第5話 チートの能力かどうかって、どこで判断すればいいんだか

「”アビリティ”」


 指輪から映し出された画面を横にずらし、魔法一覧を確認。

 正直、文字だけを見ても威力や効力はわからない。

 名前をタッチしても詳細は出てこないし。


 そこはゲームみたく、もっと便利にしてくれよ。

 やっぱり、試し打ちするしかないのか。でも、それはそれで怖い。

 今度壊れるのは、壁だけでは済まないかもしれない。


 名前だけでどんな技か予測できるものがあればなぁ…………。


「ん? フレイムアロー??」


 これ、このままでいいのなら、炎の弓。


 へぇ、炎の弓か。めっちゃそそられる良い響き。

 男なら誰でもわくわくするだろ、いくら二十八歳のおじさんでも。


「少し、試してみたいな」

「なら、ワイバーンを倒しに行きましょう」

「…………もう、それでいいよ」


 リヒトが俺の言葉をしっかりと聞いていたらしく、キラキラとした、純粋で澄んでいる瞳を向けられた。


 俺の荒んでいる黒い心が浄化されてしまうよ。


「行こう!!」

「おー!!」


 ほんと、元気で何よりだよ、くそ餓鬼ども。


 ※


 来た道を戻る事数分。

 まだ距離があるはずなのに、鳥肌が立ち始めた。


 悪寒が体を走り、微かに震える。

 距離がまだ離れているというのに……。


 俺だけじゃなく、アルカやリヒトも感じているみたいだな。

 リヒトは杖を掴む手が震えてる。


 …………ちっ、体に突き刺さるただならぬ空気で、嫌な想像が頭を勝手に駆け回る。


 ”もしも”という展開が頭を過る。


 ――――――もしも、先程の魔法が通じなかったら。もしも、土壇場で魔法が使えなくなったら。


 もしも戦闘途中、ぎっくり腰でも起きたら……。


 頭の中で自身の死が浮かぶ。

 呼吸が苦しくなってきた。


 滲み出る汗、シャツが肌に張り付く感覚が気持ち悪い。

 鉛でも付いているのか? 俺の足、普通より疲れる。


 ――――ん? 前を歩いていたアルカが後ろを振り向いた。


「準備は大丈夫か、リヒト」

「うん」

「カガミヤも」

「問題ないわけではないけど、やるしかないだろうなぁ……」


 から笑いが口から零れる。

 問題ないと言い切りたかったけど、さすがに初めての命を懸けた戦闘だ、嘘は良くない。


「…………カガミヤ、やめるか?」


 っ、え、いきなり?

 

 アルカが、俺を見上げてくる。

 …………こいつ、瞳が揺れてんな。


 不安、という思いが伝わってくる。

 俺の後ろにいるリヒトも、不安そうに杖を強く握り見て来る。


 …………そうか。

 こいつらも不安な気持ちでいっぱいなんだな、当たり前か。


 こいつらにとっては、自身よりランクが高いモンスターとこれから戦わなければならない。


 諦める事も出来るが、そうなれば報酬がもらえない、それだけは許せない。


「いや、俺の辞書に報酬を諦めるという文字は記載されていない。体がどんなに怖がっていても、俺は行くぞ。報酬のために」


 報酬、俺はそれの為だけにSランクであるワイバーンを倒す。


「行くぞ」


 アルカの隣を通り歩くが、まだ横に垂らしている拳は震えている。

 けど、そんなのに構ってらんない。体は動くし、思考も鈍いが回る。


 大丈夫だ、俺にはチート魔力がある。

 適当に魔法を繰り出せば問題ないはずだ。


 落ち着け、落ち着け。



 ――――――グイッ



 ん? 両腕を二人に掴まれた?


「っ、え、何してんの、お前ら」


 腕を掴まれ、反射的に振り向くと、二人が俺を見上げていた。

 なんか、怒ってる? 眉を吊り上げ、口をへの字にしている。


 なんだよ、見ているだけじゃわからんぞ。


「俺達もいるんだからな!!」

「そうですよ!! 私達は弱いですが、それでもカガミヤさんより戦闘慣れはしています。少しでもお役にたてるように頑張りますので、無理だけはしないでください」


 ・・・・・・・・・・?


 なんだ、この空気。

 こしょばゆいというか、今まで感じた事がないような感覚だ。

 

 気持悪いわけではないけど、なんか、嫌だ。


 な、なんなんだよこいつら。

 俺の事何も知らんくせに、別世界から来た変な奴なのに。


 何でこいつら、なんも疑わないんだ? 

 俺、この中では一番怪しい人物だろ。



 ――――――あ、震え、止まってる。



 …………なんか、大丈夫な気がしてきたな。

 まさか、二人の確証が持てない言葉で落ち着くことが出来るなんて。


「――――――今度こそ行くぞ」


 俺の言葉に、二人は笑顔で頷き合った。


「無理せず、頑張るぞカガミヤ!!」

「回復魔法なら任せてね!!」

「はいはい」


 緊張で引きつったような笑みを浮かべている二人だけど、言葉にはしっかりと覇気があり、前を向いている瞳は真っすぐと通路の奥を見つめていた。


 二人に後れを取らないように気を付けないとな。

 おじさんはおじさんなりに、頑張るか。


 三人で小走りに最奥へと向かっていると、小さな光の粒が見え始める。

 大きくなる、目的の場所が近い。


「――――見えた!!」


 アルカが叫ぶのと同時に、広場にたどり着く。瞬間――……



 ――――グワァァァァァァァアアアアアア!!!!



 体にのしかかる咆哮。

 最奥にいるのは、大型トラックより一回り大きいSランクモンスター、ワイバーン。


 天井を隠すほどの大きな翼を広げ、威嚇。

 大きな牙をむき出し、咆哮して来た。

 体が一気に重たくなり、足を踏み出す事すら出来ない。


 アルカとリヒトも、汗を流し苦しそう。だが、さすが戦闘経験があるだけの事はあるか。


 地面をしっかりと踏み立ち、視線はワイバーンへと向けられている。

 俺を守るように二人は前に出て、リヒトは杖を、アルカは剣を構え始めた。


「大丈夫か、カガミヤ」

「…………問題ない」


 まったく、若者がこんなに頑張っているのなら、俺も負けてられないじゃないか。


「…………お前を殺せば、俺は金が手に入る。ここで手に入れたところで何になるかわからんが、もらえるもんはもらうぞ、ワイバーンよ」


 ワイバーンを見上げると、赤い瞳が俺達を射抜く。

 体が竦みそうになるが何とか堪え、指輪がはめられている右手を前に出した。


flameフレイム!!」


 前に突き出した右の手のひらに、炎の渦が生成される。


 四方に飛び火していた炎が一つに結集。先ほどより魔力を強め、集中力を高める。

 すると、今までの何倍もある炎の玉が生成された。

 

 これさえ当てる事が出来れば、一発でワイバーンを仕留める事が出来るはず。


「────行け」


 燃え上がっている炎を操作し、前にいるワイバーンへ放つ。


 風を切り、轟音を鳴らしワイバーンへと向かって行く。

 このままもろに当てる事が出来れば楽に――……



 ――――バサッ!!



 「うわっ!! せこ!!」 


 ま、まぁ……。そりゃ、翼があるんだから、上に跳んで逃げるか……。


 っ! 翼が大きいからか、風が勢いよく吹き体が煽られる。

 地面を踏みしめなければ後ろへ飛んでしまいそうだ。


「…………――――っ。上にいるんじゃ、flameフレイムを当てる事が出来ないな」


 広い空間を自由に飛び回るワイバーン。


 flameフレイムは溜めてから放つから勢いはすごいが、飛び回っているあいつに当てるのは困難。


 仮に、放つ速さを優先したとしても、炎の勢いが弱くなるから当たったところで意味はないだろう。他の魔法を使わねぇと……。


「”アビリティ”」


 言うと同時に映像が現れ、すぐ俺が見たい魔法一覧を出してくれた。

 えっと、俺が使える魔法…………っ。


「っ!! ちっ!!」


 ワイバーンが俺に向かって急降下。勢いを殺さず突っ込んできやがった。


 映像は半透明だから遮られていたとしても前方を見る事が出来る。

 今回はそれのおかげで早めに気づく事ができたから良かったが……。


 もし当たっていたらと思うと……考えたくない。


「っ、また!!!」


 今度は後ろから迫ってくる、考える時間すら与えてくれんのか!! 


「っ!」


 視界の端に映る一つの魔法名。偶然かもしれないが、時間がない。

 名前的にも、現状に適した魔法が出てきてくれるだろ、多分!!


heat hazeヒートヘイズ!!」


 向ってくるワイバーンに向けて出した手から、何か揺らいでいる物が出現。


 これは、霧? 煙? いや、違う。


「なんだこれ……って、ワイバーンに当たっても意味ねぇじゃねぇかよ!!!」


 現れた霧がワイバーンの突進により霧散。

 体が勝手に動いてくれたおかげで本当にギリギリになったけど、避ける事が出来た。風で煽られはしたがな。


 回避できたのはいいが、今のはなんだ。

 違和感が…………。


 目の前まで来ていたワイバーン、避けきれる距離ではなかった。


 と、いうか。さっき、俺じゃなくて違う奴を狙ったような気がした。

 ワイバーンの身体が勝手に横へ逸れたような…………。


「もしかして、今の魔法って…………」


 heat hazeヒートヘイズ、熱の霞。


 もしかして、相手に歪んだ映像を見せた感じか? 陽炎的な感じで。

 陽炎なんだとしたら実態はない。だから、恐らく物理で消すのは不可能。


 ────これは使える。


 flameフレイムheat hazeヒートヘイズを何とか使い分け、勝ち道を……。いや、他にも使ってみたい魔法はあるな。


 幻覚はなんでもいいんだろうか、俺の頭の中で変えられるのか。

 それも試して、こいつを倒すか。


「チート魔法なのかは知らんが、持っている力は全て使わせてもらおう。報酬のために、金の為に」

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