第7話 意思のある指輪とか普通に恐怖なんだけど

 唖然としていると、指にはめられている指輪が微かな光を放つ。


 そういえば、さっき。指輪から何か言われたな。

 頭に血が上っている時だったから覚えてないけど。


『我が主、知里様。元主の命により、今後は貴方のサポートをさせていただきます。ご気軽にお使いください』

「なに言ってんの?」

『元主の命により――……』

「それはもういい」


 いや、マジで何を言っているの? 

 元主の命により俺を主にして、手を貸す?

 頭がパンクしそうなんだけど。


 おっ、服をアルカ達に引っ張られた。


「カガミヤさん、大丈夫ですか? 怪我はないですか?」

「カガミヤ、怪我とか何もないか。どこか痛いとかないか?」

「おー、さっきは盾をあんがと、それのおかげで助かったわ。見ての通り無傷だから気にすんな」


 氷もしっかり溶けたし、目立った傷もない。


 まさか、Sランクを相手しても傷つかないなんて、すごいな。

 ビギナーズラックなんだろうけど。


 いや、今はそれよりこの指輪についてだ。

 俺は誰かの主になんてなりたいわけじゃない。目立ちたいわけでもない。


「なぁ、アルカ。アビリティ、だったか? これが意味わかんねぇこと言ってるんだが。お前らのアビリティも同じこと言ってんのか? 主がどうとか」


 俺が聞くと、なぜ二人は目を丸くしていた。なんだ?


 固まっている二人を見ていると、アビリティが勝手にパラメータの映像を出し、何やら説明をし始めた。


『主、今回の魔法で魔力がだいぶ減っております。念のため、確認の方をお願いします』


 気が利くのは嬉しいが、当たり前のように声をかけてこないでほしいなぁ、驚くから……。


 アビリティに戸惑い、引き笑いを浮かべていると、アルカとリヒトがやっと口を開いた。


「アビリティが、喋ってる?」

「ん? なんか喋ったな」


 アルカが俺を指さし、青い顔で聞いて来た。

 幽霊でも見たかのような表情なんだが、なんでそんな顔を浮かべているんだ?


「なんで、指輪が喋って……」

「え、これが普通じゃないの?」

「普通は喋らないですよ……。私達のは自分のパラメーターを見る時にしか使いません。あとは、使える魔法の確認……とか」

「まじか」


 なんか、主人公ってすごいな。

 凄いけど、これって何かの伏線とかになってないよね? 


 主人公がチート能力もらえる理由って、世界を救ってもらいたいからとか。

 ある程度の力がないと主人公と言えど死んじゃうからとか。


 世界を救うとか嫌だぞ俺、マジで嫌だ。

 そんなの違う次元の主人公に任せてくれ。


 目の前に現れたパラメーターを遠い目で眺めていると、小さな違いを見つけた。


「ほぇぇ、ほんの少ししか減ってない。え、さっきアビリティ、だいぶ減ったと言っていなかったか?」

『元主を基準にし計算すると、”だいぶ”という言葉に間違いはありません』

「あ、はい。スイマセン……」


 今、なんとなく怒気が含まれていたな。

 こいつ、感情あるのか? 機械なのに、感情あるのか?


 苦笑を浮かべながら再度映像を見てみると、映像から飛び出していた棒グラフが、MP部分だけ映像内に収まってるのがわかる。減ったのは確実だな。


「…………アビリティについては今、考えても仕方がないか。おい、アルカ。これから俺達がやらんといかんことはなんだ?」


 いまだ顔を青くしている二人に聞いたんだが、聞こえていないのか無視。

 早く正気に戻ってくれ、答えてくれ。


 再度聞くと、やっと意識が戻ってきてくれたみたいだわ、良かった。


「あ、え、っと……。ワイバーンを倒した事で、奥の道が開かれたはず。そこを進めばこのダンジョンにあるお宝があっ――――」

「今すぐ行くぞ、早く来い」


 なるほどな、この広い部屋のどこかに出入口以外の通路が出てきているという事だな。


 えぇっと――――??

 周りを見るが、俺達の後ろにある出入口以外に道という道がない。

 もしかして、ワイバーンを倒しただけではなく、仕掛けとかもあるのか?


「おい、どこに道が出てくるんだ?」

「おかしいな、ランクが高くなると、ラスボスを倒しただけじゃ道は出てこないのか?」


 三人で見回していると、リヒトが何かを見つけたのか、明るい声で先の方を指さした。


「あ、あれじゃない!?」


 指された方を見るけど、俺には何もわからない。どこ?


「こっちです!!」


 ウキウキと歩き出すリヒト。

 元気だな、おじさんにはついていけないよ。


 さっきまで命の懸けた戦いをしていたのに、ここまで明るく話せたり笑顔を振りまいたり。ほんと、若者ってすごいなぁ。


 素直にリヒトの後ろを付いて行こうとすると、アルカに声をかけられた。


「なぁ」

「何?」

「あんたは本当に何者なんだ? あんだけの力を持って無名はありえない。それと、その指輪はどこで手に入れた?」

「ぐいぐい来るじゃん」


 真っすぐ俺の目を見て聞いて来る。


 疑っているのか、純粋に気になっているのか。質問の嵐。

 真っすぐ見てくるから目を逸らす事も出来ないし、純粋って質が悪い。


「あまり話したがらないから、無理に聞くのもと思ったんだ。だが、さっきの魔力や魔法を見て、どうしても気になってな」


 まぁ、普通は気になるか。

 俺もアルカと同じ立場だったら気になるし、聞く。


「一応、俺なりに考えてもみたんだが、どうしても腑に落ちないんだよ」

「腑に落ちない?」

「あぁ。転移魔法だけでは絶対に説明できない。その理由としてまず、指輪は俺達ギルドの人間にしか与えられない。それをどうやってどこで手に入れたのか。あと、あんな魔力をどうやって抑えているのか。他にも不思議な事が沢山あるんだ、聞きたくもなるだろう」


 アルカはアルカなりに色々考えてたんだなぁ。

 素直に色々教えてくれてたから、普通に馬鹿なのかと思ってたわ。


「確かにそうだな、だが、悪いな。それを俺に聞いたところで得るものは何もないぞ」

「なんでだ?」

「俺も強制的にここへ召喚されたからだ。指輪はこっちに召喚されたのと同時に嵌められていたと考えている。どこで手に入れたとかもわからない」


 アルカが俺の方をじっと見てくる、視線がうるさいなぁ。

 俺、見られるのって苦手なんだよ。


「本当に何も分かんねぇし、この世界のルールも知らん。何をするにも初心者の俺に何を聞いたところで答えは出ない」

「そうかもしれないけど…………」


 不安そうに顔を俯かせてしまった。


 そんな態度されても、俺だって目を覚ますと目の前にお前ら二人とワイバーンだったんだぞ。俺も誰かに説明してほしい。


『はい』

「呼んでねぇよアビリティ」

『私からご説明させていただきます』

「説明できるなら最初から説明してくれよ」


 ほらぁ、アルカも驚いてるじゃん。

 俺も驚きのあまり、咄嗟にお前を拒否しちまったよ、悪いな。


「まぁいいや、説明お願い」

『はい』


 ひとまず立ち止まって、説明を聞く事に集中。

 リヒトは今だ壁に向かっている、あとで行くから待っててな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る