第20話 俺の魔力が無限なら良かったんだが、無理なんだ諦めろ精霊よ

 知里達が村長の建物に向かっている時、村長の家の中では、三人の男性が円を作り座っていた。


 部屋の床はフローリング、その上に絨毯が敷かれ、大の大人が三人いても余裕で余るほどの広さはある。

 壁側には小さな本棚、奥には布団が畳まれていた。


 そんな部屋の中心で、七十代位の老人が肘置きに寄りかかり本を読んでいると、壁側に座っていたヤンキーのような髪型をしている二人の内一人が顔をあげ、老人を呼んだ。


「村長」

「どうした、何かあったか?」


 村長と呼ばれた老人が、男性の声に目線だけを向けた。


「外に仕掛けていたトラップ魔法が発動しました。侵入者です」

「ほぉ、なるほど。だが、あのトラップ魔法で引き返しただろう。それか、死んでしまったか。カッカッカッ!!!」


 顔をあげ高笑い。

 顔に深い皺が刻まれ、垂れている目は不気味に歪む。


「いかがいたしますか」

「一応確認だけはしておけ。もういないと思うがな」

「了解」


 村長の言葉を最後に、ヤンキー二人は顔を提げ返事。同時に立ち上がると、両開きの扉を開き、部屋の外へと姿を消した。


 残された村長は目を細め、扉を見続ける。


「…………ふーむ。何やら、胸騒ぎがするのぉ。良からぬ事が近づいているような気がする。警戒だけはしておくか」


 それだけを言うと、先ほどまで読んでいた本に目線を戻した。


 ※


 アルカが叫ぶのと同時に、全方位から俺達に向かって複数の丸太がぶっ飛んできただとぉぉお!?


flameフレイム!!」


 咄嗟に魔法を発動したからか、威力がない! 

 だが、少しは薙ぎ払う事は出来た。


「――――っ!」


 flameフレイムは、手のひらから火球を作り真っすぐ放つ魔法。

 全方位攻撃の場合、後ろが間に合わない!!


『ご主人様!!!』



 ――――ゴォォォオオオオオオ!!



 っ、スピリトが後ろに飛び、炎の竜巻で全ての丸太を焼き尽くしてくれ……た?


 う、うわぁ。これが、精霊の力。

 今だ、空高くまで炎の竜巻が上っている。

 黒煙が風により横へと流れ、視界がやっと晴れてきた。


 い、一瞬のうちにいろんなことがあり過ぎて、思考が回らない。


「だ、いじょうぶか。カガミヤ」

「死んだ」

「生きてんだろ、むしろ無傷だろうが」


 気持ち的に死んだんだよ、マジで今回は死ぬかと思った。

 スピリトが居なかったら危なかったな、こう考えると精霊って使えるな。


 っ、て。あれ、待てよ。

 精霊が魔法を使ったって事は、俺の魔力が減っているという事じゃないか?


「アビリティ」

『はい』

「パラメーター見せて」

『はい』


 映像が現れた。

 えっと、俺の魔力…………やっぱり。

 一日寝て全回復していたはずの魔力が、昨日の比ではないくらい減っている。


 五分の一は減ってんな。

 今の竜巻の威力からして驚きはしないが、それを今使ったのには驚くぞ。


 このまま使われ続けられると、いくらチート魔力を持っていたとしてもすぐに無くなる。


「おい、精霊」

『?』

「俺の魔力も無限じゃない。今のような力は抑えてもらえると助かる」


 おい、なに潤んだ目で俺を見てやがる。

 そんな目をしても駄目だ、俺には効かん。


「今後、同じような魔力をいっつもかっつも使ってみろ。お前が欲しいと思った時、魔力はなくなり魔法を出せなくなる。そうなれば、俺は無防備になり、何も抗う事が出来ず死ぬ。死んでもいいなら、使い続けてもいいが、どうなんだ?」

『い、嫌だ……。いなくならないで……』

「なら、力を抑えてくれるか?」


 顔を青くし、頬に擦り寄ってくる。

 ひとまずは頷いてくれたということで、今回のはよしとするか。


「んじゃ、ひとまず中に…………あ」


 建物を見ると、二人の男。というか、ヤンキー二人が立っていた。

 見覚えがあるなぁ、昨日とかで。


「ま、まさか。お前らがこれをやったのかぁぁあぁぁああ!!!」


 バカンキーの方が今の現状に対し叫び声をあげやがった。


 まぁ、そうだよな。


 俺も冷静に周りを見回してみるけど、これは確かに驚くわ。

 地面まで真っ黒こげになっているもん。


「現状を見るに、貴方達がトラップ魔法を跳ね返したのでしょうか?」

「みたい、物理的に」

「どうやって…………。そう簡単に切り抜けられるほど甘いトラップではなかったはず」


 困惑している冷静ヤンキー。

 サングラス越しだから目元は見えないし、口元もマスクで隠している。それでもわかるほどの驚きっぷりだな、愉快だ。


 こいつらの反応からして、今まで切り抜けた人はいなかったんだろう。

 俺もギリギリだったし、スピリトがいなければタダでは済まなかった。


 簡易的なトラップだが、丸太の数で苦しめられる。

 確かに、甘くは無い。


「安心しろ、俺じゃなければ危なかった。このトラップは使えるな」


 すり寄ってくるスピリトの頭を指で撫で、肩に乗せる。

 このくらいはしてやんなきゃな、助けてもらったし。


「まさか、あんたにそんな力があったなんて………ん? それは……」


 冷静ヤンキーが俺の肩辺りを指さしてきた。

 スピリトが気になるのか?


「こいつは、俺がご主人様らしい精霊だ」

「精霊……だと?」


 え、なに。サングラスがずり落ちてますよ? この光景を見た時より驚いてるじゃん。 

 確かに精霊は希少らしいけど、そこまでなのか? 


 いや、驚くか。

 俺もいきなり目の前にツチノコが現れたら驚くもん。それと一緒か。


「なぜ、精霊を持っている。どこで手に入れた!!」

「え、どこでと言われましても……。おめぇらがアルカ達を行かせたんだろ? あの、Sランクのダンジョンに」


 言葉を失ったらしいヤンキー二人は、お互いに顔を見合せ、頷きあったあと何を思ったのか。

 腰に巻いていたであろうホルスターから一丁の拳銃を取り出した。


「……………………え?」

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