第21話 なんで一番の被害者が加害者みたいな扱いされてんの?
「どうやら、貴方にはここで死んでもらう必要があるみたいだな」
「いや、ないです」
「ひとまず、死んでください」
「ひとまず俺の話を聞け」
銃口を俺に向け、死ぬようにお願いされた。
そんなの、素直に受け入れられるわけないだろう。
でも、銃口を向けられれば、こちらは両手を上げ降参ポーズをするしかないわけで……。
「――――ん?」
なんだ、ヤンキーが向けてきている銃口、光ってる……?
魔力が込められているのか?
あのヤンキー二人の魔法は、拳銃を利用して出すものということで、いいのか?
「お前の話を聞く必要はもうない。精霊持ちは始末、指示に従うまでだ」
言うと同時に、ヤンキーが引き金を引いた。
――――パンッ パンッ パンッ!!!
放たれたのは弾丸じゃなくて、氷の礫!?
「――――っ」
頬、掠った程度で、済んだ……か?
「っ、カガミヤ!! 大丈夫か!?」
「大丈夫だが…………」
痛みのある頬に手を添えてみると、血が指先についた。
切れてしまったらしいが、浅い。
手元でも狂ったのか? 俺は顔を横に傾けただけなんだが……。
「ちっ……」
あいつらの属性は、氷か?
さっき銃口が光っていたのは、魔力を集約させていたのか!
「運がいいようだ。だが、その運もいつまで続くか」
「さっさと死んでくださいこらぁぁぁぁぁああああ!!!!」
――――――パン パン
っ、またしても発砲音。俺を狙いやがって!!
地面を蹴り走り、狙いを絞らせないようにしなければやられる! が、体力も無限では無い。喉が痛くなってきた。
早くどうにかしねぇと、俺の肺と喉が死ぬ。
『ご主人様、ご命令を』
「いきなり、っ、そ、そんな事、言われたとしてもなぁ」
こんな状況で頭が回るほど俺はまだ戦闘慣れしていない。
すぐに指示を出すなんて、無理だぞ。
「待ってろカガミヤ!! 俺がどうにかしてやる!!」
「え、ちょっ!! 勝手に動くな!! っどわ!!」
アルカがいきなりヤンキー二人に向かって走り出しやがった。
止めようとするが、氷の礫がまだ俺の方に向かって来て動きを制限される。
「小癪な真似を」
あ、弾丸の雨が止んだ。アルカに気が逸れたらしい。
今のうちにあいつの無茶を止めねぇと!
俺に向けていた二人分の銃口は、走っているアルカへと向けられている。
「余計なことをするなら、死んでもらおうか」
「しねぇぇぇぇぇええ!!!」
おいおい、アルカ。剣を構えたところで意味はないだろ。
お前は氷の礫を切るつもりか?!
――――――――パンッ パンッ
氷の礫がアルカへと真っすぐ放たれる。
走っていたから距離が無い、避ける事は出来ない!
――――――――っ!!
当たる――――そう思ったのに。
まさかの展開に、口をあんぐり。
「え、え? アルカが、剣で氷の礫を、斬った……?」
アルカが剣を水平にし、放たれた氷の礫を目にもとまらぬ速さで斬った。
「嘘だろ!?」
「なんでだよ!!!!」
ヤンキー二人が驚いてる。
そりゃ、驚くよな。まさか、弾丸を斬るなんて誰が思うんだよ。
氷の礫を切ったアルカは顔を上げ、剣を片手に二人へと走り続けた。
「俺だって、今まで何度も自分より強いモンスターと戦ってきたんだ。これぐらい日常茶飯事なんだよ!!!」
「っ、くそぉぉおお!!!」
――――っ! よし、バカンキーに飛びつき床に倒させた。
剣を首筋に当てているから簡単に動く事は出来ないだろ。
すぐさま冷静ヤンキーが銃口をアルカに向け氷の礫を放とうとしている。
だが、俺は今フリー。
アルカが作ってくれたチャンス、逃す訳ねぇだろう。
「信じてやれんで悪いなアルカよ。お前、結構強かったんだな」
俺の手には、炎の弓。
――――――――準備は、整った。
弓を構えている事に気づいた冷静ヤンキーだが、遅い。
「っ、しまっ――……」
「終わりだ。
右手で引いていた弓を、冷静ヤンキーに向けて勢いよく放った。
弓矢の先に炎の渦が出来上がり、弾丸を何度も撃ち勢いを殺そうとしているが意味はなく、勢いは殺されない。
そのまま、行け。
「っ、くそぉぉぉおお!!!!!」
――――――シュッ
「――――は?」
「お、良かった良かった。放った後でも魔力をコントロール出来れば、途中で消す事が出来るんだな」
放たれた弓矢は、ヤンキーに当たる直前で散った。
頭の中でイメージしていた通りになって助かったよ。
もし当たってしまっていたら、冗談抜きに人殺しになるところだった。
怯えている冷静ヤンキーの前に立つと、その場にしりもちを突いちまった。
怖いのか? だが、俺は逃がさんぞ。
ここからは、楽しい楽しい雑談タイムだ。
顔面蒼白で、体を震わせているヤンキー君には聞きたいことが山ほどある。
話しやすいようにしゃがむと、後ずさり始めた。
逃がすかよ、肩を掴んで動きを止めてやるわ。
「なぁ、村長に会わせてくれるよな?」
「…………くそ」
あ、目を逸らされた。
やっぱり忠誠心は強いのか、簡単に折れてくれなさそう。
今より怯えさせてもいいが、恐怖心だけでは忠誠心が強い奴は折れない。
恐怖心プラス何かを植え付けたいな。
「――――っ、あ、アニキ!!! 今すぐ逃げてください!!!」
「っ! 馬鹿言え、逃げる訳にはいかねぇだろ。こんな所で逃げちまうという事は、村長を裏切る事となる」
アルカが抑え込んでいるバカンキーが何やら叫び出した。
なんだ、これ。なんか始まった。
「それに、ここで俺が逃げちまったら、お前が何をされるかわからんだろ。俺は絶対に、逃げる訳にはいかねぇな」
「俺の事はいいんすよ。アニキさえ生きていれば、俺は何もいらねぇ!!」
「馬鹿言うな!! 俺一人生き残っても、俺自身が何も嬉しくねぇんだよ!!」
「でも、アニキ…………」
………………………………。
待て、待て待て。
なに、お涙頂戴劇やってんだよ、気まずいからやめて。俺が悪者みたいじゃん。
「おい、待てやてめぇら、何勝手に被害者ぶってんだよ。現状で一番の被害者は俺やぞ、お? 知ってるか、俺が一番の被害者やぞ。突如異世界に転移させられ、無理やりダンジョン攻略させられ、挙句ダンジョン報酬はよくわからん精霊。やっと念願の金をもらえると思ったらこの有様だ。本当にどうなってんだよ、俺の金はどこだ、早く寄越せ糞ヤンキー共」
唾を吐き出してやろうか、あぁ? 衛生上良くねぇからやんねぇけどよ。
俺が悪者みたいになっているのが気に入らねぇな、一番の被害者なのに…………。
「俺は村長に会わせろと言っているんだ。断るのならそれでいい。お前らと関わる方がめんどくさい事に今気づいた」
何とか説得させようと思ったけど、それの方が何倍もめんどくさいからもういいわ。勝手に中に入るわ。
「だが、さっきお前は――――」
「うるさい、もういいよ。この中にいる事はわかったし、あとは自力で探す。見た感じ中は、そんなに広くないだろ」
「ま、待て!!」
冷静ヤンキ―の横を通り抜けようとした時、ズボンの裾が引っ張られる。
「おい…………。いい加減にしてくれ。俺は早く報酬が欲しいんだよ」
報酬が欲しいだけで、何でこんな事をしないといけないんだよ、泣きそうだ…………。
掴まれているズボンを脱げないように掴み、こいつの手を払おうとしたら、アルカが控えめに声をかけてきた。
「な、なぁ…………」
「どうした」
アルカよ、絶対にその手は離すなよ? またそいつが暴れ出したらめんどくさい。
「こいつらを動けないように縛ってから、中に入ればいいんじゃねぇの?」
「…………そ、うだな」
まさかの提案に思考が止まった。
俺も頭が固くなっていたな、こんな単純な事が思いつかなかったなんて、あははははは。
意外にバイオレンスだな、アルカよ。
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