよ。俺は二つ属性持っているから選べるぞ、良かったな。


 アルカを憎しみの目で睨んでいると、元受付嬢が慌てた様子で仲裁に入ってきた。


「えっと、今回は仕方がないのですが、これからもダンジョン攻略は続けていくんですよね?」

「そうしないといけないらしい。強制的にそんな事になった」

「そうですか。では、登録試験を受けて頂いてもいいですか?」

「え、試験?」


 ギルドに登録するためには試験を受けないといけないの? 

 筆記試験とかだったら俺確実に無理だぞ。

 この世界についてすら知らない俺に、いきなりギルドの事を全て答えろとか。


 無理に決まっているだろ。


「安心してください。魔力の量が既定の上に行けばクリアです」

「そんなんでいいのか」

「あとは自己責任という事です」

「ある意味怖いな、ギルド」


 登録後、どうなろうがお前の判断だ、俺達には一切責任はない。と言われているみたいだ。


「では、アルカさんとリヒトさんは少し椅子に腰かけて待っていてください。すぐに終わります」

「わかった」

「お願いします」


 二人はカウンターがある広場、ホールと呼ばれていそうな部屋にある椅子に座って待つ事にしたらしい。


 俺は元受付嬢の後ろを付いて行く。

 どこに向かっているのかわからんけど、会員証がなければ報酬をもらえないのならどこまでも付いて行くよ。


 カウンターの右に奥へ続く廊下があり、まっすぐ進む。

 徐々に人はいなくなり、二人の足音だけとなった。



 ───コツ、コツ



 …………こんなに長い廊下、必要あるか? 

 もう歩き始めて五分以上は経っているんだけど。


 疲れが出始めた直後、ちょうど元受付嬢が前を指さした。


「見えてきましたよ、あそこで魔力の検査をします」


 肩越しに俺を見て、笑顔で教えてくれた。


 指さした方を見ると、突き当たりには鉄の扉があった。

 鍵がいくつもあるように見えるのだが、どんだけ厳重に閉ざされているんだよ。なんか、怖いんだが…………。


「扉が閉まっているので、先約が居ますね。上を見てください」

「ん? なんだあれ」


 五つの、電球??


「扉の上にある五つの丸い電球は、魔力を注げば注ぐほど赤く光り、既定の数値まで達する事が出来れば緑に光りクリア。鍵が開かれます」

「なるほどね。だから鍵も五つあるのか。これが魔力によって自然と開かれるという事だな」

「そういう事です」


 意外に簡単そうじゃないか? そんな事ないのか。

 そもそも、既定の数値がどのレベルなのか。


 事前に対策も出来ねぇから、少し不安が…………ん? 魔力……?。


 そういえば、俺の魔力ってアビリティが映す映像では、画面上からはみ出しているんだよな。


 絶妙なコントロールや、この世界の常識などが影響する試験なら難しいけど。単純な魔力検査なら余裕じゃねぇか?

 俺の魔力、チートみたいだし。


 精霊すら、俺の魔力が一番美味そうと言っていたし。さすがにその言い方は解せぬがな。


「もう、始まるかと思いますよ」

「ん? あっ、試験がか」


 あ、あれ? 元受付嬢が耳を塞ぎ始めた?

 俺の声を聞きたくないという事か? さすがにしょっ――……



 ────ブィィィイイイイイイ



 !?!?!? 

 け、けたたましい鐘の音!? なんだこれ!!


「耳、いってぇ!」

「前の人の試験が始まりました」


 いきなりの機械が動き出す音、それと同時に点滅する電球。

 まずは左の一つが赤く光出した。二つ目も光だし、順調に三つ目。


 このまま行くと思ったら……。


「止まった?」

「おそらく、魔力が足りていないのでしょう。ですが、途中で止まってしまっても、本人にまだ続ける意思があれば送り続けられます」


 今はもう音は小さくなり、元受付嬢は耳から手を離していた。

 俺も離すが、まだ耳が痛い。さっきの音で大ダメージを喰らったらしい。


「へぇ……。つーか、それ、成功するまで続ける事できるんでね?」

「それはどうでしょうか」


 え、その言い方、無理って言っているようなもんじゃん。

 何か無理な理由があるのか?


「今は、おそらく全力で魔力を放出している状態。体に残っている魔力にも限度があり、無くなれば自然と体力が減り眠くなる。強制的に終わってしまうんですよ」

「なるほどね」


 魔力の限界を超えれば、自然と寝てしまうんだな、

 戦闘中に魔力を切らせば完璧アウト、気をつけよ。


「…………一向に四つめ、行かないな」

「一度止まってしまえば、それ以上点滅させるのは難しいかと思います」

「なんでだ?」

「勢いが緩んでしまうのが一つと、体力が減っていくので最初でクリア出来なければ詰みです」


 つまり、勢いのままクリアしないと登録は絶望的と言う事だな。


 これは結構、骨が折れそうだぞ……。俺も油断しないようにするか。

 基本、魔力が多くても油断して失敗する可能性もある訳だし、それだけは避けたい。


「あ、一つ減った」

「もう限界になったんですね。この人は不合格、残念です」

「結構あっさりしてんな」

「中に誰がいるのかわからないので…………」

「それもそうだな」


 どんどん光が消えていく。そして、ラストは結構粘っていたけど力が尽きたように、命の灯とでも呼べるような光が、完全に消えた。


「終わったのか?」

「みたいですね」

「やっと俺の番か」

「頑張ってください」

「まだ扉、開いていないけどね」


 早く行ってほしいという意思表示かな? 

 俺のこと嫌いなのだろうか、哀しいぞ。


「あともう少しで開きますよ」


 と、元受付嬢が言うと、同時に扉が開かれた。

 中からは涙を流し、ふらふらの身体を引きずる女性の姿。


 俺達には気づいていない。道を開けるように横へずれると、そのまま長い廊下を進んで行く。


 そんな彼女の背中から放たれているオーラがものすごく悲しく、それほどまでにギルドへと入りたかったという事がわかる。


 薄く開かれていた扉が音を立て完全に開いた。

 そして、一人の少年が姿をあらわっ――え? 少年?


 水色の髪に赤と黒の左右非対称の瞳。

 背丈に合っていない白衣を肩から羽織っているから床を引きずっている。

 でも、中に着ている服はしっかりと着こなしていた。


 白いワイシャツに短パン、サスペンダーと。金持ちの餓鬼っぽい雰囲気を醸し出してんな。


 肌白いし、髪質もいい。誰だこいつ。


「ギルド登録希望の方であってる?」

「おー…………」

「では、こちらに」


 少年特有も高めの声だな。


 首から下げられている名札には”アマリア”と書かれている。


 これが名前か、苗字とかない感じ? 

 なんか、訳アリの餓鬼っぽいな。あまり関わらんとこ。


 言われた通り中に入る。

 その際、元受付嬢を一度見てみると、腰を折り見送ってくれた。


「では、頑張ってください。アマリア様に、ご無礼が無いように――……」


 ん? アマリア、様?


 名前について問いかけようとしたが、それより先に鉄製の扉が重苦しい音を鳴らし閉じられちまった。


 気になるけど、まぁ、いいか。


 改めて中を見回してみると――思っていたより普通。病院の部屋みたいに白い部屋だった。


 気になる事と言えば、部屋の中心に置いてあるテーブルかな。

 上には、肺活量を計るような機械が置かれている。


 普通のより大きい気がするけど、まさかこれで魔力を計るの? なんか、思っていたより普通だな。


「それじゃ、さっそく始めるね。まず――……」


 今渡された物に、さすがに驚きを隠せなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る