第36話 遺跡は誘引する

 人形を乗せた魔導車は大広間に侵入して止まる。俺とフランは壁に飲み込まれないように広間に侵入して辺りを窺う。


 広い部屋には作業台や修理工具のようなものが雑然と置かれていた。よく見ると台には故障した同型の人形の他に多様なゴーレムが乗せられている。一部はこちらを認識しているが動けないようで奇妙な行動を止められないようだ。

 その動作は哀れみを誘い直視に耐えない。


 人形が出てくるかと警戒したが何事も起こらない。


「とりあえず、この場所をルーンに記録して、その後で調査する」

「はい」


 フランを連れて見回るが、稼働している人形や人はいない。

 この場所は修理工房のような場所で、人の詰めていた痕跡はあるが、人間の遺体らしきものはなかった。

 不思議なことに清掃されているようで埃ひとつない。

 かえって不気味である。


 人形は稼働しているものは少なく、正常に行動をとれるものはなかった。

 早く言えばスクラップ置き場といった感じだ。



 調査をしても人はいなかった。

 時々人形に遭遇したが、攻撃するでもなく淡々と業務をこなしている。


 この遺跡の構造は、外壁に侵入防止ゾーンか緩衝域として厚い壁があり、内部は工房や指令所のようなセクションがあり普通に移動できる。さらに奥を探索すると階段のようなものが設置してある。ただ、非常用のようで正規の階段らしきものはなかった。


「一度、簡易拠点に戻ろう。食事の時間になったこともあるし」

「そうですね。でも、もう少し……」

「熱心なのは良いことだが、食後に来るとしよう」


 二人で元の位置にゲートで戻り、簡易拠点に戻ることにした。

 サンクチュアリに戻ると雑務をこなさなければならず、面倒なので邪魔の入らぬ簡易拠点にしたのだ。単に横着なだけだ。





 ライーは瞑想、ロセンダは相変わらず元気がなく、フィースは暇なのか質問攻めにされて鬱陶しかった。まあ、遺跡に興味があることは理解できる。

 俺も楽しくてしょうがないのだから。


 食事しながら状況を説明した。

 ライーの情報から神父ジアンニは遺跡の上層に移動しているらしい。どうやって追っているのかは確認できていない。いや、聞けないだけだ。

 食事を終えて遺跡の居住区に全員で潜入する。


 ゲートで普通に遺跡に戻ることができた。

 フィースは浮かれて俺に纏わりつき、ロセンダは死人のように表情が乏しい。ライーは霊とでも交信しているのか瞑想している。


 俺は警戒しているフランに目配せする。

 とりあえず、上に登る階段を使って神父を追うことにした。フランを先頭に他の三名が横に並び、俺が殿を行く。背後が油断ならないから現在の陣形になっている。


「階段を上がりきる前に停止してくれ。そこで、敵がいないか確認してくる」

「付近に生者はいませんから、人工物に注意してください」

「ライーには神父の位置が明確にわかるのか?」

「いえ、大まかな方角です。間接的な情報なので曖昧です」

「大まかでも位置がわかるので、とても助かっている」


 会話していると階段の出口に到着した。

 上階にも進めるが、後から追ってこられた場合に挟み撃ちになるので、このフロアを確認することにした。照明はつけっぱなしで、いつも明るい。

 原理がわからず不気味である。


 俺は内部を探査するが、俺に反応する物はない。

 攻撃的な敵はいないようで、巡回する人形らしきものを確認した。途中で壊れた人形が転がっているため、この世界に転移したときに故障したのかもしれない。


 目的を達成したので皆のもとに戻ることにした。


「ここは先ほどのフロアとそう変わらない。工場と居住区のようで人はいない。人形は攻撃的ではないが数体遭遇した」

「この後どうするの?」


 フィースの質問に考え込んでしまう。

 ただ、いえることは背後を疎かにできない。だから、各フロアを確認しながら移動するほうが無難だ。


「現状維持で確認しながら進もう。早く追いつきたいが、未知の遺跡の内部だ。全滅しては意味がない」

「慎重ね。でも、そこがいいところかも」

「褒めても何もでないぞ」

「ご褒美くれないの? そこがダメなとこよ!」


 俺は無視して次のフロアを調査に行く。


 結局どのフロアも似たようなもので、少数の人形が維持活動するだけで攻撃は一切してこなかった。そんな訳でフロアの構造が変わらなければ素通りするようにした。





 そして、夕方になり本日の探索を終了しようとしていたところ、遺跡に変化が起きる。何かが起動するような音と重低音が響き渡った。


「一度脱出する! フランはゲート頼む。フィースは精霊系系統の召喚」


 皆は指示したとおり動き出し、俺は結界を張って警戒を怠らない。


 フランがゲートを唱え青いエフェクトが浮かび上がる。

 ゲートが繋がった。


 フィースは風の精霊を呼び出して俊敏性を上げてくれる。


「帰還しろ! 俺が最後だ。 ゲートはそのまま維持してくれ」


 俺達は臨時拠点に戻った。

 遺跡を見ると上部の形状が変化して四方に光線を発射している。攻撃というよりもマーカーの類に違いない。灯台のような機能だろう。

 目印を出したこと、それは何かを呼び寄せる可能性が高い。


「バラバラになった破片を回収するようです。霊たちが騒いでいます。そして、神父ジアンニはまだ中にいます」

「何がおきたのか……想像を超えている」

「もう何がおきても驚かないわ!」


 フィースが興奮して俺の肩を叩き、にじり寄ってくる。

 この女何をしたいのか、理解に苦しむやつだ。他の面々は冷静に遺跡を見つめている。轟音がする方向を見るとリング状の物体が飛んできている。

 まだ遠いのに巨大さを把握できてしまう。


「新たな遺跡か?」

「そのようですね。複数向かってきていると霊たちは浮かれ騒いでいます」

「マーカーの数から4基の飛翔体だな」


 もう何が起こっても驚かないと思っていたが、それは予想を超えていた。


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