第24話 俺の報酬を早くくれよ…………
おっさんの顔横の壁が、炎魔法により黒く焦げてしまった。
――――ちっ、狙いが逸れた。後ろからの叫び声に気を取られたな。
途中で炎の勢いを緩めたから、この程度で済んだのが幸い……か。
はぁ、後ろからの声、そういえばドアを閉めるの忘れていたな。
振り向けば、ヤンキーが俺の事を見てきている。
さっきの叫び声はおそらくバカンキー。
二人の表情、村長を大事にしているのが伝わってくる。
「……助かったな、お前」
「っ、な、は?」
「あの二人がいなかったら、俺はもしかすっとお前を殺していたかもしれん。俺が聞いた話が事実なのなら、お前の行いは人とは思えんからな、殺っていても仕方がない」
壁を凹ませちまったが、まぁいいだろ。
足をどけ、頭をガシガシと搔く。
村長は、俺の後ろにいるヤンキー二人を見て、後悔しているような顔を浮かべ俯いた。
…………あいつらの事は大事に思っていたんだな。
人を大事に思える心は、あるんだな。
「上に立つのなら、立ちたいのなら。まず、村を外の奴らによく見せるのではなく、内側の信頼を勝ち取りやがれ、村の人達を大事にしろ。やり方は何でもいい。明るく声かけるのも、裏で支えてやるのも。それは、村長であるお前が決められる事案だ。せいぜい頑張るんだな」
「…………」
なにも、反応なし、か。
俺の言葉は、ちゃんとこいつの耳に届いたのか。聞こえていなかったのか。
…………どっちでもいいか。今より少しでも村をマシにしてくれれば。
――――あ、そういや。
今は村の安否より聞かなければならんことがあるんだった。
「なぁ」
「…………なんだ」
「報酬、くれるんだよな?」
その場にしゃがみ、目線を合わせながら言うと、おっさんが目を丸くし、呆れたように笑いやがった。
なんだよ、馬鹿にしてんのか。
「わかった。報酬はくれてやろう。正規の報酬――……」
「の、三倍だ」
「…………ん?」
「三倍だ」
「い、いや、二倍…………」
「三倍だ」
「……………………はい」
よし。やっと、やっと手に入る。俺の、報酬!!!
「今、炎の玉で脅してなかったか?」
「気のせいだ」
おっさんが二倍と言いかけた時、右手に小さい炎を作りチラ見せしただけだ。脅したわけじゃねぇ。
ひとまず、俺の仕事はここまでだ。
あぁぁぁぁああ!! つっかれたぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!
なんで報酬をもらう為にここまでやんないといけなかったんだよ。
ふざけんなよ、なんなんだよ。簡単にもらえるようにしろよ。
いや、普通はギルドから簡単にもらえるのか。
今回の事態が異常だっただけで。
「はぁぁぁぁぁあああ…………。腰痛った。肩凝った、目が霞む」
「その発言、俺のじーちゃんが言ってっ――……」
「それ以上言ってみろ、おめぇの鼻が曲がる事になるぞ」
「ふひはへんれひた」
アルカの鼻を摘み、黙らせる。
自分でおっさんと言うのはいい。だが、お前が言うのは駄目だ。
俺はまだ二十代。後半だろうと二十代だ、反論は認めない。
俺とアルカが戯れていると、おっさんがまだ微かに震えている声で質問してきた。
「ぬしは、一体何者だ」
「違う世界から転移してきた二十代の一般ピーポーです」
「んな訳なかろう」
「それがあるんだがな」
本当のことを言うと、おっさんに呆れられた。なんでだよ。
「おい」
「なんだ」
「わしは、やり直せるのか? やり直しても良いのか?」
…………へぇ、なるほど
流石に、今回のは効いたらしいな。
ここまで変わるとは思っていなかったが、いい傾向だ。
だが、だがな?
それを俺に聞いてどうする。
「やり直したいと少しでも思うのなら、思うがままにやればいい。俺は知らん」
「…………わかった、これから頑張るとする。それより、後ろに転がされている二人を、もうそろそろ解放してはくれないか?」
あぁ、そういえば、縄でぐるぐる巻きにしていたんだったか。
「はぁ…………、わかったわかった」
ぐるぐる巻きにされているヤンキー二人に近付いて行くと、リヒトが走ってきているのが見えた。
「カガミヤさん!」
「お、機嫌は直ったか?」
「ふ、不機嫌になっていません!!」
頬を膨らませながら怒り始めるリヒト。
ひとまず、落ち着くように頭をポンポンと撫でてあげた。
その後は二人を解放してあげ、村長から報酬をもらい帰宅っと。
もう、問題はないだろうしな。
「最後に良いか、転移者よ」
「…………なんだよ、聞くなら一回にまとめやがれ。めんどくさいな」
「またわしが何かすれば、そなたが出て来るのか?」
「もしやお前、反省してないな?」
その言い方だと、俺が怖いから従うように聞こえるぞ。
「いや、反省はしている。もう、ぬしと関わり合いたくない」
「それ、本当に反省してんのか? 俺がいなかったら、また自由にやるつもりじゃないだろうな」
「そんな事はしない。もう、あいつらを危険な目に合わせたくはないからな」
村長の目は、ヤンキー二人に向けられている。
そうか、こいつもやっとわかったのか。大事な奴が危険に晒される恐怖と、怒りを。
「…………お前は、今まで色んな人から大事なもんを奪ってきた。俺があいつらを殺しても、お前に文句を言う資格はない。そんな立場に、お前はいる」
「わかっておる。わかって、おる」
後悔はしているみたいだな、それなら良かった。
この後、俺達は今度こそ三人揃ってギルドへと戻った。
もう、村長は大丈夫だろう。
なにより、報酬をもらったから俺がここに居る理由はもうない。
さてさて、今日はこの後報酬を眺め、ゆっくりと体を休めようか。
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