第15話 怖かろうが何だろうが、行動を起こさなければ時間の無駄だ

「…………どっちにしろ、君の戯言に付き合っている暇はない」


 おい、結局俺の言葉信じてくれてねぇってことじゃん。

 酷い、俺、嘘なんて言ってないのに……。


「今日は一つだけ伝えさせて頂きましょう。受付嬢さん、貴方には約束通り、ギルドの案内人を降りてもらうよ」

「そ、そんな……」

「それだけで済んだと思った方がいい。この男が居なければ、今頃貴方はここに居ない」


 サングラスを少し下げ、女を睨みながら言い放ち部屋を後にする。

 わぁお、今以上に怒らせたらまずかったかもしれないと思わせるような瞳だったな。


 正直、ここで引いてくれてよかった。

 まだ魔力をコントロール出来ていない俺が、ここで戦闘を行うのは避けたい。


「…………」


 ドアから出る際、何故か冷静ヤンキーに睨まれた。

 さっきより鋭い眼光で怖かった、チビったらどうしてくれんのさ、やめてよ。


 ドアが閉まり、静かな空間が広がる。


「さて、この後はどうするっ――――うざ」

「それはさすがにないでしょうよ…………」


 振り返ると、女が声もあげずに涙を流していた。

 思わず本音が口から零れ、リヒトから呆れ眼を向けられる。


 そんな目を向けられても、どうする事も出来んよ。

 泣いている女の慰め方なんて知らんし。


 俺は報酬さえもらえればぁ…………あ、そういえば。


「村長の所に行かないと報酬ってもらえないのかな。もらえないだろうなぁ、直談判がもう早い気がするよ。という訳で、村長ってどこにいるんだ?」


 泣いている女に問いかけると、リヒトからの視線だけでなく、何故かアルカからも同じ目線を向けられた。


 いや、なんで俺は見られているの?

 なんで、蔑まされているの? わからん。


「今は、そんな話ではないと思います」

「それじゃ、何の話?」

「受け付けの人が理不尽に職業を失い、もしかしたらこの村を追われてしまうかもしれないんですよ。それなのに、貴方は自分の報酬を優先するのですか?」


 リヒトが受付嬢の背中を撫でながら、怒気の含まれている口調でそんなことを言ってきた。


 相当怒ってるなぁ、俺を見る鋭い瞳。

 体が凍ってしまいそうな程、冷たい視線だ。

 

 確かに、今回のは理不尽だとは思うし、同情もする。

 だが、同情したところで現状に変化がもたらされることは無い。


 同情したからと言って、この女がまた受付をさせてもらえるなんてことも無い。

 そんな時間の無駄はできる限り避けたい、そう思っているだけなんだけどな。


「そもそも、そいつが自分に負けただけだろ」


 顎で受付嬢を差しながら言うと、リヒトが守るように俺と受付嬢の間に入ってきた。


「はぁ……。俺はな、アルカのやり方は馬鹿な事だが、それでも価値のある事だと思った。自分に負けず、抗おうとしたんだからな。だが、その女は何かしたか? 村長を説得しようとしたのか? おそらく、していないだろう。いつかこうなっていた事を予想出来なかったのはそいつだ。何も行動せず、周りに身を任せた結果そうなっただけ。自業自得だろ、俺が何かしてやる義理はない」


 はっきりと言ってやると、リヒトが目の前まで来た。

 怒りでなのか瞳が揺れている。そんな目で、俺を見上げて来る。


 何を言うつもりだ、俺は間違えた事は言っていない。

 何か言い返すなんて無理だろ。


「…………」


 ――――そう思うのに、こいつの目に見つめられると体に冷たい何かが走る。

 なんだ、この感覚、気持ちが悪い。


「…………それでも」

「っ、あ?」

「それでも、行動を起こせない人はいます。頭でわかっていても、今後どういう結末になると予想しても。怖くて、その場から逃げたくなる。そんな、弱い人だって必ずいるんです。みんながみんな、貴方みたいに強い訳じゃないんです!!」


 リヒトの、大きな怒声が部屋いっぱいに響く。

 …………流石に驚いた。まさか、ここまで言われるなんて思ってなかった。


 目を逸らさない、強気な表情。

 すげぇな、こいつ。他人のために、ここまで怒れるなんて。


 それに、怒り任せな言葉だが、一理ある。

 助かるな、このようにぶつかることにより、新しい意見や考えが芽生える。

 視野が狭くならずに済む。


「…………俺は考える」

「――――っ、え、急にどうしたんですか」

「リヒトの考えも一理あるなと思っただけだ、不安そうにするな。これから考えるのは、村長にどうやって接触をするか、説得はどうするか。言葉で駄目なら、力技でやる事も視野に入れないといけないとか。まぁ、色々だ。報酬を貰うためには、これらを考え行動しないといけないみたいだからな。はぁ、めんどくせぇ……」


 頭をガシガシと掻いて、ドアを開けようとした……んだが、後ろから聞こえる会話に足が自然と止まる。


「あの、ありがとうございます。私は大丈夫なので、安心してください」

「でも…………」

「ありがとうございます。これから村を出るかもしれないので、準備を始めます」


 涙を流しながら微笑む女を目の前に何も言えなくなったリヒトは、女を抱きしめ背中を摩る。

 アルカも申し訳ないというような顔で二人を見ていた。


 俺の話は聞いていなかったらしい、それか聞く余裕が無いのか。

 いや、聞いていたが理解出来る程の余裕が無いということか。おいおい…………。


「はぁ、なに勝手に話を進めてやがる」

「…………え?」

「俺はこれから村長に直談判しに行くんだよ。そして、この村の決まりや法律を改善させる。そうしなければ報酬はもらえないみたいだしな。だから、お前の失態をもみ消す事が可能かもしれない、と、さっきも言ったと思うんだけどなぁ」


 振り向き言うと、三人が目を丸くし俺を見てきた。

 本当に理解していなかったみたいだな、言ったはずなんだけど……。


「しょうがねぇから、おめぇの居場所についても考えてやるよ。ただし、必ず俺に協力しろ。これは等価交換だ。お前が俺の手伝いをする代わりに、俺はお前の居場所を取り返す。必ず成功するとは言えない、今より酷くなる可能性だってある。それが嫌だったらどこへでも行け、俺は一人でも報酬を貰いに行く」


 三人に言い放つと、なぜかみんなお互いに顔を見合わせ困惑の顔を浮かべた。

 

 そんなに困惑する程か? 

 俺だってこの村で過ごすことになるかもしれないし、世話になる可能性がある。

 どうにかしたいと思うのは無理ないだろうが。


 

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