第43話 浸食する世界

 最上位魔帝のフィズ・ディーとエイダが第三居留地に連れなって出現した。そして魔帝エイダはエルネスティーナを攻撃対象に選び、戦闘が開始される。

 エイダの蹴りでエルネスティーナは吹き飛ぶが、いつの間にか戻ってきていた。


 エイダは回避して敵の攻撃を避ける。それに対してエルネスティーナは直撃を受けても顔色ひとつ変えず、受けたダメージは無効で平然としている。

 こうなると長期戦になることは避けられない。

 おそらく、フィズ・ディーの参戦でバランスが崩れるだろう。


 その予想に反して、魔帝フィズ・ディーは戦うよりも会話を選んだ。

 まったく行動が読めない。


「お前たちは魔帝が何者か知っているのか?」


 俺は神父を制して話しだす。


「閉鎖域の住人。または守護者? 敵対者。こんなところか」

「それが、お前たちの認識だ。そして、我々から見ると逆転して、お前たちは敵対者にして我が世界を侵食する害獣だ。わかるかね?」


 まて、何時こいつらの世界を侵食した。

 冷静になれ。


「異世界の浸食を受けているのは我々のはずだ。どうやってお前たちの世界など浸食できる」

「お前たちのステージは2番目くらいか。木人の世界は破滅目前。一度でいいから木人どもと話してみることだ。浸食の秘密を彼らは知っている」

「お前から聞くわけにいかないのか?」

「不本意ながら肉体を失い、真実を確かめようがないのだ。推測よりも先人に聞くほうが有意義でないかと思う」


 理解できない。

 閉鎖域にステージがあることは事実で、奴の推測は正しく我々は第二ステージだ。

 その状況を踏まえて木人に聞けという。

 最終ステージということは後がないということなのか。


「最終ステージってなんだ?」

「お前たちの聖域の数、石碑の内容から推測になるが、攻略の進みかた次第で聖域は増減することを知っている。木人の聖域は1カ所だ。最後の聖域が失われるとどうなるか彼らは知っている。過去に失われた世界のことも」


 木人は引き籠り。

 静かに死に臨む種族として知られている。


 この手の話題は俺の頭では処理できない。

 もはや言葉遊びだ。


「理解できないが、お前たちも滅びる世界に抗っていると言いたいのか?」

「お互いの生存戦略として戦うしかないのだ」

「お前は肉体を失い、我々を邪魔するしかない」

「そうなるな。呼び出されて戦いを強要され肉体は使い捨てだ。精神だけ繋ぎ止められている。そこの眷属と変わらない」


 もう頭は飽和状態だ。


「それで、エルネスティーナを打倒できそうなのか?」

「エイダの攻撃が通らないのは予想外だ。あれは何者なのか。実体がここにないようだ。そして、攻撃方法、技術が瞬く間に進化してゆく」


 確かにエルネスティーナは体術を覚えてきたのか、エイダの腕をとって投げ返すようになっている。急所や関節を狙いに行くし、敵の身体の可動範囲を見切り始めた。

 まるで、エメリの吸収のしかたに似ている。

 才能の塊がここにもいるのだ。


「想像以上の脅威だ。早い段階で確実に潰すしかない」


 フィズ・ディーがエルネスティーナに向かって走っていく。


「レイリー離れろ! 自爆するぞあいつ」

「わかっている。魔素が膨れ上がる」


 慌てて後退する。

 非常事態だ。

 俺は仲間達のところに駆け込み結界を張る。


「全員結界を張れ!」

「悪いな。お邪魔するぜ」


 神父もどさくさに紛れて結界の中にいた。

 結界が増えるなら大目に見よう。


「お前も働け。結界だ!」

「あぁ、こんなところで巻き添えは御免だ」

「エルネスティーナは大丈夫なのか」

「短時間ではあるが、行動不能になるくらいだ」


 化け物だ。


「フラン! 撤退準備だ。拠点を出先にゲートの準備を頼む。ライーとフィースで眠っているロセンダを運んでくれ」

「レイリー様、ロセンダを起こしてあげてくださいませんか」


 そうだ、俺しか解除できなかった。

 素早く魔法を唱えて睡眠解除する。目覚めたばかりで朦朧として動けないようだ。


 その瞬間フィズ・ディーが自爆した。

 魔素爆発。

 それも高位の魔帝の自爆だ。遺跡がどうなるかわからない。


 閃光で視野が失われた。

 魔素の流れで状況を把握する。


 フィズ・ディーは消失。エイダは回避した。

 そして、俺達の結界はどうにか持ちこたえる。さらに多重で結界を重ねた。


 魔素のエネルギーが上昇する。

 エルネスティーナは耐えられるようで、手をかざして魔素をコントロールしていた。結界ではない防御方法。規格外の力。

 神の怒りに触れないのだろうか。

 結果的にフィズ・ディーは無駄死にだった……。


 仲間たちが動き出す。


「嵐が過ぎ去ったら全員ゲートで撤退だ。フラン頼む!」

「はい。ゲート開きました」


 やっと視野が戻る。


 そこには放電する暗黒の口が開き、魔素が渦巻き引き込まれていく。

 嵐のようにあらゆるものを飲み込む歪で忌まわしい口。

 本能的に受け入れられない。


 エルネスティーナは何事もなかったかのように佇んでいる。

 俺は失神しているエイダを拘束した。


「お前たちは撤退しろ! すぐ後を追う」

「この位置をルーンに記録しました。先に拠点で待ってます」


 フランを先頭にロセンダを抱えて仲間たちがゲートに消えた。


「神父どうするるつもりだ?」

「俺はエルネスティーナを回収していく。さらばだ勇者!」


 神父はエルネスティーナのもとに走り去る。



 俺はエイダをどうするか迷っていた。

 とりあえず結界で拘束する。

 

 遺跡には大穴が開き、フィズ・ディーの自爆位置には未知の穴が口を広げている。

 破壊の傷跡はいたるところにあり、この程度で済んでいることに驚きを隠せない。通常であれば溶融した赤熱地獄が出来上がるのに、何事もなかったかのように常温に戻っていた。


「あぁぁぁぁ! 世界が浸食される。私の家が……」

「何事だ?」


 エイダが暴れ出した。

 結界の強度を増し、組み付いて抑え込む。


「父が母が……そして私も。死んだ!」


 突然覚醒したようにエイダが俺に向かって話しだす。


「敵対するは宿命、滅びをかけたぶつかり合い、正義もなければ悪もない。

我々は呼ばれて戦うだけだ。それがお前たちが呼ぶ魔帝の実態。

そして、我々もまたお前たちを魔帝として倒してきた」

「何の話だ……」

「この世界のことだ。分らぬか?

  避けられぬ戦闘 あぁ、ボクは永遠に戦い続けるのか。

    あぁぁぁぁ!」


 これはひどい。

 妄想なのか狂気なのか。鵜呑みになどできない。


 混乱していると。

 いきなり俺の背後に人の気配がする。

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