第17話 どんな言葉でも、人に届けるのなら責任は絶対に持て

 テーブルの上にある野菜サンドを口の中に入れると、シャクシャクと新鮮な音が鳴る。

  

 へぇ、作り立て? 野菜、新鮮だなぁ、普通に美味い。


 最後の一口を頬張り、呑み込む。

 これだけでもう満足だな。


 珈琲の香りも鼻をくすぐり、気持ちが落ち着く。

 飲みやすい温度だし、最高の朝だ。


「朝食を楽しむのは良いが、早くこれからの事考えようぜ?」

「今の時間くらいは楽しませてくれよ。これからめんどくさい事が起きるんだから」

「“起きる”ではなく、”起こす”だけどな」

「確かにそうだな。どうでもいい訂正をあんがとよ、アルカ君や」


 隣で呆れ顔を浮かべるアルカ。

 リヒトは元受付嬢と楽し気に何気ない会話をしていた。


 いや、元受付嬢は無理に笑ってんな。

 リヒトもそれに気づいているけど、あえて楽しく、くだらない話をしている。


 全員がサンドイッチを食べ終えた事を見計らい、話している二人に声をかけるか。


「おい」

「っ、え。なんですか?」


 おいおい、呼んだだけで怪訝そうな顔を浮かべないでくれよ。

 これからの事を話したいだけなんだっつーの。


「これから村長に直談判しに行こうと思っているんだが、居場所しってっか?」

「…………やっぱり、行くんですね」

「行く。早く報酬をもらわねぇといけないんだからよ」


 報酬、大事。

 絶対に、諦めないからな。


「そうかもしれませんが……。本当に大丈夫なんでしょうか。もし失敗したら、何をされるかわかりませんよ」

「それはお前の場合、現状と同じじゃねぇの? 仕事をクビにされたニートさん」

「なっ、それはさすがに言い過ぎですよカガミヤさん!!」


 元受付嬢と話していると、最後の言葉にリヒトが反応しちまった。

 くそぉ、口が滑った。


 早くここから出よう、余計な言い争いをしないために。


「アルカ、村長がいる場所は知ってるよな?」

「え、あ、あぁ」

「案内してくれ」

「い、今すぐか?」

「ここで打ち合わせをしたところで、結局村長と話し合うのは俺だしな。なんとかするさ」



 仕事の打ち合わせの時も、相手に合わせてやらなければならんかったからな。

 臨機応変には慣れている。


 呼ばれたアルカは俺と共に立ち上がり、壁に立てかけていた剣を片手について来た。


「…………リヒトは、行かないのか?」

「行かない」


 ――――まぁ、そうなるか。

 リヒトは、完全に俺と考えが違う。邪魔をしてこないだけ良しとしよう。


「え、えっと…………」

「アルカ、気にするな。俺達は先に行くぞ」

「え、でも…………」


 アルカはリヒトが気になっているらしい。

 気になられても、今話せることはないから、早く事態を解決するために動いた方がいいと思うんだが……。


 これを言うと、また場が荒れる。

 どうするかぁ……。


「いいよ、アルカ。カガミヤさんの道案内してあげて」

「わ、わかった……」


 おっ、戸惑いながらも、アルカが進んでくれた。

 リヒトが促すなんて思わなかったな、安心だな。


 二人を残しドアを閉めようとした時、震えるリヒトの声が聞こえた。



 ――――信じているから、カガミヤさん



 …………はぁ、成功させるしかなくなったじゃん、俺の逃げ道を塞がないでくれよ。


 ※


 ギルドの外に出ると、またしても人、人、人。もう、死にたい。

 

 目の前の光景に絶望していると、アルカがまだ不安そうに後ろをちらちらと見ていた。


「大丈夫かな……」

「あの二人なら問題ないだろ」

「でもよ……」

「女の事は女に任せるのが一番だ。女の事をわかっている風に何か言おうものなら、こっちが言葉の刃を突き立てられるぞ」


 女の沸点はわからんし、怒らせたら何をするのか予想すら出来ない。

 今は、任せた方がいいだろう。俺の今後の人生の為にも。


「…………実体験か?」

「ノーコメント」

「あ、あぁ……」


 さてさて、今日も天気がいいらしいな。

 太陽が元気そうだぁ~。


 気温がどんどん上昇、スーツのジャケットを脱ぎたい。


 首元から空気を取り入れようとパタパタ動かしながら周りを見るが、何度見ても人まみれ。店の勧誘の声が飛び交い、活気が凄い。


「無理やり動かされているとはいえ、このままでもいいんじゃねぇの?」

「見た目だけなら明るくて楽しい村だよ、ここ。でも、違うんだ」

「何が違うんだよ」

「…………違うんだ、これは、違う」


 いや、違うのはわかったって。


「詳細を言え、詳細を。さすがに俺だって細かく教えてくれねぇとわかっ――――」


 隣を歩いていたはずのアルカが、何故か足を止め俺の視界から消え、た?

 おいおい、こんな人込みで止まるとか、他人の迷惑も考えろよ。


「おい、さすがにこんな所で止まったら……。はぁぁぁ。本当に、具体的に話せや、どんだけ説明が苦手なんだよ」


 後ろを振り向くと、アルカが俯き横に垂らしている手を強く握りしめていた。

 何かを思い出して、怒りを抑え込もうとしているみたいだ。


「おい、早くこっちに来い。人込みから早く解放させてくれ」

「…………わかった」


 やっとアルカが歩き出し、俺の隣に来た。

 再度アルカの道案内で村長の住む家に進む。


「何に怒ってんだが詳しく知らねぇが、人込みで止まるな。人の迷惑も考えろよ」

「悪かった」

「まったくだ、俺はお前を無視しあの場から逃げたくなったぞ」

「…………悪かった」


 謝罪するなら金をくれ。

 …………これは少し違うか。


「まぁ、過ぎ去った事をとやかく言っても仕方がないしな。なんでお前がそんなに怒りを露わにしているのか、前回より詳しく教えろ」

「別にいいが、カガミヤにとって有力な情報になるかわからないぞ」

「有力な情報かは聞いた後に俺が決める。お前が勝手に決めるな」

「わ、悪かったって……」


 バツが悪そうに顔を背けた。

 アルカって、強気なのか弱気なのかわからんな。


 まぁ、いいわ。早く話してくれ。

 なぜお前がそんなに怒り、苦しそうなのかを。


「…………これは、俺がなんでギルドに所属したのかの話になるんだが――――」


 え、そんなところから始まるの? 

 眠らないようにしないと駄目じゃん。手短にお願いします。

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