第3話 俺の性格的に、チート能力をゲットしていいのか?

 二人が俺を見て首を傾げているけど、一番首を傾げたいのは俺なんだよ。


 改めて指輪を見るが、見た目は特に変哲もない、小さな黒い石がはめられている指輪。


 これが冒険者の証? 

 ますますわからん。


 二人は俺が話さなくなったからか、何故か急におろおろとし始めた。

 し、視線がうるせぇ……。


「…………なぁ、指輪が冒険者の証ってどういうことか聞いてもいいか?」

「あ、あぁ! 指輪はギルドから寄付される物なんだ。”アビリティ”と言うと自分の能力値を確認できる。これは受け取った時に説明を受けたはずなんだが……」


 俺の場合は、車に轢かれ意識を失い、次に目を覚ました時にはダンジョン内、ギルドにすら行っていない。


 なぜ俺は、この指輪を持っている……。


 いや、今は深く考えず、この指輪をありがたく使わせてもらおう。

 報酬を貰う為には、使えるもんは使わんとな。


「えっと、”アビリティ”」


 ────ん?! いきなり指輪に嵌められていた黒い石が光り出しただと?

 発動したという事でいいのか? これ。



【アビリティを発動】



 高めの機械音と共に、石から映像が現れた。


「出てきた出てきた。これで合っているのか?」


 振り向くと、何故か二人が固まっている。

 視線の先は指輪から放たれている映像。


 俺が成功させたのがそんなに意外なのか? さすがに怒るぞ。

 ふん、もういい。固まっている二人は無視無視。


 指輪からは、プログラム画面のようなものが空中に浮き出ている状態。

 パソコンの画面を見ているみたいな感じだ。


 長方形の画面に映っているのは、俺の名前である鏡谷知里かがみやちさとの文字。


 おい、隣にカッコを使って年齢を書いてんじゃねぇよ。

 二十八で何が悪い、体にガタが出始めているだけだぞ。腰と首が最近痛いだけだ。


 その下には『S』という文字。

 もっと下を見ると、パラメータが棒グラフのように書かれてんだけど…………え。


「何か、能力値バグってない?」


 HPやMPが画面上に収まっていない。


 属性は炎と水、武器は未定。スキルは透視。

 壁の向こうの景色を見る事が出来るとかだよな、確か。


「なぁ、これって――……」


 固まっている二人に質問しようとしたんだが、いつの間にか二人は俺の前で片膝を突き頭を垂れていた。なんぞよ。


「こ、こここここんなにランクが高い方だとは思っていなかったでございます。今までのご無礼を許せください」


 え、ご無礼してた? 

 逆に馬鹿すぎるほど素直で助かったんだけど。


 あと、慣れないというか、使えない敬語を無理に使うな、逆にむかつくわアルカ君よ。


「私達は貴方の為なら何でもします。どうか、どうか、お申し付けください」


 リヒトがアルカに続き言葉を繋げて来た。


 ────もしかしてだが、二人は俺の能力値を見てこんなにも態度を変えたんじゃないか?


 まぁ、パラメーターバグってるしランクが最初からSだし、強い方か。


 現代で人気だった主人公つえーとか、チート無双みたいな感じだ。

 …………いや、みたいな感じではなく、まさに"それ"が、俺の身に起きているんじゃないか?


 え、嘘だろ?

 チート能力を欲したのは俺だが、まさか本当にもらっちまった感じなのか? 


 それはそれで困惑なんだが……。


「おい、顔を上げてくれ。俺はまだ現状を理解していない。色々教えてほしいんだ」

「なんなりと」


 同時に顔を上げて眉を吊り上げるな、なんとなく腹が立つ。


「スキルとかって自動仕様なの?」

「そうだぞです。スキルは使いたい物を呟けば使えるです」

「魔力の表記があるという事は、魔法を使えるんだよな。それはこれで確認出来ないのか?」

「次のページに書いてるです」

「わかった。あと、普通に話して。無理に敬語を使うな、逆にむかつく」


 言い放つと、アルカが肩をすくめ項垂れたが知らん。

 隣にいたリヒトが、肩をポンポンとして慰められている。


 そんな二人を無視してページをめくるみたいに、人差し指で画面を横にスライドしてみる。


 よし、出来た。


「えっと…………。読みたくねぇ」


 後ろで二人が驚いているのは気配でわかるけど、俺も驚いてる。


 マジで俺、チート系主人公的立ち位置なの? 世界を救えとか言われるの?

 

 絶対に嫌だよ、報酬次第では考えるけど。

 俺の要求する金を出してくれるのなら頑張るけど。


 いや、気落ちしている場合では無い。早くダンジョンとやらから脱出しよう。

 金も、このダンジョンをクリアしないとゲットできないし。


 ――――えぇっと…? 


 画面いっぱいに書いてある様々な横文字。

 読みたくない、読みたくないです俺。


 だが、嫌だと逃げるわけにはいかないし、読みやすい所から読んでみるかな。

 どのような威力で、どのような場面で使えるのか。頭で把握したいし。


「えっと、左の一番上にある魔法でも出してみるかな。読み方は…………ふ、フレ……”flameフレイム”」


 呪文を唱えながら右手を前に出し、何もない所に放ってみっ――……



 ――――ドガン!!!



「…………」

「…………え」

「…………は?」


 …………はいぃぃぃぃいいいいいい!?!?!?


 炎の玉が作られたかと思ったら、回転しながら俺の手から放たれ、勢いよく壁に激突。ガラガラと、大きな音を立てて壁が崩れちまった。


 ダンジョンの壁って、モンスターとの戦闘も考え強化されているもんじゃないの? 


 簡単に壊せるようなものではないだろ。

 俺は魔力とか全く意識していなかったんだぞ。


「い、今のが炎属性の基本魔法なの?」

「んな訳あるかよ。あんなのが基本魔法で放たれていたら、もうダンジョン内のモンスター全滅してるわ」

「だよね、アルカ」

「うん」


 ────え、これ基本魔法なの? 

 ダンジョンの壁を壊したのが、基本魔法?


 ありえねぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!

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