第16話 女より俺は金の方が興奮するぞ

 俺達四人は、ひとまず今日は何もせず休む事にした。


 だが、休むと言ってもどこで? という話になり困っていると、受付嬢がギルドにある奥の部屋まで案内してくれた。


 ギルドの奥、空いている部屋は一つだけらしい。

 受付嬢は自分の部屋があるみたいで、俺達三人が一つの部屋に寝る事となった。


「それじゃ、何かあればお呼びください。明日の朝、迎えに上がります」


 それだけを言うとドア付近で腰を折り、廊下へと消える。


 改めて部屋の中を見回してみるが、三人で過ごすには少し狭いな。宿泊無料だから文句も言えないけど。

 

 周りに置いてある物は必要最低限。

 テーブルに椅子、壁側に一つだけのベット。


 一つだけか、ベット。よしっ。


「ここは俺のものだな」

「もう、当たり前のようにベットに横たわってんじゃねぇか」

「当たり前だろ、俺なんだから。今回一番疲れたのは俺だぞ、休ませろ」

「別にいいが…………」


 アルカは呆れてリヒトの方を見た。


 顔を見合わせても、リヒトが何を言っても俺はベットを譲らないからな。

 眠らせろ、しっかりと休ませろ。


「あの、カガミヤさん」

「なに」

「さっきの言葉は、本当ですか」


 …………ん? ベッドの話か!?


「何を言われても、俺のベッドだぞ!」

「違います。さっきの話と言ったら一つしかないでしょう」


 あぁ、もしかして、受付嬢の事か?


 ん? 後ろから足音が近づいて来る。

 リヒトが近づいて来ているんだろうなぁ。


 足音が聞こえ始め数秒後、上から影が差す。

 壁側を見ているはずの俺の視界に、フリルのついた袖が見えた。


 色白の手が俺の動きを制限してくる。

 頬にピンク色の髪が触れ、くすぐったい。


 横目で上を見ると、リヒトが覆いかぶさるように見つめてきていた。


「おい、何の真似だ。どけろ」

「私の質問に答えてくれたら、どけますよ」


 うーん、紅色の瞳が離してくれない。

 答えるも何も、俺は嘘なんて言った事ねぇのに。


「えぇっと、質問内容は、俺がさっき言った事は本当か嘘かって事であっているか?」

「…………はい」

「それなら答えは、本当。俺は、思った事しか口にしねぇし、やる事しかお前らには言ってない。今回の場合、嘘を言ったところで俺にメリットはない。意味のある行動しかとらない主義なんでね、これでいいのか? 質問の回答」


 これ以外に何も言えねぇよ。

 言った通り、嘘を吐く理由が俺にはないからな。


「では、本当に報酬をもらうのと同時進行で村長を説得し、この村を変えてくれるんですね。間違いはありませんよね」


 こ、声に圧がある。

 やるとは言ったが、成功するとは言ってねぇぞ。それはわかってんだろうな?


「何度も言わせるな。俺は報酬をもらうため、村長を説得するだけだ。それ以上の事はしない。つーか、納得したからお前は俺の提案に頷いたんじゃねぇのかよ」

「信じたいと思ったから頷いたんです。でも、貴方の本心は今でもわからない。どこまでが本気で、どこまでがふざけているのか」


 え、それは、俺の事を全く信じていないって事か!? 

 あんなに何でも教えてくれたのに……。


「酷いなぁ、俺はいつでも大真面目だぞ。ふざける時なんてある訳ねぇだろ、特に今はふざけるところでは無い」

「貴方なら何をしでかすか分からないんです。なので、貴方の本心──見せてください」


 耳元で囁くように言うリヒト。

 これはあれか、誘っているのか? 

 そう思うほどに距離は近く、動くに動けない。


「見せてるっつーの。つーか、近くねぇか?」

「…………え?」


 こいつの腕のリーチ的に、俺が目だけでなく顔を動かせば普通にぶつかる。

 何がとは言わん、顔の一部とだけ言っておこう。


 異性同士だし、事故とはいえ、さすがにまずい事になるぞ。俺が。

 逮捕案件だ。


「男に飢えてんなら他を当たってくれ、俺はもっと巨乳の大人なレディじゃなければ興味はなっ――――いや、金を持っていないと巨乳でもごめんだな」

「…………さいってぇ!!!!!」

「っ、耳元で叫ぶな!!」


 自ら離れてくれて助かったが、鼓膜が破れるかと思ったぞ。


 顔を真っ赤にし、胸を押え俺を見てくるリヒト。

 そこはしっかりと恥じらいを持っているのか。


「今日はもう遅い、早く寝ろ」


 こいつらはまだ何か言っているが、俺は知らん。

 眠い、さっさと寝かせろよ。


 あ、目を閉じると、どんどん睡魔が襲ってきた……。

 さすがに体が疲れているんだなぁ。瞼が重くなってきたし、考えるのは明日でいいや。


 今日は、寝る。


 ※


 瞼を閉じていても光がさしているのがわかる程、外が明るくなってきた。

 でも、まだ眠い。あと五時間くらい寝かせてくれ、これは多分寝れるかっ――……


「起きろカガミヤァァァァァァァ!!!!!」


 ――――ゴスッ


「だまれ」

「ぐふっ!!!」

「アルカぁぁぁああ!?」

「あ」


 耳元で叫ばれたから、反射的にアルカの腹部を蹴ってしまった。

 俺の反射ってすごいな。真後ろに居たアルカの腹部をピンポイントで蹴る事が出来た。


「ふあぁぁぁあああ。えぇっと、今何時?」


 体を起こし、体を伸ばす。

 あくびが口から洩れ、涙を指で拭いて周りを改めて見てみた。


「謝罪はないのか…………」

「俺の後ろに立ち、鼓膜を破るほどの勢いで大声を出してきたお前にも非はあると思うが? 俺だけが謝らんといけないのか?」

「…………悪かった」

「しょうがねぇから許してやるよ」


 蹲っていたアルカは謝罪をした後、立ち上がり俺を見て来る。

 睨んでいるわけではないみたいだが、なんだよ、俺に何か用か?


「なぁ、カガミヤは金あるのか?」

「あると思うか? 無一文でここに放り投げられたんだぞ。それに、報酬ももらえてない。持っていると思うか?」

「持っていないの一言で良かったんだが……」

「持ってない」

「そうか……」


 なんだよ、お前の質問にしっかりと答えただろう、肩を落とすな。


「いきなりどうしたのアルカ」

「いや、これから何が起きるのかわからないから、そんな薄っぺらい服だと危険じゃないかなと思ってな」


 あ、なるほど。

 確かに、今の俺は血の付いたスーツしか持ってない。

 ワイバーンのようなモンスターを相手にするのなら、これだと心もとないよな。


 アルカやリヒトみたいな服は特殊加工とかされているだろうし、俺も欲しい。

 出来れば、防御力が高い物。


 アルカの言葉にリヒトが納得したらしく、俺の服を改めて見てきた。


「あー、なるほど。確かに、何か特殊な加工がされていれば大丈夫だとは思うけど、そんな風には見えないね」

「あぁ、だから今日は話し合いをした後、まずカガミヤの服を買いに行こうかと思う。どうだろうか」


 そんなこと聞かれてもなぁ……。

 こいつらの服はどんな加工がされているんだろうか。


「ちなみに、お前らの剣士や魔法使いのような服は、なにかしらの加工がされているのか?」

「俺のは近戦が主だから、物理攻撃に耐性のある素材を利用した服を買った。逆にリヒトは中距離戦闘や回復が主だから、属性攻撃に耐性ある素材を利用している」

「なるほど。そこはしっかりとその人にあった素材を考えているのか」


 なら、俺の場合はなんだろうか。

 魔力を使い魔法を放つことが多くなりそうだから、リヒトと同じく属性攻撃の耐性がある素材の方がいいか?


 …………なんでもいいか、俺の体を守ってくれればそれでいい。

 それより、一番の問題がある。


「すごいありがたい提案なんだが、金はあるのか?」

「少しならあるぞ。だが、そこまで良い物は買えない。今の服よりは少しマシ程度だな」


 やっぱりそうなるか。

 それなのならその金は、予備で持っていてほしいな。


 まったく金がないのは困るし、気持ち的に落ち着かない。

 今回は諦めるしかないな。


「服については後でにしよう、どうしても欲しい訳じゃねぇし。他の事を優先するぞ」

「優先?」

「村長を説得し報酬をゲット出来れば、金の心配もしなくていいだろう。ダンジョンに行かなければモンスターと戦う事もないだろうし、服は後回しで構わない」


 言うと二人は納得したように頷く。

 なんか、部下に仕事を教えているような感覚だなぁ。


 俺の言葉にアルカがやる気を出したらしく、目を輝かせドアへと向かって行った。


「それなら、早く行こうぜ!!」

「おい、待てって――………」



 ――――ガチャ



 アルカがドアノブを回そうとした時、外からドアが開かれた。

 そこには、ワゴンに朝食を乗せ、昨日の受付嬢が立っていた。


 転がしているワゴンの上には、湯気が立ち上っている珈琲とサンドイッチ。

 美味そうな香りが部屋に広がって、食欲が膨らんじまう。


「おはようございます、朝食をお持ちしました。簡単な物しか準備が出来ず申し訳ありません」

「いや、これがいい。あんがと」


 テーブルを囲い、朝食タイム。

 現代にいた時は、適当にゼリーとかで過ごしていたから、こんな立派な朝食は久しぶり。


 というか、初めて? どうでもいいか。

 今は、この時間を楽しもう。

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