セーラ村
初めての魔法
第2話 チート能力って、どこかに落ちてたりしないかな
俺を担ぎながら少年と少女は、大きな広場から細道に抜ける。
ドラゴンの咆哮がまだ聞こえるが、だいぶ小さくなってきたみたいだ。
「アルカ!! もういいんじゃないの!? ダンジョンのルールとして、一部屋には一体のモンスター。移動中はC以下のモンスターしか出てこないから、今は少しでも体を休めた方がいいと思う」
「そ、それもそうだな!」
少女の言葉に走る勢いを緩め、足を止めた。
肩で息をしているな、俺の事をもう下ろしていいぞ?
なんか、恥ずかしい。
「はぁ、はぁ……。アルカ、大丈夫?」
「あぁ、リヒトの拘束魔法が無かったら、今頃危なかったかもしれないけどな。一応は大丈夫だ」
ん? 拘束魔法?
あぁ、ドラゴンの足元でキラキラしていたあれか?
「というか、このダンジョン、ランクがBの人向けのはずなんだけど。でも、ワイバーンは確かSのはず……」
「くっそ!!! 今回も報酬なしかよふざけるな!!」
「もう、何回目なのさ……」
んー……、まるで俺の存在がないようだ。
俺、そんなに存在感ないかな。
元の世界では結構目立っていたと思うんだけど。
ぼけぇっとしていると、リヒトと呼ばれた少女と目が合った。
「ねぇ、アルカ。その人、いつまで担いでいるの?」
「あ、忘れてた」
担がれながら忘れられていたのか俺。
体重は標準のはずなんだけど、こいつの筋力、化け物じゃねぇか?
アルカと呼ばれている少年は、やっと俺を下ろしてくれた。
「なぁ、お前は何でここに居るんだ?」
そう聞かれても、答えれんねぇ。
確認のため自分の服を見るけど、一般的な黒いスーツに革靴。
所々に赤黒いシミがついているという事しかわからない。
シミ、というか、血。
これはこっちの世界に来て付いたものなのか、元の世界で付いたものなのか。
――――あ、地面に水たまり。
ちらっと覗き込むと、いつもの俺がそこにいた。
黒髪黒目、あまり特徴のないモブ顔。
いや、まぁ、顔は少々褒められてはいたが、今はどうでもいい。
…………これって――いや、今はこいつらから聞けることを聞いて情報を集めよう。
「まず、お前らの事を教えてくれねぇか? 俺も今まで経験したことのない出来事の繰り返しで何がなにやら……。状況把握するために少しでも話が聞きたい」
さっきのこいつらの会話だけで、まずここがダンジョンだという事はわかった。
ついでに、こいつらが自身の聞いていたより高いランクのダンジョンに案内されたのも理解。
ダンジョンだのギルドだのが当たり前の世界というのもわかった……はぁ。
他に何を聞けばいいかなぁ。
そんな事を考えていると、少年が笑顔を向けてきた。
「そうだな、人に聞くならまず名乗らないとな! 俺の名前はアルカ=フェデリオ。気軽にアルカと呼んでくれると嬉しいぞ」
「私はリヒト=ケイン。私の事も気軽にリヒトって呼んでほしいです!!」
……礼儀正しいな。しかも、普通にフルネーム。
隠そうともしないのかよ。
「…………アルカとリヒトな。ここはダンジョンと呼ばれる所で合っているのか?」
「そうだぞ。ここは最近作られた、Bランクのダンジョン──と、聞いていたんだが、ワイバーンが出てきた事により話は変わった」
それが、さっきこの二人が話していた内容だよな。
「ギルドの手配ミスで、俺達より高いランクのダンジョンに放り込まれたらしいんだ」
「なるほどな。さっきの会話を聞いていた限り、同じ事が今までもあったみたいだが、なぜお前らはダンジョン攻略を続けているんだ?」
普通なら、一回でもこのようなことがあればギルドを訴えてもいいだろ。
なぜ今もギルドを頼り、ダンジョン攻略してんだ?
「冒険者の中ではランクより、どれだけダンジョンを攻略したかで位置付けさせられるんです」
「位置づけ?」
「はい。どんなに雑魚モンスターでランクを上げたところで、ダンジョンを攻略しなければ存在意味がなくなる。だから、私達はこうやってダンジョン攻略をしようと頑張っているのですが…………」
リヒトがそこで言葉を止める。
おいおい、ここで滅入っている態度をしないでくれ、反応に困る。
リヒトが言葉を止めると、代わりにアルカが続きを話してくれた。
「いつも俺達のランクより高いダンジョンに送られて失敗。もう、五回以上は続いている。絶対におかしい」
それはおかしいというか、ギルドは確実に黒だろ。なぜ疑わない。
「何か文句を言ったり、訴えたりはしないのか?」
「意味なんてない。何を言ったところで全て潰される」
今の話で、こいつらの事情は大体わかった。
だが、それは今の俺には関係のない。
――――はぁぁぁぁぁぁぁあ。
こいつらが当たり前のようにダンジョンだのギルドだのと。
俺の世界では絶対に日常会話では出てこない単語をポンポン出してくる感じでわかった。
俺、これ、確実に異世界転移とやらをされちまったんだ。
結構、盛り上がりを見せていたっけなぁ、現代で。
剣や魔法の世界かっこいいとか騒がれていたなぁ、はははっ……。
はぁ、最悪、本当に最悪。
こんなめんどくさい世界に転移させやがって。
ふざけんじゃねぇぞ、報酬はしっかりともらえるのか?
金はしっかりと与えてくれるんだろうな。
いや、それも大事だが、まずは俺を巻き込んだ奴の顔面をぶん殴ってやる。
…………ん? 報酬? そういえばなんだが。ダンジョンという事は、クリアをすれば報酬を貰えるんじゃないか?
「なぁ、ダンジョンって事は、クリアしたら何か報酬とかもらえんの?」
「はい。ダンジョンに隠れている宝と、ギルドからの報酬が冒険者のものになります」
両方からか……ふむ。
「どのくらい?」
「ランクによって違いますが、今回みたいなSランクだと、だいたい
「その話、乗った」
「え?」
リヒトが丁寧に教えてくれたおかげで、身体の内側に沈んでいたやる気が浮上。
ダンジョンにどれだけの宝があるのか知らんけど、宝プラス報酬は正直に言うと欲しい。
金はあっても困らんし、あればあるだけ出来る事は増える。
もらえるのなら、もらいたい。
だが、俺は何も力を持っていない。
ここでは魔力とか魔法、スキルとか。そんなもんが必要だろう。
どこかに落ちてないかな、魔力とか。
「そういえば、結局お前の名前――……」
「俺は魔力も何もないか弱い人間だ。何か力を手に入れる方法とかないか?」
「え、え? 力を手に入れる方法?」
「あぁ」
異世界転移と言えば、主人公には何かの特典があるはずだ。
出来ればチート能力が欲しいところ。動かないで、疲れないで報酬が欲しい。
少しでも楽をして、めんどくさい事を回避して…………いや、なんだったらもう手からお金を出す能力が欲しい。
願いをぶつぶつ呟いていると、アルカが不思議そうに俺の右手を指さしてきた。なんだ?
「何を言ってんだよ。お前、もう冒険者の証の指輪をはめてんじゃん」
ん? 指輪? 確かに身に覚えもない指輪が俺の右手の中指に嵌められていたが、これがなんだ?
二人が自身の右の中指にはめられている指輪を見せてくる。もしかして…………。
「冒険者の証である指輪だ。というか、それがないとダンジョンには入れないぞ?」
「…………誰だ、俺にこの指輪を与えたやつ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます