第44話 蟲の洞
魔帝フィズ・ディーが自爆してエルネスティーナを道連れにしようとした。しかし、エルネスティーナは無傷で耐えきった。
自爆したフィズ・ディーが存在した痕跡として邪悪な穴が 開くことになる。
それはあらゆるものを飲み込んでいく。
仲間がゲートで帰還したあと、拘束していたエイダが何かに取りつかれたように語り始めた。自身の身に起きたことなのか妄想なのか判断にしようがない。
それは戯言。そう思うことにした。
攻撃を耐えたエルネスティーナは機能停止して神父が介抱しているようだ。
見るからに難航しているようで放置している。
そんな時、俺の背後に人の気配がした。
「おじさん来ちゃったよ。ごめん」
「エメリか……。俺は無事だ。フランにリキャスト可能になったらゲートを開くように伝えてくれ。俺はあの穴を監視して、状況により、この魔帝を放り込んでみる」
「魔帝って……。どうみても普通の女の子だよ?」
「瞳は暗赤色。容姿は人型で会話が可能。だが、この世界に存在すること、それ自体が危険極まりないことなのだ。だから非情だが処分することにした」
エメリは嫌そうな顔をしたが嫌々うなずいた。
俺は注意を新たな脅威に向ける。
邪悪な穴。
おそらく別な異世界に通じる門だ。
師匠や教師たちから聞いた空間と時間を穿つ穴。
その穴は魔素をかき集め巨大化して口を広げていく。成長を続ける洞。
遺跡の構成物が引き剥がされのまれている。
「エメリ危険だ。穴が広がっていく。最悪この遺跡は消え失せる」
「いちど戻ってゲートの準備してもらうよ。あれなに?」
「異なる世界につながる
「うん。無理しないでね」
俺は手を挙げて追い払う。
エメリはテレポートして魔帝エイダは死んだように眠っている。
エルネスティーナは行動停止中で、動かせないのか神父は苦戦しているようだ。
いっそのこと、ここで蟲の洞に落ちてくれた方が好都合。
積極的には助けない。
俺は広がる蟲の洞に押されて後退している。
どうやら穴がふたつに分離しだした。渦が二個できているのだ。
気流が変わり魔素だまりが捻じれていく。この世界に在ってはならないものが勢力を増すことに恐怖さえ感じる。
この先はどこに繋がっているのか。
知りたいような。
でも、踏み入れてはいけないと理性が押し留める。
ゲート魔法のリキャスト時間がこれほど待ち遠しいのは初めてだった。
俺は蟲の洞の存在を脅威と捉えている。
迷信じみた話も多いが、蟲の洞とは現世と異なる世界を繋ぐと云われ、魔物や流れ人が現れることがある。迷い込むものがいるかと思えば、逆に連れ去られる者もいた。目撃情報はあっても実際に何が起こっているのか見当もつかない。
淡い輝きが洞と俺の間に発生した。
それはゲートだった。
ゲートから複数の人間が現れる。
ロセンダが激高して辺りを見回している。その後ろにはエメリとダレンがロセンダの両腕をそれぞれが掴んで、まるで連れ戻そうとしているようだ。
その後にはライーとフィース、フランも続く。
撤退しろと言ったはずだ。
なぜ連れなって現れる。
「フラン何ごとだ?」
「すみません。ロセンダが暴走してしまいました。止めるためにエメリちゃんとダレン君が。他の面々は結界要員と新たなゲートを作成しに来ました」
ロセンダは神父めがけて駆けだした。
エメリとダレンはコバンザメのように引きずられていく。彼女は怪力だった。
「ゆるさない。絶対ゆるさない。アメリアの仇をとる。はなせ……」
「ロセンダ姉ちゃん帰ろうよ」
「エメリ危ないよ」
神父とロセンダが絡み合い、エメリとダレンが引き止める。
そんなことをやってる暇はない。
俺はフランたちに指示する。
「フランなるべく遠方でルーンを記録してくれ、蟲の洞となるべく距離をとりたい」
「穴が拡大して不安定ですね」
「そのあと一度ゲートで拠点に戻り、新たな記録位置にゲートを開け」
「はい! お気をつけて」
フランはゲートを潜った。
俺は駆けだしてロセンダを眠らせる。
俺は察知した。
空間の捻じれ……。
「まずい」
穴が不規則に揺れ出した。
地面に
辺りは暴風が吹き荒れ、吸引力が半端ない。
俺は全力で地面に身体を縛り付ける。ロセンダを抱えるだけでで精いっぱいだ。
「ライー、フィース! 撤退してくれ。俺はだいじょうぶだ。後でまた会おう」
「ねえ、一緒に帰りましょうよ」
抗うフィースはライーに引きずられていく。
フランがルーンを記録した位置に向かっているようだ。
「検討をお祈りしております。また会いましょう」
「仲間を置いていけない。まだ、戻らないわ」
「聞き分けなさい」
ライーが暴れるフィースの頬を打った。
高い音が響く。
その瞬間気流が乱れた。
基礎体力のないダレンが近いほうの蟲の洞に引き込まれてゆく。
「くそ!」
俺はロセンダから手を放してダレンを追いかける。
神父とエメリ、ロセンダは遠方にある蟲の洞に流されていく。
神父たちは何か叫びながら穴に消えていき、俺とダレンはもう一方の蟲の洞に引きずられていた。踏み込み過ぎて抗うことなど不可能だった。
魔帝エイダとエルネスティーナは俺達と同じ穴に吸い寄せられている。
ライーとフィースは諦めたように俺達を見ている。
「ライーすまない。フィースを頼む。フィースは攻略隊を……」
最後まで会話できなかった。
俺はダレンと共に蟲の洞に吸い込まれ、あとを追うように眠ったエルネスティーナと魔帝エイダが引き込まれてくる。
周囲が渦巻いて、錐揉みする中でフィースが手を伸ばして何か言っていた。
俺は答えることもできず意識が
夢の中でイオラとオリヴィアが笑っている。幻のようにつきまとう。
二人は俺を手招きしている。
暖かい。
こんなかたちで俺たち家族は再会するのだろうか。
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