第8話 最初はやる事が沢山あり過ぎてマジで嫌だ

『私は、前主の言葉により、チサト様を転移させていただきました。前主の名はカケル様』


 ――――――は? 


 めっちゃ聞き覚えのある名前が聞こえたんだけど……。


 もし今のカケルが、駆だったら、俺が現代に居た時の同僚なんだけど。


 佐々木駆、明るい茶髪にバチバチとピアス穴が複数のチャラ男。

 TPOはしっかりとわきまえているから、仕事の時は取っていた。


 普段のあいつは完璧俺と正反対だけど、何故かめっちゃ話しかけてきたんだよなぁ。


 なんで、そいつの名前………いや、違う人の可能性の方が高いか。

 俺が知っているのがたまたまその駆ってだけだもんな。こっちでは、また違うカケル君がいるのかもしれない。


『カケル様は今、ある組織の魔法により、ダンジョンへと封印されております。解く為には、”releaseリリース"という魔法が必要。その魔法を手に入れられる者は限られ、それとは別に、SSSスリーエスランクのダンジョンを攻略しなければなりません』


 SSSランク……だと?

 確か、ワイバーンでSランク。あれより強いモンスターを倒さないといけないのか。めんどくさ。


releaseリリースは、SSランクのダンジョンの報酬としてもらえます。ですが、必ずではありません』

「必ずじゃないのは仕方がないと流すが、必要な魔法はSSランクで貰えるんだろ? SSSランクのダンジョンをクリアする必要無くないか?」

『SSSランクにいる精霊を手に入れなければreleaseリリースを使えません。しかし、SSSランクのダンジョンを攻略した人は今まで一人しかいないのです』


 ……………………嫌な予感。


「そ、その一人って…………」

『前主、カケル様です』

「終わったな、俺には無理だ」

「諦めるの早すぎだろ!!! ものすごく強い力持ってんのに、なんでそんなに諦めの決断は早いんだよ!!」


 めんどくさいから。とか言うと、まためんどくさい言葉が返ってきそうだからやめておくか。


 そういや、こいつは前主の命令で俺を転移させたと言っていたな。

 それってつまり…………。


「なぁ、俺を転移させた理由って?」

『はい、カケル様の封印を解除して頂きたいのです』

「無理です、めんどくさい」

『では、全ての魔法、報酬などを全て没収させていただっ──』

「よしっ、これからダンジョン攻略頑張るぞ。報酬はどこだ?」


 アルカからの視線がうるさい、別にいいだろう。

 だって、金がこの世で一番大事なのは常識なんだから。


 話していると、リヒトが扉を見つけたらしく呼ばれた。


「おーい!!! アルカー! カガミヤさーん!! こっちに扉が増えてるよー」


 ピョンピョン跳ねながら呼んでいるリヒトの近くに、微かにだけどドアみたいなのが見える。あれか?


「一先ず、その話は出てからでもいいだろ。今は目の前の報酬だ」

「…………………はい」


 右手を横に下げるのと同時に、アビリティの声も聞こえなくなった。

 アルカは俺の態度に呆れているみたいだが、無視無視。


 リヒトの元に歩き、指さす方向を見ると…………うん。

 確かに、あるな、扉。確かに、ある。


 犬小屋に付いているような、小さな扉が。


「これは?」

「扉ですね」

「だろーな。形は扉だよ、扉で間違いないよ。でもさ、これはどうやって入ればいいんだ? 体を小さくして入れと? は? ふざけんなよ、俺の報酬どこ行った」

「この扉の向こうです」

「知っとるわ」


 リヒトが当たり前の事をあえて言ってきやがった。


 まぁ、扉があるという事は、奥に道が続いていると考えていいだろう。なら、この扉は使


「通れないのなら、通れるようにすればいいだけか」

「「え?」」


 アルカとリヒトの声が重なって、視線を向けてくる。

 だって、だってさぁ。通れないなら、通れるようにするしかないじゃん? 


 俺は、間違って、ない!!!


 と、言うわけで──……


flama Arrowフレイムアロー!!」


 炎の弓矢で壁をぶち壊してやるよぉぉおおおおおお!!!!!! 

 待ってろよ、俺の報酬ぅぅぅぅぅぅうううううう!!!



 ――――――ドカン!!!



 爆発音、爆風。毎度お馴染みの光景の後に見えたものに、俺は満足だ。


 小さな出入口には大きな穴。

 大人が通れるくらいの大きさは空いたな。


 無理やり壊したからか、岩壁がボロボロと崩れている。

 これ以上壊す必要はないし、崩れ落ちた石に躓かないように気を付けよう。


「ダンジョンの壁を壊す程の威力……しかも、今は平然と扉があったはずの道を通り抜け、暗い道を歩く転移者。あの人、本当にこの世界について初心者なの? 絶対に違うと私は思う」

「俺も思う」

「早く来い」

「「はい」」


 奥に続く道は暗く、三人分の足音が響く。

 光源とかないのか? 松明的な物とか。


 先の見えない通路を歩いていると、アルカとリヒトに後ろから震える声で呼び止められた。なんだ?


「あの、カガミヤさんの炎魔法で辺りを照らす事って叶わないのでしょうか」


 あぁ、確かに。

 炎って、ゲームだと火を点けたり辺りを照らしたりとか。冒険の手伝いをしてくれる属性だったな。


 でも、俺の炎魔法は威力が馬鹿強いけど大丈夫か? 

 威力を抑えて手の上に留まらせるとか、出来るかな……。


『出来ます』

「なるほどね。俺の思考は筒抜けって事か、やめろ」


 俺の思考を勝手に呼んで返答をするな。


flameフレイムと唱え、威力を制御し、手の上で留める事をイメージしてください』


 俺の言葉は無視かい。

 いいんだけどさぁ、こいつ、俺の事舐めてないか?


 まぁ、出来ることがわかったし、やってみるか。

 やり方も、イメージをするだけでいいみたいだし。

 難しいコントロールとかしなくていいのは楽だ。


flameフレイム


 手のひらを上に向けて、小さな火の玉をイメージ。すると、小さな炎が出始める。

 火種が徐々に大きくなり、揺らめく炎を作り出す事が出来た。


 赤く光る足元、これ以上大きくする必要は無さそうだな。手のひらサイズの炎が完成。


 …………これは、結構疲れるな。

 気力を使うし、油断すると炎が大きくなってしまいそう。


 報酬のために頑張るしかないけど、コントロール、難しいなぁ。

 これからの事も考えると、コントロールは完璧にしといた方がいいような気もするし、続けるけど……。


 …………これは無駄ではない。

 無駄な努力ほど、やる意味は無いからな。


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