第9話 主人公も大変なんだな、お疲れ様

 魔力の調整に必死になっている俺など気にせず、アルカとリヒトが手元を見てくる。


 見世物ではありません。というか、いつ炎が暴走するかわからないからあまり近づいてほしくない。


 もしもの時、巻き込まれるぞ。責任持たないからな、俺。


「おぉ、すげぇ……」

「今めっちゃ頑張ってるから、めちゃくそ頑張ってるから。魔力を注ぎ込み過ぎないように頑張ってるから」

「"頑張ってる"をめっちゃ強調してくるじゃん」


 頑張ってんだから当然だろうが、同じことをやってみろよアルカ。

 大爆発の危険を伴いながら辺りを照らしている俺の気持ちを経験してみろ。


「このまま進むぞ。いや、少し離れろ歩きにくい」

「だって、すごい綺麗なんだもん」

「炎が? いつでも見れるだろ」

「俺は地、リヒトは援護魔法だから炎を見る事はできねぇんだよ」


 あ、アルカは地タイプなのか。知らんかった。


「それに、カガミヤさんの炎魔法は、今まで見てきたどの炎魔法より綺麗に見えます」

「違いなんてないだろうが」


 俺は他の炎魔法なんて知らんけどな。


 二人には少し離れてもらって歩いていると、どんどん道が開けてきた。

 もう少しで報酬をゲット出来るという事か、頑張ったな俺。


「光が見えてきたな」

「財宝? 宝? なに売ればどのくらいになるの?」

「めっちゃテンション上がってる……」


 気持ちが高鳴ってきた。

 それに連動してか炎も大きくなる。やばいやばい、落ち着け、俺。


 アルカの声に目を細め前を見ると、微かな光が見えてきた。

 近づくと足元も照らしてくれるほどの強い光が奥の部屋から漏れている。


 もう炎はいらないな。

 手を閉じると、炎がシュッと音を出し消えた。

 前方を向き直し、俺を待っている宝の元へ。


 テンションが頂点近い、自然と足早になる。

 どんどん暗い道が明るい光に照らされ、思わず目を細めてしまった。


 なんだ、そんなに沢山宝があるのか? めっちゃ気になるだろ。


「───っ、あ? え、光の正体って………」


 開かれた道を進み奥へと行くと、そこには俺が求めていた財宝の山──ではなく、洞窟の最奥。


 ダンジョンの壁を大きくくり抜き、無理やり作ったような空間。

 中心には、巨人でも中に入っているんじゃねぇかと思うほど大きな卵。


「なに、これ……」


 アルカとリヒトが唖然。

 俺も、唖然。


 この光は、卵から発光されてんのか? 

 凄い綺麗に輝いているなぁ。蜘蛛の糸かなにか知らんが、上から吊らされているみたいだ。


 これが宝物? 

 卵……が、宝物??? え??


「…………アビリティ」

『はい』

「これは」

『卵です』


 見りゃわかんだよ、ふざけるな。

 俺が聞いている質問をしっかりと理解して返答しやがれ。


『こちらは、精霊の卵です』

「あぁ、なるほど。せいれっ──精霊って卵胎生なの?」

『いえ、主の魔力を利用しその場に留まったり、ダンジョンの力を利用し住処にしております』


 ひとまず、卵で生活はしていないらしい。

 なら、なぜこれが精霊の卵と言ったのか。


「アルカとリヒトは精霊の卵って知ってるか?」

「いえ、私は知らないです。そもそも、精霊持ちはごく稀。精霊自体見た事がないです」

「俺も同じく」


 アルカ達も知らないのか。なら、本当にこれが精霊の卵なのかわからんな。アビリティが間違った事を言っている可能性がある。


 疑いの目を指輪に向けていると、アビリティが反抗もどきをしてきた。


『触れてみてください』

「え?」

『指輪が嵌められている手で、卵に触れてみてください』


 機械声のはずなのに、何故か圧がかかる。

 これ以上怒らせてはまずい、触るしかない。


「え、近づいて大丈夫なのか!!?」

「アビリティが言っているから大丈夫じゃないか? 危なかったとしても、何とかする」


 卵に近づくと、ピリッと体に何かが走る。

 ゾワゾワするというか、鳥肌が立つ、気持ち悪い。


 …………見上げていても仕方が無いし、アビリティの言う通り触れるしかない。


 手を伸ばし、目の前にある卵に右手で触れてみる。すると、触れた箇所が急に白く光り出した。


 な、なんだ?


「あ、アビリティ!! これはなんだ!!」

『精霊の孵化です』

「はい!?」


 なんで今孵化するの!? 意味が分からない。


 困惑している中でも、卵から発光される光はどんどん強くなる。

 数秒後、耐えきれなくなったのか"ピキっ"と音をならしヒビが入り始めた。


 後ろにいる二人も涙目になり、お互い寄り添って怯えている。


「え、なになになになに!!!!」」

「何が起きたんだカガミヤ!!!」


 いや、俺にもわからん。


 咄嗟に手を離し距離をとってみたが、一度入ってしまったヒビはどんどん広がっていく。


 何が起きるんだ、怖いって。

 中から巨人が出てきたらどうするんだよ、食べられたくねぇよ!!


 いや、待てよ。これって大抵、大きな見た目に意味はなく、中から出てくるのは手のひらサイズの何かがお約束。


 なら、今回もそんな感じだろ。

 怖がる必要なんてない。ないんだ、絶対にない。


 自分に言い聞かせていると、アルカが卵を指さした。


「あ、割れる!!!」

「卵が!!」


 アルカとリヒトの声と同じタイミングで、卵が大きな音を立て割れた。


「――――っ、?!」


 まばゆい光が視界を覆い、思わず目を閉じる。


「…………ん、やっと落ち着いてきた」


 一体、何だったんだろうか――――なにこれ。


 目の前に、小さな、妖精。

 赤色の髪から覗き見えるのは尖った耳。色白の肌に、赤い瞳で俺を見上げてくる。


 ノースリーブのワンピース、半透明のリボンが腰に結ばれている。

 背中には、半透明の羽。


 手には、体くらいはある魔法使いが持っていそうな杖が握られていた。


「…………初めまして」

『初めまして』

「貴方は?」

『私は炎の精霊、スピリト・フライム』


 へ、へぇ……。こいつがこんな大きな卵の中から現れたの? 

 なんで俺を見上げてくるの? なんで俺の髪を掴むの? 


『ご主人様』


 ……………………なんでこいつは、俺を見ながらご主人様と口にした?


「…………アビリティ」

『はい』

「状況説明」

『炎の精霊、スピリト・フライムが貴方を主と認めました。今後は精霊の力も使用し戦闘可能』


 ……………………俺は、魔法以外にも色々優遇された存在らしい。

 やったぜ、ひとまず喜んどけ。


 もう、何も考えない。これが、主人公なんだと納得させよう。


「…………もう、嫌だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る