第25話 当たってほしくないと強く思う程、嫌な予感という物は当たりやすい

 三人がいなくなった小屋の前では、村長を心配する二人の男性。


「大丈夫ですか、村長! お怪我はありませんか!?」

「村長!! 怪我がありましたら今すぐに治しましょう! 俺、救急箱持ってきます!」

「いや、問題ない。――――二人とも、ありがとう」


 二人は、微笑んでいる村長を見て不思議に思い首を傾げるが、何も聞かず共に笑った。


 三人は今回の件で、酷く反省をした。


 知里に脅された恐怖もあるが、三人はそれぞれ、大事な人を失うかもしれないという気持ちを自身で感じた。


 今までの行いを悔い、これからについて話をしようと小屋の中に戻る。

 その時、後ろから気配を感じた。


「………な、なっ」


 後ろから感じる気配により、三人の額からブワッと冷や汗が流れ落ちた。


 流れてくる気配はどす黒く、三人の肌に直接刺さる。

 冷や汗が止まらず、体がカタカタと震え始めた。


「な、何故…………」


 一人のヤンキーがぼそっと呟くと、三人の後ろに突如、小さなブラックホールのような、黒い空間が現れた。


 三人が動けず震えていると、現れた黒い空間から、色白の右手が伸びる。


 ズズズッ――――と、腕、肩、胴体と。

 ゆっくりと、黒いローブで顔を隠した人が現れる。


 足を地面につけ、顔を上げた。


 身長は、成人男性の平均程度。

 黒いローブで顔まで隠しており、口元以外の表情は伺えない。


 微かに見えている口元は横に引き延ばされ、袖で隠れているが村長へと伸ばされた。


「セーラ村の村長は、代わりを準備いたしますねぇ。この意味は、理解できますかぁ??」


 一般男性と比べると、少し高めの声が響く。

 マイペースな口調だが、相手の心を凍らせるほど冷たい声色に、村長含め三人は動けない。


 冷や汗を流し、ガタガタと震えている三人にゆっくりと近づき、黒いローブの男性は村長の肩に手を置いた。


「では、私達、管理者の元へ来てください? 小さいですが、違反は違反。罪を償って頂きますよぉ」


 村長の耳元で囁くと、今度は足元に黒い空間が現れた。

 抗うことなど出来る訳もなく、叫び声をあげることすらできず、村長は吸い込まれるように落ちる。


 残されたヤンキー二人の肩に、青年は手を置く。


「余計な事はしないでくださいねぇ? 大丈夫です。貴方達の村長は、罪を償う事が出来れば戻ってきますよぉ」


「耐えきる事が出来れば、ですがね――……」と言い残すと、黒いローブの青年は二人から離れ、瞬きをした一瞬のうちに姿を消した。


 二人はやっと恐怖という名前の拘束から解き放たれ、その場にへたれこむ。

 震える体を自身で抱きしめ、村長が消えた地面を見下ろした。


 何も言えず、考える事すら怖い二人は、何も声を発する事が出来ず、その場から動く事さえできなくなってしまった。


 ※


 次の日、俺達はギルドの受付嬢が持ってきてくれた朝食を食べ、朝を過ごしていた。


 んー、村長やヤンキー二人は大丈夫だろうか。

 後悔しているみたいだったし、余計な事はしないとは思うんだけど。


 …………なんだろうか。なんか、嫌な予感がする。


 朝食に出された珈琲を啜り、サンドイッチにかぶりつく。


 美味しい、美味しいけど、嫌な予感は消えない。

 いや、消えるわけがないんだけどさぁ。なんか、もやもやして気持ち悪いんだよこれ。


 眉間に皺を寄せながら朝食を食べていると、受付嬢が外から呼ばれてしまい席を外した。


 出入り口で何か話してるみたいだな。

 何だろう、で体全体を隠しているから性別すらわからない。


 サンドイッチを食べながら眺めていると、受付嬢がなにか慌てた様子を見せ始めた。


「あ、ちょっと!!」


 受付嬢に手紙を押し付けた黒いローブの人がいなくなると、困惑しながら俺達の方へと戻ってきた。


「どうしたんだ?」

「…………あの、私……。村長になれと、言われたのですが…………」

「…………ん?」


 え、村長に?


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 受付嬢が村長に任命されたらしい。


 なぜ、どうして。

 あのごく潰し村長が自ら地位を手放すとは思えない。

 何か、村長が出来なくなった理由があるのか?


 確認するため俺は今、アルカとリヒトと共に村長の家に走っていた。


「何がどうなっているんだカガミヤ! 村長は考え直してくれたんじゃないのか!?」

「わからんから今確認するため、村長の家に向かっているんだろうが」


 何もなければそれでいい。

 だが、さっきから感じる嫌な予感が、小屋に近づけば近づくほど強くなる。


 いや、もう予感ではない。

 どうか、取り返しのつく状況であってくれ。


 そう願いながら走ると、無事に小屋に辿り着いた。


 来てみるが、昨日から変わったところは無い。

 昨日のまま、寂れた所にポツンと小屋が一つ建っているのみ。


「はぁ、はぁ。な、何も変化はありませんね」

「はぁ……。そうだな」


 小屋の中も、変化はないのだろうか。

 ドア、鍵は開いているのだろうか。


 手を伸ばし試しにドアを開けようとすると、簡単に開いた。

 中を覗き込むと、薄暗い。

 もっとドアを開かなければ中を見回す事が出来ないな。


 キィィイイっと、扉を全開にすると、ヤンキー二人が壁に背中を預け、膝に顔を埋めている姿を見つける事が出来た。

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