第14話 ヤンキーは礼儀とか考えず馬鹿晒しとけ
アルカがおずおずと話し始めてから数分、やっと終わった。
俺は簡潔にと言ったはずなのに……。
「本当に簡潔じゃなかったな」
「うるせぇ…………。言葉にすると難しいんだよ」
呆れている俺から目を逸らし、気まずそうにするアルカ。
まぁ、そんな態度取りたくなる気持ちもわかるけどな、今の話で。
「お前の話を簡単にまとめるぞ」
頭をガリガリと掻く。
はぁ、頭の中で整理しながら話すか。
「まず、村長は村人を人とは思っておらず、パワハラが酷かったんだよな?」
聞くと、アルカが顔を逸らしながら小さく頷いた。
「んで、我慢出来なくなったアルカは抗議しに行ったが、話を聞いてもらえず、つい手が出てしまったと。これいいんだな?」
「アッテイマス」
「阿呆なのか?」
「イイカエスコトバガナイ、デマス」
項垂れても俺は知らん。
完全に、なんも考えないで向かって行ったお前が悪い。
それで高難易度のダンジョンに行かされているのも自業自得だろうが。
まぁ、今回のアルカという存在が何となくわかってきた。
あくまで予想だが、こいつは正義感の塊なんだろうな、主人公の鏡。
もう少し"考える"という事をしてほしいものだな、そうなれば今以上に強くなりそう。
仕方がねぇから、今回はこいつの脳になってやろう。
報酬のために、お互い利用し合おうじゃないか。
「お前らの現状はわかった。それじゃ──……」
ドアの外、何かが近づいて来ている。
俺が途中で言葉を止めたせいか、アルカ達が首を傾げた。
「あの、何が…………」
「しっ、静かにして」
ドアの奥に意識を集中してみると、部屋に誰かが近づいて来ているのがわかった。
おそらく、人数は二人。他の冒険者でも来たのか?
椅子から立ち上がり警戒していると、アルカとリヒトが近くに寄ってきた。
二人も気配に気づいたらしい。
「カガミヤさん、誰が来ていると思いますか?」
「わからん。警戒だけはしておけ」
────っ、気配がドアの前で止まった。
ガチャガチャと音を鳴らし、ドアノブが回される。数秒、沈黙の時間が訪れたかと思えば――……
――――――バンッ!!!!!!!!!
「失礼するぞおらぁぁぁぁああ」
壊れるんじゃないかと思う程の勢いでドアが開かれ、同時にモヒカンヤンキーが喚き散らしてきた。だが、言葉が丁寧、若干丁寧。
予想外過ぎて固まっていると、モヒカンヤンキーと目が合っちまった……。
「………………………………あ、どうも」
思わず挨拶を返してしまったが、なんだこいつ。
スーツを着て、一昔前のヤンキーヘアー、モヒカンが決まってますね。
口元に棘のついた黒いマスク、目元にはサングラスか……。
「…………ださ」
「「!?」」
思わず思考が停止して、思ったことが口から出てしまった。
アルカ達に口を塞がれたがもう遅いだろ、我慢できなかったんだよ。だって、本当にダサいんだもん。
「今、『ださっ』と言った奴出て来いやおらぁぁぁぁあああ」
なんか、馬鹿っぽいな。これならうまくかわす事が出来そう。
アルカ達の手を離させていると、またしてもドアの奥から叫んでいる男とはまた違う声が聞こえた。
「まぁ、待て。ここでこいつらを問い詰めるのは容易い。少しでも情報を引き出す事を目的としよう」
あ、第二のモヒカンがドアから出現。
こっちは少し頭が良さそうだな、見た目で馬鹿判定されそうだけど。
さっきの奴と同じ見た目だし。
第一のモヒカンの横を通り、俺の前まで来た。
目元しか見えていないが、にこっと笑ったのはわかるな。
雰囲気も落ち着いていて、相手が話しやすいように誘導している。
「少し、話をしてもいいかな」
「どのくらいの少しかによる」
「慎重だな」
「どーも」
こいつだと、簡単に躱せなさそうだな。
間違えたことを言わないようにしねぇと。
いや、それより、何でこうもいいタイミングでこの二人が現れたのかが気になるな。
「なぁ、もしかしてだが、この部屋、カメラ仕掛けられてる?」
「今は関係ないんじゃないかな?」
絶対に仕掛けられている返答じゃん、最悪。
何処だよ、壊してやる。
「そんなことより、なぜ部外者がこんな所にいる? 君は何者だ?」
「異次元を通り異世界転移を果たし、チート魔力をゲット。お金のためにダンジョン攻略をしようと考えているただの会社員です」
「…………どこからツッコめばいいんだ」
正直に答えると、冷たい視線を向けられたんだが、怖いって。
でも、今の質問は本当に今俺が言ったような事しか言えないぞ。
何者かなんて、俺自身わからんのだから。
「いや、今は君については後回しだ。それより先に、我々にはやらなければならないことがある」
俺の後ろをサングラス越しに見てる。
なるほど、狙いは受付嬢か。
体を横にずらし、女を隠す。
今、狙いがあっちに行くのは避けたい。俺との話に集中してもらわんと。
「裏切り者の始末をな――……」
にこっと笑いながら冷静ヤンキーが冷静に言いやがった。
口止めを強制的にさせるつもりか。
「あ、ご、ごめんなさい。あの、私…………」
めっちゃ震えてるやん、これが怖かったのか。
まぁ、普通は怖いだろう。
俺も力を手にする前だったら普通に怖い。
マジで怖いと思うのと同時に、めんどくさい事に巻き込むなって気持ちが浮上する。
受付嬢を守るように立っていると、俺を無視し冷静ヤンキーが受付嬢に言葉を投げかけた。
「謝ってもねぇ、漏れた情報は取り消せないのよ。わかるだろ?」
「それよ」
「お前が同意するな」
「え」
冷静ヤンキーがまともな事を言ったから、俺も思わず賛同してしまった。
普通に否定されたけど、悲しい。
「ひとまず、早くこっちに来い。罰を与えてやるよ」
人差し指でクイクイっと、女を呼ぶ冷静ヤンキー。
絶対に行きたくない指クイだな、鏡を見てこい。
傍観を務めていようかなと思ったところで、我慢の限界に達したアルカとリヒトが顔を赤くし、動き出した。
「これ以上脅すのはやめてください!! 村人を何だと思っているんですか!!」
「待て、余計な事を言うな。二人の話を聞かせてくれ」
「なんでさっきから話の邪魔をするのですかカガミヤさん!!」
「名前を呼ぶな!!!」
余計な事を口走んないように止めただけなのに、何故か俺の名前を明かされてしまった。
何でこんなにも口が軽いのか、勘弁してくれよ。俺はただ、話が聞きたいだけなのに……。
「はぁ、話が進まない。君は少し黙っていてくれ」
何故か黙るように冷静ヤンキーから命令されたので、俺はこのまま五人の会話の行方を見届けることにした。
ヤンキー二人から離れ壁に寄りかかっていると、姿を隠していたスピリトが現れた。
『大丈夫なんですか?』
「大丈夫だろうとそうじゃなかろうと、もう見守る事しか出来ん」
頼むから、報酬だけは受け取らせてくれよ。報酬さえ受け取る事が出来れば、俺は少しの文句しか言わないから。
「よくわからん男は静かになったみたいだね。ここからはゆっくりお話が出来る」
おい、誰がよくわからん男だ。
俺か? 俺の事か? うるさくしてやろうか、冷静ヤンキー君や。
「お前らはこの人を使って、なんで俺達にダンジョン攻略させないようにしたんだよ」
「簡単な話、村長に逆らったからだ。予想出来なかったか?」
「逆らうも何も、村長は村人を都合の良い道具としか思っていない。そんな人が上に立って良いなんて俺は思えない。それを言いたかっただけだ!」
「だが、村長のおかげで村人達が生きているのを忘れてはいないかい? 食料や物資は、村長の力があってこそ。どんなに生きやすい空気を作りあげたところで、食料がなければ死ぬのみ。感謝はしても、反逆行為はおかしくないかい?」
「確かにそうだが、そうだとしてもだ。村人達が苦しんでいるのは事実だろう!!」
「何も苦しまずに欲しい物を手に入れたいと言っているのかな? それこそ、村長を苦しませることとなると思うが、いかがかな?」
意外とアルカは食らいついているが、冷静ヤンキーも引かない。
これは、理想と現実のぶつかり合いだな。
どっちも一理ある言い分、行方が読めない。
さて、アルカはどう出るかな。
「確かに、苦労もしないで欲しい物を手に入れたいとかは考えていない。それでも、強制はおかしいだろう!! 村人の笑顔は無理やり引き出させるものではなく、心から楽しいと思った時に自然と出すものだ! 労働も同じ、やりたいと思っている人、出来る人がやればいい。無理に病気の人や子供、女性にやらせる必要はない!」
…………ほぅ、アルカはそう出るのか。
「そうなれば、村のバランスが崩れ今の生活が出来なくなる、そんな事を許す訳にはいかないよ」
……………んー、これって。多分平行線じゃないか? 話が終わる気配がない。
立っているのも疲れたし、もうそろそろ話を終わらせたい。
と、言うわけで、割り込もうか。
「なー、もう疲れたからこれだけ言わせてくれ」
呼びかけると、「またか」と言いたげな目を向けられた。
そんな顔をするなよ、悲しいって。おじさんの心は弱いんだからな。
「今回はしっかりとダンジョン攻略をしてきた。本来の報酬の倍を準備しろと村長に伝えろ。なぜ倍なのかの理由は、俺に精神的不安を与えた慰謝料とでも思え。以上」
「断る」
「それを俺は断る、早く行け」
「またしても俺はそれを断るよ。どのような手を使ったのか知らないけれど、何かずるいことでもしたんじゃないかい? そうじゃなければありえない」
なんて信じてくれねぇーんだよ。
「あり得るからこうやって攻略したんだろが」
「何があった」
「俺がダンジョンの主であったワイバーンを殺した。以上」
これ以上の説明もクソもねぇんだよ。俺に無条件で魔法が与えられ使った。
結果ワイバーンが倒れた。
もう、それで納得してくれ。
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