第23話 命は、そう簡単にきえねぇんだよ

 話を早く進めたくて単刀直入に聞いたら、アルカが耳元で叫びやがってさすがに驚いた。


 あー、耳が痛い。


「な、なんだと? 金?」


 あ、俺の言葉はしっかりと届いていたらしい。

 目を丸くしているけど、それはどうでもいいか。


「あぁ、ダンジョンを攻略したんだ。それ相応の報酬をもらう権利がこっちにはある」

「ダンジョン攻略をしたのは嘘だろ。お前らのような雑魚がダンジョンを攻略など出来るはずがない」


 …………へぇ、出来るはずがない、ねぇ……。

 墓穴掘ったな、糞村長、ククッ。


「なぜ、嘘だと言い切れる?」

「Bランクのお前らがSランクのダンジョンを攻略など無理な話。現実を見るがいい」


 ビビっていたおっさんが、いきなり勝ち誇ったように高笑いしてきやがった。

 気持悪いの感情しか出てこない。


「現実しか見てないから安心してくれ。現実を見ていないのはお前だろ」

「どういう事だ」


 ここからが、本当の勝負だな。


「なぁ、いつ、俺達がSランクダンジョンを攻略したと言った? お前はここのギルドから発注されるダンジョンを全て頭の中に入れているのか? それならすごい記憶力だ。だが、さすがに信じられんから、証明に今日発注されたダンジョンを教えてもらえるか?」

「は? い、いや、そういう訳では…………」


 焦り始めた。

 自分の失言に気づいたらしいな。


「なら、なんだ。何でお前は、Bランクのこいつらが、Sランクのダンジョンに入れ込まれた事を知っている」

「ほ、報告があったからだ」

「ほう。報告があったという事は、お前はその発注を容認したという事だよな? 間違いで送り込んだと聞いていたんだが、おかしくないか?」

「し、仕方がないだろ。報告が来たのが遅かったんだ」


 嘘を吐けば吐く程、穴は広がる。

 もう、お前は、言い逃れなど出来やしない。


「遅かったからと大事な村人が間違えて、死ぬかもしれないダンジョンに送り込まれたのを容認したのか?」

「間違えたのは仕方なかろう……」

「お前は間違いが何回も起こっているのに改善も何もしなかったと? 人間以下の微生物だな。いや、微生物に失礼だ。この、微生物以下の下等生物が」

「何だと…………?」


 部屋の中に入り、おっさんに近づくと、なぜか制しされた。

 止めるのは当たり前だろうな、近づかれれば俺がおっさんに何するかわからん。


 俺も、足を止める気はないけどな。


「それ以上近づいたら、どうなるかわかっておろうな」

「わからん。だから、近づく」


 再度歩みを進めると、おっさんはなぜか後退。逃げるように下がっちまう。

 そんなに怖いのか。ただ、近づいているだけなんだがな。


 まぁ、魔力が溢れているような感覚はあるがな。

 牽制くらいはしてもいいだろう。


「なぁ、間違いが何度も起こっているのに見て見ぬふりをするのは村長のやる事か? 俺は何度も言っているが、こいつらは死んでいたかもしれねぇんだぞ。それがわかっても、お前は何もせず傍観。それは村長のやる事か? 村長が考える事か?」


 おっさんは顔面蒼白、背中を壁にぶつけ逃げられなくなり、黙って見上げて来る。


「なぁ、お前は村人の一人死んでもいいとか思ってんだろ? なら、村長一人死んでも問題ないよなぁ? 村長だろうが何だろうが、この村に住んでいる”村人”なのには変わりない」

「な、何を言っている…………。わしは村長だぞ、この村で一番偉いんだ。お前のような者が殺してもいい存在ではなっ――……」


 まだ、言うか。

 これは、少々痛い目を見てもらわんといかんな。


 ポケットに手を入れたまま、足を振り上げた。


「なっ――」



 ――――ドカン!!



「…………あ、あぁ…………」

「…………」


 俺の足は、おっさんの顔付近の壁を蹴る。


「…………村長だからと、何をしても良い訳じゃねぇ。村長だからと、権力を振りかざしても良い訳じゃねぇ。村長だからこそ、村人を一番に考え、支えてあげ、認められる存在にならねぇとならん。恐怖心で支配されている者達が、お前に本当の忠誠心を向けるなんて事は、絶対にねぇんだよ」


 歯をガタガタと震わせ、見上げてくる。

 そんな顔を浮かべたところで、俺の気持ちは変わらん。


 そもそも、上に立つ者の思考じゃねぇんだよ、今のこいつ。


「人の命を簡単に捕らえるな、そんなに安いもんじゃねぇ。人間の命は簡単に亡くなっちまう。でも、残された人の心には残り続けるんだ。命自体は簡単に奪う事は出来るが、命があったという思いは、そう簡単に消す事なんて出来ない。だから、人の命は儚く、重たいんだ」


 ――――俺の記憶の片隅にも、残っているからな。

 何も思っていなかったにしろ、どんな相手だったにしろ。

 命が散った事実は、頭の片隅に残り続ける。


 どんなに悪い奴でも、関わっていなかったとしても。

 名前を知り、頭に少しでも刻まれてしまえば、もう完全に消える事はないだろう。


「だが、お前はどうだろうな。村人の中に記憶として残るのか。それとも、忘れられるのか。試してみる価値はありそうだな」

「な、何をするつもりだ…………」

「安心しろ、痛みを感じる事なく、気持ちの良い場所に送り届けてやるだけだ。地獄と言う名の、お前にとって心地の良さそうな場所にな。漏らすんじゃねぇぞ、くそじじぃ」


 今度は野球ボールくらいはある炎の玉を右手に作り出し、足で逃げ道を封じる。

 いまだに体を震わせ、鼻水や涙を流し助けを求めるように見てきた。


「今までの自身の行いを悔い、あの世で後悔しな」


 右手を前の出し、炎を食らわせ――……


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」

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