第6話 こんな形で本当に終わるなんて思わないじゃん
「大丈夫ですか!?」
「怪我はないかカガミヤ!!」
「問題ない。そんな事より、あれをどうにかする方法を考えんといかんぞ」
二人も怪我はなさそうだ、そこは安心。
俺の心配をしてくれる二人が駆け寄ってくると、ワイバーンが上から咆哮し、地面が揺れる。
――――グァァァアアアアアアアア!!!
っ、轟音を鳴らしながら、ワイバーンがまた突っ込んできた。だが、さっきと同じ攻撃だ。簡単に避けられる!!
「
今度は頭の中でしっかりとイメージ、俺の姿を作り出す。
真っすぐ俺達の方に向かっていたワイバーンが、陽炎の方へ軌道を変えた。
よしっ、時間は作れた。
そのまま真っ直ぐ行ってくれれば、予測出来る。
ワイバーンに狙いを定め、基本魔法を発動。
基本魔法なだけあって、威力をあげようとすればするほど、時間がかかる。
それも踏まえて集中。渦を巻き、先ほどより早くに炎の玉を完成した。
「
ワイバーンは勢いのまま、陽炎を通過し真っすぐ飛んでいく。
俺が放った
――――――ドンッ
「シャッ!!」
よしっ!! ワイバーンの翼に直撃した。
爆風が広場に吹き荒れ、視界が遮られる。
どうなったんだ?
せめて、翼一つくらい潰せれば…………え?
少しずつ煙が晴れてきた光景に言葉が詰まる。
いや、確かに威力は抑えてしまったかもだけど。それにしても、火傷程度?
ワイバーンの翼は相当硬いのか、焦げた程度。
ちっ、片方の翼でも焼き切る事が出来れば、空を飛ばれなくて済んだのに……。
ワイバーンが突き刺す視線を向けて来る。
見られただけで足が震える、さっきの攻撃で削れなかったのは相当の痛手だ。
――――グァァァアアアアアアアア!!!
怒りの込められた咆哮がうるせぇ、耳が痛い、ほんと最悪。
何で俺がこんなことに巻き込まれないといけないんだよ。俺はタダの会社員のおじさんだぞ。
――――あ? アルカが俺に駆け寄ってきた。
「カガミヤ、さっきからのあれはなんだ? カガミヤが二人になったような気がするんだが……」
「幻覚を出しただけだ。俺の姿を他に見せ、軌道を逸らした」
質問に答えていると、ワイバーンが大きな口を開く。
構内に広がるは、簡単に岩をかみ砕くことは出来そうな牙、滴る涎。
奥に広がるは、何でも吸い込んでしまいそうな闇。
次の行動が予想できない俺とは違い、すぐに反応したのはリヒト。
目を見開き、叫んだ。
「避けて!!!!!」
甲高い声に体が咄嗟に反応。動き出すのと同時に、闇の中に一粒の光。
目が離せないまま走り出した時、咆哮と共に吹雪のような冷たい息が放たれた。
これって、ブレス攻撃!?
「つっめた!!!!!! うわっ!!」
いってて、転んじまったが何とか避けることが出来た。
リヒトの声が無ければ確実に避けきる事が出来なかったな……。
今のブレス属性は、氷。
吹雪のような息を吐き出し、相手を凍らせる攻撃……か。
厄介なもんを持っているな、掠っただけでも一瞬腕が動かなくなった…………いや、おいおい、マジかよ。
足まで凍ってる。
これじゃ自由に動けねぇじゃねぇかよ!
「カガミヤ!!」
「カガミヤさん!!!」
二人の声に顔を上げると、ワイバーンと目が合った。
「あっ……」
口が大きく開く。
これは、先程と同じ動き。ブレス攻撃だ!!
冷たい息が俺に向けて放たれた。
避けたくても避けられない、防ぎたくとも魔法を知らない。
どんどん近くなる白い息、体が冷たくなる感覚が伝わる。
スローモーションのように見える映像を眺めるしかできない。
───────終わった。
諦め、目を閉じ衝撃に備えると、リヒトの声が聞こえた。
「
………………………………っ、これは、なんだ? 盾?
「カガミヤ! 今のうちに炎で氷を溶かせ!」
振り向くと、杖を掲げ半透明のシールド張っているリヒトと、俺に駆け寄ってくるアルカ。
言われた通り、
「溶けたのなら、早く逃げるぞ!」
アルカが俺の手を掴み、走り出す。
振り返ると、リヒトが作り出した盾が凍っていた。
まだ保ってくれているが……。
――――ピキ
あ、くそ。さすがに長くもたないか。ひびが入り始めた。
早く動きたくても、足がまだ動きにくい。
…………ぁぁぁぁああああああ、本当にめんどくせぇな。
なんなんだよ、なんで俺はこんなことに巻き込まれないといけないんだ。
俺はただの会社員なんだよ。
体を鍛えている訳でもない、ただのおじさんなんだ。
あぁ、もう。いいや、うん。なんでもいい。
「もう、本当に。どうにでもなれ…………」
もう嫌だ、報酬のために頑張ってきたけど、さっきので心がぽっきりと折れた。
俺は、元々こんな事やりたくないんだよ。
目立たず、静かな環境で一人、通帳を眺めて過ごしたいんだよ。
「今のうちに、これを溜める。口の中に、突っ込んでやるよ」
出し方なんて知らない、どのようになるかなんてわからない。
でも、もう俺は嫌だ。怖い思いも、痛い思いもしたくない。
もう、終らせたい。こんな恐怖から、死と隣り合わせの現状から。
今すぐにでも逃げて、人のいない所で静かに過ごしたい。だから、やる。
チート魔力をゲットしたんだったら、ここで力を見せやがれ。
俺のために、報酬のために。今ここで、全てを解放しやがれってんだよ!!!!!
――――――――承知、すべての魔力を開放。これより、倍以上の威力の魔法を出す事が出来ます。
指輪から高めの機械音が聞こえた。
なんだ、指輪から強い光。
辺りが指輪から放たれる光で照らされる。
アルカとリヒトも何が起きたのか理解出来ず、俺の方を向き目を丸くしていた。
俺も、何が起きたのかわからない。
――――さっきの機械音。もしかして、これが力の解放?
…………なんでもいいや、目の前に立ち塞がるワイバーンをどうにか出来れば、何でもいい。
「この一発で、終わらせてもらうぞ」
言うのと同時に、左手をゆっくりと上げ炎の弓を生成。右手を肘から後ろに引き、物を掴む動作。
足から白い煙が出ている、氷が完全に解凍されたんだな。
膝を曲げ、その場に立ち上がる。
前を向くと、リヒトの張った盾が蜘蛛の巣のようにヒビを広げている。
もう壊れる一歩手前だ。
炎が右手から現れ、一本の弓矢を作り出す。
すると、タイミングよく盾が大きな音と共に壊された。
――――ガッシャァァァァアアン!!
ワイバーンのブレス攻撃が俺へと向かう。
だが、こっちの準備はもう整っているぞ。
「死ね、俺の報酬のために――
炎の弓矢を限界まで引き、盾が壊れるのと同時に右手を離した。
勢いよく放たれた弓矢は、俺に向けて放射していたブレス攻撃を霧散。
勢いは止まらず、開いていたワイバーンの口から体内に。
すると、ワイバーンの身体が徐々に赤くなり、体内で爆発。どんどん膨らんでいく。
限界まで大きくなったワイバーンの身体は、咆哮と共に三人の目の前で大爆発を起こした。
――――ガァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!
爆風が吹き荒れ、地面をしっかりと踏みしめていなければ後ろに飛んでしまう。
顔を両手で覆っていると、左手に持っていた炎の弓矢が、もう用は無くなったというように自然と消えた。
「お、わったの?」
リヒトの問いかけに、俺とアルカは晴れてきた土煙の先を見る。
そこには、なにもない。
・・・・・・・・え、本当に、何もない。
「あの、ワイバーンが、こんなに、一瞬でなんて…………」
驚きの声を上げるリヒトとアルカ。
安心して、この中で一番驚いてるのは、俺だ。
「…………何が起きたんだ?」
頭に血が上ったのは認めるが、ここまでか。
俺、やばいことしちまったみたいな、罪悪感が浮上しちまってんだが、どうしてくれるんだよワイバーンよ。
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