第13話 人間というものがめんどくさいのは知っているが相手にする俺の気持ちも考えろ

 目だけを逸らそうとしているが、顎を固定しているし意味はない。


「おめぇが答えられない理由も、仕方がねぇから教えてやるよ。それはな、お前に自分の意思がないからだ」


 言うと、肩をピクっと動かす。

 自覚はある──のか? もう少し様子を見るか。


「言われたまま動き、言われたまま働き、言われたまま人を傷つける。そんで、今度は言われたまま、人を殺すのか?」

「そ、そんな事しまっ――」


 口先だけの言葉は、いらないんだよ。


「──しない、とは言い切れないだろ。現にお前は今までずっと言いなりで、こいつらでは攻略不可能なダンジョンに行かせていた。今回までは奇跡的に無事だったかもしれない。だが、次どうなるか、今回もどうなっていたかわからない。仮に死んでいたら、お前がこいつらを殺した事になる、それをお前は一生背負い続ける事になる。言われたからと言い訳をし、それでも忘れきれず苦しみ続ける。そんな人生を望むのなら何も言わねぇが、どうなんだ」


 答える時間を与えると、受付嬢は震える口元をかすかに開いた。


「私のせいじゃ…………ありません」

「すぐに答えられない時点で、お前はそう思ってない」


 否定の言葉は、なし。

 自覚ありだな。なら、このまま話を進めよう。


「そ、れ、で、だ。今のままのお前でも出来る事を提案してやるよ」


 頑張って否定しようとしている女に笑顔を向けると、やっと目が合った。

 疑うような瞳だが、その中に微かな希望を感じる。


 現状から抜け出したい、助かりたい。

 そういった感情が、俺に突き刺さる。


「そんな疑うな、簡単な話だ。今のように、人の言いなりとして生きていきたいのなら、今度は俺の言いなりになってくんね?」


 女の顎から手を離し問いかけると、驚愕の表情。そりゃ、そうか。


 でもよぉ、人の言いなりになって、責任転換する日々を送るのなら、従う相手は誰でもいいだろ。


「な、何を言っているんですか。私は貴方の言いなりになんて……」

「ならないのなら別にいい。ただ、責任を他人に押付けたところで、人は自分の罪からは逃げられない」


 どんな出来事で、どんな理由があろうとも、罪は罪。逃れることなど、できやしない。


「今みたいなことを続け、そのうち人が亡くなって、逃げられない立場になった時、お前は一体どうするのか。高みの見物でもさせてもらおうか」

「っ……。ひどい……」

「酷いのはお前の行いと、それを許しているギルドだろ」


 言うと、こいつはまた黙っちまった。

 沈黙はもう認めてるもんなんだよ、いい加減諦めろ。


 どんなに逃げ道を作ろうと、どんなに言い訳を考えようと、事実は無くならない。

 それを理解しろよ、トラウマが植え付けられる前に。


 顔を俯かせている受付嬢を見下ろしていると、震えた声が聞こえ始める。


 なんだぁ? 耳を近づかせないと聞こえない……。


「…………どうすれば、いいんですか」

「あ? あっ、俺の言いなりになってくれる気になったのか?」

「話を聞くだけです」


 そこはしっかりしてるな、用心深い。

 でも、話を聞いてくれる気になったのならいい、次に進める。


「まず、お前に命令した奴を教えろ。あと、倍の報酬を準備しておけ」

「え、報酬? なんで…………」

「当たり前だろ。こんなにめんどくさい事をさせて自分は手を汚さない。そういう奴ほどなぁ、持っているんだよ。これをな」


 人差し指と親指で丸を作る。これだけで通じる人には通じる。

 受付嬢にも通じたらしく、何故かげんなりした顔を浮かべた。


 何でそんな顔を浮かべているんだよ、金は大事だろうが。


「んで、教えてくれるの、くれないの?」

「……………………こちらに」


 お、これは教えてくれるフラグ。

 リヒトとアルカを呼び、女の後ろを付いていく事にした。


 ※


 通されたのは、カウンターの隣にあった扉の奥。おそらくスタッフルーム的な場所。


 中心にテーブル、四脚の椅子。

 端には何も書かれていないホワイトボード。


 周りを見回してみるけど、特に何か変わったものはない…………か。


「では、椅子にお座りください。ここでなら、誰にも聞かれずに話せます」

「おー…………」


 何もないのが、なんとなく違和感。

 隠しカメラとかありそうだけど……。


 まぁ、今考えたところで意味はないか。本題に入ってもらおう。


 皆が椅子に座るのを確認し、本題を受付嬢にぶん投げた。


「それじゃ、まず手短に教えて欲しい。お前は誰に命令されたんだ?」

「…………この村の、村長……」


 村長? なんで村長が二人に? 何か関係があるのか?


 後ろの二人を見ると、アルカがバツの悪そうな顔を浮かべ目を逸らしてる。


 何かやらかしたな、あいつ。


「具体的に、どんな命令を言い渡されたんだ?」

「絶対に攻略できないダンジョンに行かせるように……と」


 絶対に攻略出来ないダンジョンねぇ。

 それは、結構憎しみの籠った言葉だなぁ。


 そんな事を村長から言われりゃぁ、そら断れねぇよな。


 後ろにいるリヒトが杖を強く掴み、ぼそっと呟いた。


「なんで、そんな事……」

「分からないです。理由を聞こうとしたり、断ったりすると、この村に居られないようにすると言われて……」


 こいつの怯えようから察するに、相当怖い思いをしたんだと伺える。

 というか、こんなことを村長に言わせるほどのことをあいつらはしたってことだよなぁ……?


「お前、村長に何をした?」


 隣に座っているアルカに声をかけると、肩を震わせ怯え始めた。わかりやすいなぁ。


「怖がんなくていいから、何があったか教えて貰えると助かる」

「…………お、俺は悪くない。悪くないんだ」


 怯えすぎて俺の言葉が耳に入らなかったらしい。めんどくっさ!!!


「お前は質問の内容を聞いていなかったのか? それとも聞こえないほど難聴になったか? 俺はお前のやった行動を聞いているんであって、お前が悪いか悪くないとかは聞いていない。簡潔に教えて貰えると助かるんだが?」


 驚きで目を開くアルカ、リヒトも同じ顔を浮かべてる。


 そんな顔を浮かべたところで、俺はお前らが話すまで聞き続けるぞ。

 確実に原因はアルカにあるだろうしな。


「俺の質問を理解し、的確で端的な答えを求む」

「………えっと、簡潔には難しい。それでもいいか……?」


 左右の人差し指を胸あたりでツンツンするアルカに怒りが湧いてくる。


 やべぇ、ガチで腹が立つ。男なんだから堂々としろよ、俺にビビるなよなんなんだよ。


 今回の質問、多分"うん"と言われねぇと話さねぇだろうな、めんどくせぇ……。


「…………………………………………うん」

「ため、なっが!!!!!」

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