第35話 無断侵入
遺跡より現れた飛空艇は俺達の上空で停止した。そして、飛空艇より何かが落下する。俺は調査するため、単身で落下点にかけていく。
それはゴーレムに似た攻撃兵器。俺は人形と呼ぶことにした。
人形の弱点を突いて撃破したとき、飛空艇は降下を始め地表で停止した。状況から判断して破損した人形を回収するのだろう。
俺はそれを見て遺跡に侵入するアイデアが閃く。
「フランのゲート魔法の位置の記憶はルーンといったな。それは、ルーンに現在座標を焼くのか、それとも何か
「私の立ち位置が記憶されます。ルーンに記憶すると利き足の指先位置にゲートが開きます。例え空中でも位置は同じです」
「なるほど、例えばあの飛空艇の上でルーンを焼けば、位置や座標に関係なくゲートは飛空艇の上に開くということか」
「はい、座標ではなく場所としてマーキング、記録する感じです」
原理がわかった以上、上手く使うしかない。
あの飛空艇にフランを連れて乗り込み、位置をルーンに記録して遺跡に侵入する。そして、遺跡内でも別ルーンに場所を記録すれば出入り自由になるはず。
「フラン悪いが遺跡まで二人で観光するぞ。ところでルーンは複数持ってるのか?」
「ルーンに余裕があります。遺跡内で記録すればいいのですか?」
「あぁ、とりあえず飛空艇の上に乗る。いくぞ!」
「はい」
他の連中に説明して待機させたあとで、フランの手を取り飛空艇に飛び乗った。
飛空艇は人形をうまくつかめず、苦労している。
俺が焼き過ぎたのが原因だろう。
飛空艇の平らな位置で用心しながらルーンを記録して、片側のヒレ前方部で待機することにした。もしも、風で飛ばされそうであれば滑空して地表に戻るか、ゲートで退避することになる。
排除されることを警戒していたが、人形と違い攻撃してくる気配はない。
この違いは何故だ。考えても仕方ないことではあるが、気持ちのいいものではない。これは罠なのか。
飛空艇は作業用の腕で人形を抱え込み離陸を始めた。
人形をつかんでいるせいか、飛行速度は上げられないようだ。俺にとっては好都合で、空からの景観を楽しんでいる。
ふと気になりフランを観察してしまう。
妙な姿勢から推測して、フランは高所が苦手のようだ。
「座っていればいい。下をみなければ怖くないと以前聞いたことがある」
「誰が、これに似た経験を?」
「俺の師匠の経験談だ。浮遊大陸と呼ばれる遺跡を調査したときの話だった」
まさか、俺も空飛ぶ乗り物に乗れるとは思わなかった。
フランがいなければ翼や機首を散策していたところだ。少し残念であるが我慢しよう。こうして、上空から景色が見えるのだ文句は言えない。
「あの……。私はここにいますから。見て回ってください」
「……好奇心が抑えきれてなかったか。遠慮せず行ってくる」
「子供みたいな表情されていますから」
フランが噴き出していた。
俺は照れ隠しに機首まで走っていった。
いい年して興味に抗えないのは我ながら困ったものだ。
機首からの眺めは壮観だった。
赤茶けた砂と礫で覆われた大地は場所により砂丘になっていた。また、干上がった川や湖なども眼下に見えている。風は強いが飛ばされるほどではない。
人形を収納できなかったことが今の状況を生んでいる。
遺跡は少しずつ近づいて来るが、まだ相当な距離がある。
ただ、予想よりも大きい。
流れ去る景色に釣られて後方に移動する。
飛空艇の推進力は不明で、白い魔導レールをガイドにして引き寄せられるように移動していた。ただ、後方に熱源が存在する。
振り返ると前方は遺跡で塞がれていた。
到着したのだ。
「フラン悪いがゲートを開く準備だけしていてくれ。侵入時に危険があれば離脱する。例えば攻撃や環境的に生存できない場合は撤退することになる」
「プレキャストして待機します」
おそらく飛空艇を格納する場所なのだろう、何もないところに開口部が構築されて内部が見えてくる。イメージとしては工場のような場所。
白いガイドは幅広くなり機体を腕のように包み込んでいく。
飛空艇は軽い衝撃のあと停止した。
「フラン! 俺が降りて確認する。ゲートはプレキャストで維持していてくれ。状況によりキャンセルで頼む」
「はい、ルーンはどうしましょう?」
「今はいい」
倉庫の中に飛び降りたが、歓迎もなく攻撃される気配さえない。
何も反応はなく、フランを身振りで呼んだ。
「静かすぎる」
「何も気配はないですね。ただ、人形を回収するための準備をしてます」
「回収に何者か来るはずだ。とりあえずルーンに記録しておこう」
フランはマジックバックからルーンを取り出して魔法を唱えた。
これで、ここに戻ってこれる。
侵入するか、回収員を待つか迷ったが、無暗に立ち入って攻撃されるより人形についていくことにした。もしかすると乗組員と顔合わせできるかもしれない。
暇なので、内部を観察している。
見たこともない様式の内装で、質素で無駄がない。光源はどこかわからないが明るく保たれていた。このことから、人と同じ視覚を持つことが推測できる。
温度も我々とさほど違わず同じような活動活性のようだ。
「ライーの話から推測して、人に近いものに適した環境だ。呼吸も問題ない。やや肌寒いくらいか」
「未来の人間の乗り物か住居なのでしょうか?」
「用途は不明だ。ただ、近い年代の建造物ではなさそうだ」
しばらく待っていると回収台、魔導車のようなものが現れた。
俺はフランに合図して回収作業を見つめている。
「尾行するから、はぐれないようにしてくれ」
小声で伝えるとフランはうなずいた。
魔導車からアームが伸びて人形を台の上に固定した。俺達は動き出した車の後を追う。通路が合成されていく様は魔法としか言いようがない。
魔素を全く消費しない未知の魔法。
原理に興味はわくが、確かめられる状況ではない。追跡が優先だ。
構築される通路の構造から、これを作った者の体格は俺達よりも一回りは大きそうだ。少なくとも身長は高いだろう。
一切装飾のない通路が迷路のように生成されて、背後は元の壁に戻っていく。
のんびり追跡していると壁に同化しそうだ。
フランが遅れだしたので、魔素共有するため腕を引いた。
「魔素共有して身体強化する。気持ち悪いだろうが魔素と魔法を受け入れてくれ」
「はい。ありがとうございます。体力が課題ですね……」
「本来、魔導士は侵入などしないからな。気にするな」
フランは身を寄せてくる。
この魔法に距離は関係ないが、行動制御しやすいので受け入れた。
追従しているとやっと大広間に侵入した。
ここが魔導車の目的地のようだ。
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