第4話 基本魔法であんだけ強いのか
馬鹿威力のある基本魔法だな……。
これは、扱い方を間違えると他のもんも巻き込んじまいそう。
だが、これは結構使えるんじゃないか?
壁とかじゃなくて、モンスターとかで試せたらいいんだけど、さすがにワイバーンはハードルが高い。
「なぁ、どこかに弱い敵とかいねぇか?」
「それなら多分、今の道を歩いていれば出てくると思うぞ」
「なら歩こう。どっちにしろ、こんな所で立ち尽くしていても金は入らねぇからな」
左右を見るが、どっちも先を見通す事が出来ない闇。
どんなモンスターが潜んでいるのかわからない道だから、油断でもしようものなら、避け切ることができず殺される。
おじさんの身体能力を舐めるなよ?
少し無理しただけでぎっくり腰になるんだからな。
「どこに歩いて行けばいい?」
「来た道を戻るとワイバーンがいるから、逆側に歩こう」
言うと、アルカを先頭に洞窟内を進む。
湿気が凄いな。
湿っぽくて、体に服が張り付く感覚が気持ち悪い。
――――あ、こういう時に色々質問しておこう。
この後は恐らくバトルパート。今しか聞くタイミングはないな。
「なぁ、この世界について教えてもらってもいいか?」
「大丈夫だが、もうそろそろお前についても教えてほしい。何て呼べばいいのかわからないし……」
あぁ、まぁ、それもそうか。
「あと、そんな強い力を持っていて、どうやって今まで正体を隠していたのかも気になる」
それは、答えられないなぁ。俺自身、分からんし。
今は答えられる質問だけ答えとくか。
「俺の名前は
「違う世界という事は、貴方はこの世界に転移された魔物って事ですか?」
待て待てリヒトよ、俺みたいなイケメンが魔物に見えるんか?
俺、これでも結構な高身長で、猫っ毛の黒髪が目元にかかっていたとしても、顔が整っていると言われた人間だぞ。
「おいおい、リヒトちゃん、俺が魔物に見えるかい? こんなにか弱くてイケメンの俺が魔物の訳がないだろ。見た目と違って中身はおじさんだから、精神的には弱っているんだ。もう少し労わってほしいなぁ」
「…………見た目は確かに悪くないと思います。ですが、それ以外は全て否定します。あんな威力を出せる人がか弱いわけがない」
リヒトの目から放たれる軽蔑の眼差し、痛いよ……。
精神が弱いと言っただろう。あぁ、心が泣いている。
「魔物じゃないのなら、その力は一体どこから手に入れんだよ」
「知らん」
わからんことを素直に分からんと言うと、アルカが怪訝そうな瞳を向けてきた。
そんな目で見られたとしても、俺自身分かっていないのだから知らんとしか言えんわ。
「ひとまず、ここの世界での常識を教えてほしいんだけど」
「転移魔法についてまだ聞きたい事があるんだが、まぁいいや。なら、まず――――」
────ダッダッダッ
アルカが話し出そうとすると、何かの足音が聞こえてきた。
どんどん大きくなるって事は、こっちに何かが走ってきているのか。
この音は二人にも聞こえたらしく、前方に目を向けている。
音が聞こえてくる方を見ると、視えたのは大量の影。
子供サイズのモンスターっぽいな、足音的に複数人。
集団で行動するモンスターか、めんどくさそう。
「あれは…………」
「あれは、集団で行動する事が多い低級モンスターだ。おそらくCランクの、ゴブリン」
めっちゃ有名なところが来たな。
低級なら俺の魔法を試す事が……で…………き……?
「────きもっ」
「十、二十はいそう」
アルカが顔を引きつらせ、額から一粒の汗を流し数を数えている。
数えるな、現実を俺に突きつけるな。
「カガミヤ、まずはさっきの魔法で数を減らしてくれるか?」
「あぁ、はいよー」
右手を向かって来ているゴブリンに向け、集中。
さっき、壁を壊した時と同じようにすれば問題ないはず。
威力は上げないとあの数は難しそうだが、魔力とかよく分からん。
仕方がない、頭の中で『魔力!』と叫んで魔法を放てば何とかなるだろう。
「すぅ、はぁ。――――
唱えると、四方にばらまかれていた赤い炎が渦を巻くように結集。
炎はたちまち大きくなり、狭いダンジョンの道を塞いでいく。それでも、熱気は感じない。
「───行け」
集まった炎は轟音を鳴らし、まっすぐとゴブリンへと向かって放たれた。
――――ギャァァァアアアアアア!!!!!
…………わぁお、俺が放った炎がゴブリン達にぶつかり大爆発。
二十はいたゴブリンを全て吹っ飛ばした。
数秒間、爆風と土煙で視界が遮られていたけど、徐々に薄れてくる。
前方を見ると、焦げた地面や崩れた壁だけが残り、ゴブリンは一体も残っていない。
いやぁ、いい戦闘だったね、汗かいたわぁ。流れてないけれども。
汗を拭く仕草をしていると、リヒトが隣におずおずと近づき、ぼそっと心を抉る言葉を発しやがった。
「あの、他の魔法を試さなくて良かったんですか」
「言わないで、まさかここまで勢いが増すなんて思わなかったんだよ。一気に倒せるなんて思わないじゃん」
弱すぎだってゴブリン、もっと耐えようぜ男だろ。本当に男かは知らんけど。
「これだったら、ワイバーンも倒せるのでは?」
「うん、余裕かもしれないよ」
待てやてめぇら。
それは俺にワイバーンを倒せという事だろふざけるな。
俺はまだ自分の魔法を一つしか使ってないんだぞ、さすがに賭けになるだろう。
「よし、早く来た道戻ろうぜ!!」
「おー!!」
「『おー』じゃねぇんだわ。結局お前らは俺を利用しているだけだろ」
俺の力を使いたいだけだろ、魔法を使いたいだけだろ。
利用しようとしてんじゃねぇわ、ざけんな。
「利用も何も、ここから出るには引き返すか、ダンジョンのボスを倒さなければ出られないぞ?」
「なら、引き返せば…………報酬は?」
「引き返せばもちろん報酬はなし。ただ、無駄にモンスターを倒しただけになる」
うわぁ、最悪。
結局、ワイバーンを倒さないと駄目なのか。
まぁ、だよな……。
報酬をもらうには、それ相応の事をしないといけない。
当たり前だな、早く倒そう。
基本魔法であんだけの技を出せるなら、他の魔法はもっと威力があるはず。
「名前だけでも他の魔法を確認しておこう」
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